上 下
65 / 172

新人魔女に届いた蜂蜜色の丸薬(1)

しおりを挟む
 新人魔女のリッカは、いつものようにまだ外が暗いうちに目を覚ました。そして布団の中で身じろぎをする。

(……んっ)

 体が熱い。だが熱ではないようだ。風邪をひいた時特有の寒気もないし、節々に痛みがあるわけでもない。ただ体が重たいのだ。まるで全身に鉛を流し込まれたかのような感覚だ。

 それでもリッカはなんとか起き上がると、カーテンを開ける。すると窓の向こうでは雨が激しく降っていた。ただでさえ体が重くて億劫なのに、雨のせいでさらに憂鬱になる。

 今日はこのまま仕事を休んでしまいたい。リッカはマグノリア魔術工房へ勤め出して、初めてそんなことを思った。

 しかしそうも言っていられない。リッカは重い体に鞭打って、着替えようとクローゼットの取っ手に手をかけた。しかし、へなへなと床に座り込んでしまう。足腰に力が入らない。まるで自分の体が自分のものじゃないみたいだった。

 これはまずいかもしれない。そう思いながら、ベッドまで這っていこうとする。その時、部屋の窓がコツリと鳴った。風で何かぶつかっただけかと思ったが、もう一度音が鳴る。今度はコツコツという音だ。どうやら誰かが外からノックしているらしい。

 こんな明け方に誰が? 

 リッカは働かない頭で考える。

 不審者だろうか。それとも泥棒?

 どちらにせよ怪しいことには変わりない。そもそも、リッカの部屋は二階にある。その窓を叩くなど、明らかに普通ではない。

 リッカはよろめきながら立ち上がると、壁に手をつきつつ、ゆっくりと窓へ向かう――。

 リッカの目に飛び込んできたのは、ずぶ濡れになった一羽の白い鳥の姿だった。フクロウだろうか。

 フクロウは窓ガラスを嘴でつついている。助けて欲しいということだろうか。

 リッカはその意図を測りかねたが、とにかくガラス戸を開けてやった。フクロウがトトッと部屋の中に入る。そしてひと鳴きした。まるで感謝するように。

 リッカはフクロウへ意識を向けつつ、窓を閉める。ずぶ濡れのフクロウは窓際から動こうとはしなかった。閉じた翼からはポタポタと雫が垂れている。

 とりあえずタオルを持ってきて拭いてやったほうがいいだろう。そう思って動こうとした瞬間、くらりと目眩に襲われた。そのまま倒れそうになるところを、なんとか近くの机に手をつくことで支える。

 動こうとしただけでこれだ。やはりおかしい。今日の仕事は諦めたほうが良いだろう。リゼに連絡しなければならない。

「フェン。頼みたいことが……」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,576pt お気に入り:4,879

今宵、鼠の姫は皇子に鳴かされる

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:504pt お気に入り:10

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:211,006pt お気に入り:12,390

ショート朗読シリーズ

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:170pt お気に入り:0

明らかに不倫していますよね?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,286pt お気に入り:116

死が見える…

ホラー / 完結 24h.ポイント:766pt お気に入り:2

詩集「支離滅裂」

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:349pt お気に入り:1

妹が私の婚約者も立場も欲しいらしいので、全てあげようと思います

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,133pt お気に入り:4,009

処理中です...