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王子はムッツリ?
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社交界シーズンが始まる少し前。
アダルベルト殿下と私の婚約が正式に整った。特にまだ発表はしていないにも拘らず、このニュースは一気に広まった。
お昼休みに殿下と食事をしていると、祝ってくれる声や、悔しがっている声が聞こえた。
「今からでも、僕に乗り換えない?殿下なんて腹黒のムッツリだよ」
殿下の友人数名が、隣の席から茶々を入れる。
「誰がムッツリだ」
「腹黒は否定しないんだ」
「それは事実だからな」
悪い顔で返事をする殿下を指さす侯爵令息。
「ほら!こんな奴なんだよ。絶対に僕の方がいいと思うよ」
すると、もう一人の方が鼻で笑った。
「あなたが殿下よりいいという事はあり得ないでしょ。何故なら殿下より人間が出来ているのは私ですから。だからどうです?私にしませんか?幸せにしますよ」
代わるがわるアピールをしてくる方々に笑ってしまう。
「ふふ、ふふふ。皆様楽しい方たちばかりですのね」
笑顔を見た殿下は不機嫌になり、他の面々は上機嫌になる。
「いつでも殿下を捨てていいですからね。待ってますから」
「どうして私が捨てられるんだ?」
殿下が面白くなさそうに文句を言う。
「だって……ムッツリだもん、ねえ」
「だから、ムッツリではないと言っているだろう!」
「ムキになるという事は……やっぱり」
「おまえら~」
はしたないと思いながらも、笑いがとまらなくなってしまう。そんな時、ふと視線を感じた。そちらの方へ顔を向けると、トンマーゾがいた。じっとこちらを見ている。
『私を見ている?』
明らかに視線が合っている気がする。なんとも言えない表情のトンマーゾは、しばらくすると目線を逸らして去って行った。
『なんだったのかしら?』
不思議に思うも、すぐに注意はこちらに戻って、再び楽しい時間を過ごしたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
食堂でマリーアと待ち合わせをしていた。入り口まで行くと、やけに中が賑やかだった。何だろうと覗いてみると目に飛び込んできたのは淡い紫色。サーラだった。アダルベルト殿下と隣同士に座って、その隣の席には友人たちが座っていた。
胸がもやっとした。今朝、出がけに父上からされた話が蘇る。
「サーラはアダルベルト殿下と婚約したそうだ」
「アダルベルト殿下と?」
「ああ。まぁ、以前から殿下がサーラに気があると、城中で噂になっていたからな。殿下自身もお前とサーラの婚約がなくなった瞬間から、自分の気持ちを隠す事もなかったし。当然の結果だろうな」
やっぱり殿下はサーラの事を好きだったんだ。僕はずっと疑っていたんだ。だって留学先からサーラ宛に手紙が何通も来て。サーラは何もないって言っていたけれど、殿下はあの時からずっと好きだったに違いない。僕のサーラなのに……
自分の思考に驚いてしまった。僕のサーラって。もう僕たちは婚約者ではないのに。ただの幼馴染なのに、何を思っているんだ。僕はマリーアと結婚するのに。
そんな事を思い出しながら、ボーっと見ていると、サーラが声をあげて笑っていた。殿下も友人たちも笑っている。なんだかイライラした。サーラは僕が笑わせると一番笑うんだ、おまえたちじゃない。どうしてサーラもあんなに笑ってるんだ。僕が傍にいない事をもっと寂しがれよ。
話の節々で、殿下と目を合わせて微笑むサーラ。違うだろ、サーラは僕を見て微笑むはずだろ。なんだか面白くなくて、僕は食堂から離れた。ちょうどそのタイミングでマリーアがやって来た。
「あら?トンマーゾ様。食堂でお昼は?」
「なんか気分じゃなくなった。カフェに行こう」
有無を言わさず、彼女の手を取り歩き出す。
「どうしたの?トンマーゾ様」
