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Ⅰ章.始まりの街カミエ
25.最弱と言われる魔物……
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暗い灯りに狭い足場。三人の中では最も低い低い身体機能という、中々不利な条件ではあったが、黒い狐面の下で、自分はいつしか笑みを浮かべていた。
普通の道場剣法を修める者達からは、草薙流剣法は邪流と言われ、九条の家系にのみ伝えられて来たのには、いささか訳がある。
明治の世以後、特に戦後の日本では、武道は精神修養に重きを置かれていたが、草薙流剣法は実戦での剣法であり、いわゆる道場剣法ではなかった。
居合いの技は自分が座して襲われたときに、敵の襲撃に対応する術として磨かれた技だと言われている。敵に先手を取られても、攻撃自体を早く当てる。いわゆる『後の先』をとるための技であり、柱の多い建築様式であっても、刀を振る術はいくらでもあるのだ。
左脚を引くと同時に抜刀。
抜かれた刃は、部屋から漏れる青い光を一瞬だけ反射して、自分の身体の幅の中で斜めに斬り上げられる。
そのまま刀を降り下ろすと同時に、右の立て膝状態から左の立て膝状態に......
剣に何かが触れる感触と同時に、やや引きぎみに腕が動くと、あっさりと切り裂かれる。
納刀と同時に再度膝の切り替えをし、自分の正面にある何かに蹴りを叩き込むと、グニャリとした感触が伝わる。反動を利用して身体を後ろへ飛ばせて着地。これで銃があれば二三発鉛弾を叩き込んでやるのだが......
一連の動作で知れただろうが、草薙流は剣法だけではなく、体術や至近距離での銃撃すらも攻撃手段として用いる。邪道と言われる所以だ。もっとも、銃を技に組み込んだのは、じいさんの代からで比較的最近のことだ。
まあ、かの坂本龍馬も北辰一刀流の免許海田をもっていながら、銃も持っていたのは有名なはなしだが、剣の道を究める類の人からすれば、邪道とされるのだろう。まして、うちは一人だけの零細流派にすぎないのだから。
そういった事情もあってか、逃げるのが遅れた自分ではあったが、十分に安全な距離をとれた。ハクも抜刀済みなので、紫陽花さんも加わって、三対一なら余裕だろうと思っていたのだが、ここであっさりと予想を裏切られた。
「ほな、うちは交換続けるさかい、そいつの相手は二人に頼むわ~」
そういうと通路の先へとすたすた歩き去ってしまう。
「ちょっ、一体どこ行くんですか~?!」
後ろを振り返りもせずに言葉をつづけた。
「いけるやろ?
そいつは魔獣の中でも最弱やし、取り込まれても消化されるまでに二時間はかかるもの。
うちは、要石の交換続けてくれくから、二時間くらいよろしなぁ」
歩き去る紫陽花さんの後ろ姿をのんびり見てる余裕はなかった。ぐにんぐにんと擬音が付きそうな動きで、自分に迫るスライムだが、先ほど切りつけた場所は既に跡形もない。
「再生能力? いや、そんな能力を持っていたら最弱じゃないだろ」
距離をとりつつ迫るスライムに切りつけるが、切られた場所は端からゆっくりとつながっていってしまう。考えろ、自分。スライムの弱点ってどこだっけ?
じりじり近寄ってくるスライムを見ていると、通路の反対側にいたハクが動いた。
トトッと軽く助走をすると、ハクはあっさりと二メートル幅の水路を飛び越え、スライムの向こう側二メートルほど先に着地。方向をかえて、スライムに走り寄ると、上段に振りかぶった水晶刀を一気に振り下ろしたのだ。
走り寄るハクに気が付いたのか、スライムは水路に逃げ込もうと体を震わせるが、刀が床に接触する寸前まで振り切られたハクによって両断されたスライムは、半分が水路にぼちゃりと落ち、残りの体(?)の半分は、プルンと震えながら通路へと残される。
「……さすがハクだね、一刀両断かぁ。助かったよ、ありがとう」
自分の言葉に、チンッという音とともに刀を収めたハクが百八十度向きを変えて歩き出した。
「私が、魔物とはいえ最弱と言われているやつに負けるわけはないだろう……」
いつものハクの様子に苦笑しながら、自分もハクの後を追って数歩歩いたその時だった。
激しい水音が再び鳴り響くと、水中から勢いよく飛び出してきたなにかが、自分とハクの中間あたりに現れた。
「ちっ、まだいたか……」
つぶやいたハクの言葉だったが、ここで予想外のことが起きる。
飛び出してきた固まりの大きさは、先ほどの半分ほどにみえたし、ハクと自分の中間に落下すると思われたからあわてる必要はない。
スライムを挟んでそ、同士討ちにならないように(ハクの邪魔をしないように)すればいいだけだと思っていたのだが、首位中から飛び出してきたスライムは、床に着地せずに壁へと届いた。
そして、あろうことか壁面を使って、空手の三角飛びのように、壁面から床、床から獲物のほうへと跳躍したのだ。
そして、悪いことにスライムとともに水路から飛び出した大量の水も、壁面で弾けて一瞬水の王冠のように跳ね上がった。
青いライトだけが光る地下通路、水色(?)と思われるスライムと弾けた水柱。
不運が重なったとはいえ、一瞬動きを見失ってしまったのは、スライムの動きが先ほどよりも遥かに早かったせいだ。
水音に振り向いたハクの足元で弾んだスライムは、次の瞬間ハクの腹へと体当たりを食らわせたのだった……
自分に見えたのは、くの字に体を負ったハクが真後ろへと跳ね飛ぶ姿だった……
普通の道場剣法を修める者達からは、草薙流剣法は邪流と言われ、九条の家系にのみ伝えられて来たのには、いささか訳がある。
明治の世以後、特に戦後の日本では、武道は精神修養に重きを置かれていたが、草薙流剣法は実戦での剣法であり、いわゆる道場剣法ではなかった。
居合いの技は自分が座して襲われたときに、敵の襲撃に対応する術として磨かれた技だと言われている。敵に先手を取られても、攻撃自体を早く当てる。いわゆる『後の先』をとるための技であり、柱の多い建築様式であっても、刀を振る術はいくらでもあるのだ。
左脚を引くと同時に抜刀。
抜かれた刃は、部屋から漏れる青い光を一瞬だけ反射して、自分の身体の幅の中で斜めに斬り上げられる。
そのまま刀を降り下ろすと同時に、右の立て膝状態から左の立て膝状態に......
