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閑話 王弟アルベルト

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「王弟殿下!大変です。
 王女殿下とクリフォード侯爵令嬢が攫われました!」


 近衛騎士が私の執務室に駆け込んで来る。


「……何だって?」

「中庭で遊んでいたらしいのですが、二人に付いていた護衛騎士達は、薬物らしき物で気を失った状態で発見され、王女殿下とクリフォード侯爵令嬢のお姿が消えていたとのことです。
 王宮内を探しておりますが、何の手掛かりもありません。」

「……っ!何てことだ。」


 取り乱しそうになるが、今は落ち着いて指揮を取らなければならない。


「とりあえず、捜索は続けろ!
 すぐに王宮のすべての門を閉じて誰も外に出すな!
 クリフォード侯爵家にもすぐに知らせろ!」

「はい!」


 確か今日は、私の信頼するメイナード卿は休みだった。
 そんな日に二人を攫うなんて、疑いたくはないが、誰かが刺客と繋がっているのではと疑ってしまう。


 そして、その犯人は、クリフォード侯爵が持ってきてくれた魔法具によって、すぐに判明することになるのであった。


「王弟殿下。こちらの魔法具は、エリーゼと親交の深い、ウォーカー商会長からエリーゼに贈られた最新の魔法具です。
 実はこの魔法具は、ネックレスとセットになっていまして、そのネックレスを身に着けていると、ネックレスが記録した映像や音声が、身につけている者の魔力によって、自動でこの水晶の魔法具に送られてくるようです。
 うちの家内は、エリーゼにそのネックレスを着けて送り出しました。
 エリーゼがネックレスを外してなければ、何かが証拠として記録されていると思いまして、ここにくる前に、私と家内で映像を確認してみたのです。
 ……重大な証拠が残っておりました。」

「証拠があるのか?」

「はい。内容が内容ですので、国王陛下と王妃殿下、宰相閣下にも一緒に見て頂きたいと思っております。」

「分かった。」


 急ぎで、陛下と王妃殿下、宰相を呼び、クリフォード侯爵に魔法具を操作してもらいながら、映像を見せてもらうことになった。
 その映像はとても衝撃的なものであった。


 魔法具のネックレスは、リーゼが身につけているので、直接リーゼは映っていなかったのだが、リーゼの声などの音声の他に、リーゼの視線の先にいる人や物は鮮明に映っていた。

 クリスティーナが刺客らしき人物に取り押えられている場面や、刺客が二人を運び出そうとしているところ。


 そして……


『裏の使用人専用の門は、門番が私の配下の者だから、直ぐに逃げられるようにしておいたわ。
 その目障りな女と、王女をさっさと国外に連れて行ってちょうだい。』

『御令嬢。こちらは我が国の次期女王ですよ。
 そして、この令嬢は王女殿下の命の恩人と聞いています。王女殿下が一番信頼しているようなので、専属の侍女として、一緒に連れて行きますよ。』

『そんな女、奴隷にでもしてやればいいわ。』

『ふっ!美しいのに、恐ろしいお方だ。
 まあ、貴女のお陰で、こうやって王女殿下を祖国に連れて帰れるので感謝してますがね。』

『カミラ様、そろそろこの場を離れた方がいいかと。』

『そうね。その女がいなくなったら、王弟殿下も私を見てくれるでしょうから、早く帰って美しくなるための自分磨きでもしようかしら。』

『そうですね。王弟殿下と婚姻したら、私を……』

『ふふっ。可愛いノーマンは私の情夫にしてあげるわ。約束は守るわよ。
 子爵家の次男の貴方とは結婚は無理でも、私の護衛と情夫として側に置いてあげることは出来るから。』

『はい。カミラ様……、愛してます。』

『私もよ。』

『……ここでベタベタしないでもらいたい。
 近衛騎士殿、貴方が警備体制や王宮の通路を教えてくれたお陰で上手くいった。
 謝礼は貴方の住む寮に届けてある。
 では、失礼。』



 気を失ったリーゼは、肩に担がれて運ばれているようで、会話をする者達の顔は映ってなかったが、しっかり音声は記録されていたのだ。
 この音声は、カミラ・マクファーデンと、ノーマン・レストンと、刺客の会話だとハッキリ分かるものであった。
 近衛騎士であるレストン卿と、マクファーデン公爵令嬢が刺客に協力していたという大きな証拠。

 そして刺客は、クリスティーナの命を狙っていたのではなく、次期女王にするために連れて行きたいと言っていた。ということは、ラリーア国の、現国王に反対する勢力の者達だということが考えられる。
 暗殺された前国王に近い者か、クリスティーナを上手く利用して、国の乗っ取りを考える者達だと思われる。


「恐らく刺客は、ラリーア国に向かうために港に向かうはずだ。騎士を港町に向かわせよう。
 港に向かう道には臨時で検問所を開設しろ。
 もしかしたら、王都内にまだ留まっている可能性もある。王都内の警備を強化するように指示を出せ。」

「はい!」


 しかし、二人が見つかったという報告はなく、時間だけが過ぎていくのであった。


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