彼女が何か言っているけれど、僕の耳には入らない。僕の中のもやもやは増々広がった。
アダルベルト殿下と私の婚約が正式に整った。特にまだ発表はしていないにも拘らず、このニュースは一気に広まった。
お昼休みに殿下と食事をしていると、祝ってくれる声や、悔しがっている声が聞こえた。
「今からでも、僕に乗り換えない?殿下なんて腹黒のムッツリだよ」
殿下の友人数名が、隣の席から茶々を入れる。
「誰がムッツリだ」
「腹黒は否定しないんだ」
「それは事実だからな」
悪い顔で返事をする殿下を指さす侯爵令息。
「ほら!こんな奴なんだよ。絶対に僕の方がいいと思うよ」
すると、もう一人の方が鼻で笑った。
「あなたが殿下よりいいという事はあり得ないでしょ。何故なら殿下より人間が出来ているのは私ですから。だからどうです?私にしませんか?幸せにしますよ」
代わるがわるアピールをしてくる方々に笑ってしまう。
「ふふ、ふふふ。皆様楽しい方たちばかりですのね」
笑顔を見た殿下は不機嫌になり、他の面々は上機嫌になる。
「いつでも殿下を捨てていいですからね。待ってますから」
「どうして私が捨てられるんだ?」
殿下が面白くなさそうに文句を言う。
「だって……ムッツリだもん、ねえ」
「だから、ムッツリではないと言っているだろう!」
「ムキになるという事は……やっぱり」
「おまえら~」
はしたないと思いながらも、笑いがとまらなくなってしまう。そんな時、ふと視線を感じた。そちらの方へ顔を向けると、トンマーゾがいた。じっとこちらを見ている。
『私を見ている?』
明らかに視線が合っている気がする。なんとも言えない表情のトンマーゾは、しばらくすると目線を逸らして去って行った。
『なんだったのかしら?』
不思議に思うも、すぐに注意はこちらに戻って、再び楽しい時間を過ごしたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
食堂でマリーアと待ち合わせをしていた。入り口まで行くと、やけに中が賑やかだった。何だろうと覗いてみると目に飛び込んできたのは淡い紫色。サーラだった。アダルベルト殿下と隣同士に座って、その隣の席には友人たちが座っていた。
胸がもやっとした。今朝、出がけに父上からされた話が蘇る。
「サーラはアダルベルト殿下と婚約したそうだ」
「アダルベルト殿下と?」
「ああ。まぁ、以前から殿下がサーラに気があると、城中で噂になっていたからな。殿下自身もお前とサーラの婚約がなくなった瞬間から、自分の気持ちを隠す事もなかったし。当然の結果だろうな」
やっぱり殿下はサーラの事を好きだったんだ。僕はずっと疑っていたんだ。だって留学先からサーラ宛に手紙が何通も来て。サーラは何もないって言っていたけれど、殿下はあの時からずっと好きだったに違いない。僕のサーラなのに……
自分の思考に驚いてしまった。僕のサーラって。もう僕たちは婚約者ではないのに。ただの幼馴染なのに、何を思っているんだ。僕はマリーアと結婚するのに。
そんな事を思い出しながら、ボーっと見ていると、サーラが声をあげて笑っていた。殿下も友人たちも笑っている。なんだかイライラした。サーラは僕が笑わせると一番笑うんだ、おまえたちじゃない。どうしてサーラもあんなに笑ってるんだ。僕が傍にいない事をもっと寂しがれよ。
話の節々で、殿下と目を合わせて微笑むサーラ。違うだろ、サーラは僕を見て微笑むはずだろ。なんだか面白くなくて、僕は食堂から離れた。ちょうどそのタイミングでマリーアがやって来た。
「あら?トンマーゾ様。食堂でお昼は?」
「なんか気分じゃなくなった。カフェに行こう」
有無を言わさず、彼女の手を取り歩き出す。
「どうしたの?トンマーゾ様」
彼女が何か言っているけれど、僕の耳には入らない。僕の中のもやもやは増々広がった。
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