剣に何かが触れる感触と同時に、やや引きぎみに腕が動くと、あっさりと切り裂かれる。
納刀と同時に再度膝の切り替えをし、自分の正面にある何かに蹴りを叩き込むと、グニャリとした感触が伝わる。反動を利用して身体を後ろへ飛ばせて着地。これで銃があれば二三発鉛弾を叩き込んでやるのだが......
一連の動作で知れただろうが、草薙流は剣法だけではなく、体術や至近距離での銃撃すらも攻撃手段として用いる。邪道と言われる所以だ。もっとも、銃を技に組み込んだのは、じいさんの代からで比較的最近のことだ。
まあ、かの坂本龍馬も北辰一刀流の免許海田をもっていながら、銃も持っていたのは有名なはなしだが、剣の道を究める類の人からすれば、邪道とされるのだろう。まして、うちは一人だけの零細流派にすぎないのだから。
そういった事情もあってか、逃げるのが遅れた自分ではあったが、十分に安全な距離をとれた。ハクも抜刀済みなので、紫陽花さんも加わって、三対一なら余裕だろうと思っていたのだが、ここであっさりと予想を裏切られた。
「ほな、うちは交換続けるさかい、そいつの相手は二人に頼むわ~」
そういうと通路の先へとすたすた歩き去ってしまう。
「ちょっ、一体どこ行くんですか~?!」
後ろを振り返りもせずに言葉をつづけた。
「いけるやろ?
そいつは魔獣の中でも最弱やし、取り込まれても消化されるまでに二時間はかかるもの。
うちは、要石の交換続けてくれくから、二時間くらいよろしなぁ」
歩き去る紫陽花さんの後ろ姿をのんびり見てる余裕はなかった。ぐにんぐにんと擬音が付きそうな動きで、自分に迫るスライムだが、先ほど切りつけた場所は既に跡形もない。
「再生能力? いや、そんな能力を持っていたら最弱じゃないだろ」
距離をとりつつ迫るスライムに切りつけるが、切られた場所は端からゆっくりとつながっていってしまう。考えろ、自分。スライムの弱点ってどこだっけ?
じりじり近寄ってくるスライムを見ていると、通路の反対側にいたハクが動いた。
トトッと軽く助走をすると、ハクはあっさりと二メートル幅の水路を飛び越え、スライムの向こう側二メートルほど先に着地。方向をかえて、スライムに走り寄ると、上段に振りかぶった水晶刀を一気に振り下ろしたのだ。
走り寄るハクに気が付いたのか、スライムは水路に逃げ込もうと体を震わせるが、刀が床に接触する寸前まで振り切られたハクによって両断されたスライムは、半分が水路にぼちゃりと落ち、残りの体(?)の半分は、プルンと震えながら通路へと残される。
「……さすがハクだね、一刀両断かぁ。助かったよ、ありがとう」
自分の言葉に、チンッという音とともに刀を収めたハクが百八十度向きを変えて歩き出した。
「私が、魔物とはいえ最弱と言われているやつに負けるわけはないだろう……」
いつものハクの様子に苦笑しながら、自分もハクの後を追って数歩歩いたその時だった。
激しい水音が再び鳴り響くと、水中から勢いよく飛び出してきたなにかが、自分とハクの中間あたりに現れた。
「ちっ、まだいたか……」
つぶやいたハクの言葉だったが、ここで予想外のことが起きる。
飛び出してきた固まりの大きさは、先ほどの半分ほどにみえたし、ハクと自分の中間に落下すると思われたからあわてる必要はない。
スライムを挟んでそ、同士討ちにならないように(ハクの邪魔をしないように)すればいいだけだと思っていたのだが、首位中から飛び出してきたスライムは、床に着地せずに壁へと届いた。
そして、あろうことか壁面を使って、空手の三角飛びのように、壁面から床、床から獲物のほうへと跳躍したのだ。
そして、悪いことにスライムとともに水路から飛び出した大量の水も、壁面で弾けて一瞬水の王冠のように跳ね上がった。
青いライトだけが光る地下通路、水色(?)と思われるスライムと弾けた水柱。
不運が重なったとはいえ、一瞬動きを見失ってしまったのは、スライムの動きが先ほどよりも遥かに早かったせいだ。
水音に振り向いたハクの足元で弾んだスライムは、次の瞬間ハクの腹へと体当たりを食らわせたのだった……
自分に見えたのは、くの字に体を負ったハクが真後ろへと跳ね飛ぶ姿だった……
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