28 / 31
第二十八話 後戻りはもう、できない
しおりを挟む「お見事! さあ、次はアラス。君の番だ。ガリスたちとアーランが苦しむ番だとは思わないか? 君の両親を殺し、君を虐げた張本人たちだ」
「お前が言うのか......」
「なんだ? 聞こえないぞ」
「お前が言うのか!! ソンネはもう戻ってこない! リーフェの両親も、ユラの両親も。全部、お前が!!」
するとエリスは恍惚とした表情で、俺に手を差し伸べていた。
「死の何が問題なのだ、可愛いアラス。弱き人の死の、何が問題なのだ」
「狂っている......」
「そう言うな。私だって、愉快犯じゃない。人が傷つけば助けたいし、人が死ねば、心だって痛む。それでも、私はやらなければいけないのだ。君のためだ。初めて君を見た時から、君を思い行動してきたんだ。分かってくれるな。君は特別で、人類の代表だ。だから、君のために従者を用意し、君のためにラリアからも救出してあげた、君のために、エミルという花嫁を授けたじゃないか」
エリスはわざとらしく、心臓の鼓動を確かめるように右手を胸部に添えると、まるで自分がこの展開の犠牲者かのように顔をしかめた。
「それに私が、アラス、君を自由にしてあげたのだぞ。もし私がいなければ、君はラリアのアーラン・ラリアの作り上げた世界で、ガラクタとして扱われていただろう」
そう言うと、エリスはアーランの胸部をを魔法の剣先で突っついた。
「そんなわけない」
そんなわけがない。俺たちがアーランに捕らわれた人生を送っていたとして、母上や父上、それに、ユラと協力して、ラリアを抜け出していたはずだ。
「なに?」
「そんなわけがないと言ったんだ。だから、俺はお前に微塵も感謝などしていない!」
するとエリスは腹を抱えて笑い出した。
その不気味な笑い声は場内に響き渡り、反響し、不気味さを増していた。
「アラス。別に私は感謝してほしいわけじゃない。私は、最強のお前がこの世に、私の元に存在していることが望みなのだから」
「一応聞こう。俺を解放し、俺の記憶を取り戻させて、なにをする気だ。最強に何の意味がある?」
「意味などないよ。意味なんてない。ただ、私は弱き人類を捨て、最強の人類へと常に進化させる。それが望みなのだ。今いる人類の大多数はダンジョンから放たれたあれによって、淘汰されるというのもあるが、単純に私は4国を制圧し、強くなれない者は切り捨てる、そうしたいだけだ」
「フォールド! やはり貴様! 秩序を破壊しようとして――」
アーランのその言葉は最後まで続かなかった。エリスはそう言ったアーランの人差し指を斬り落としていた。そんな発言のあとだからか、アーランのその言葉の後にはガリア、ラリア双方からどよめきが起こっていた。
場内のそんなどよめきや、苦しみ悶えるアーランを気にする素振りのないエリスは再び俺を見ると、口を開いた。
「その世界で、アラスはあれと奇跡的な出会いを果たし、最強になれる。誰よりも強く、神話上の神さえも、天さえも恐れることもない存在に。そう、私は確信しているのだよ。いや、願いか」
「それだけか?」
「ああ、それだけさ」
そう言ったエリスの青い目は笑ってなどいなく、まるで人工物のように無機質だった。
そんなエリスの瞳は不気味で恐ろしい。だけど一つだけ、俺たちと共通しているところがある、と思う。
それはリーフェやユラ、エラルド。そんな皆の目と同じで、真っすぐで何かを背負っている目だ。
それだけは一緒だった。だけど、それ以外は全部違う。
エリスはきっと、リーフェの両親が死んだことも、ユラの両親を殺したことも、エラルドの両親を誘惑したことも、ソンネを殺したことも、俺と母上を誘惑したことも、それ以外の人が死んだこともきっと悲しんでなどいない。
それどころか、例えエミルが拷問され苦しんでいたとしても助けないだろうし、自らがその野望のために必要なパーツだったとしても、喜んで自らの命を差し出すだろう。
そんな狂った実力主義の指導者だ。
アーランもまた狂ったように、沢山の人を殺してきたのだろう。自らの権力を守るために、代々続いてきたラリアと言う国を守るために。
そうやって何かのために戦ってきたアーラン・ラリア、エリス・フォールド。
だけど、俺はそんな二人の作り上げた物は許せない。
俺はエリスのその言葉に頷くと、エリスを指さした。エリスを倒すために。
「おお、アラス! やっとやる気になってくれたか」
そう言うと、エリスはアーランを俺たちがいる闘技場中央に、投げ飛ばす。
予定とは違うが、どちらでもいい。俺は縛られたアーランに剣を向けた。
「アラス。私を斬るか」
「ああ」
「そうか。だが、易々とそうさせてたまるか」
アーランはそう言うと、矢継ぎ早に、
「余はこの薄汚いガリア人を全員殺すことを命ず。内外にいるラリアの臣民は、ガリア人を根絶やしにせよ。余の生死を気にせずに戦え!!」
その言葉に、真っ赤に染まったラリア人は貴族、平民関係なしにガリア人を殺そうとしていた。
だが、それもエリスの策によって互角に持ち込まれていた。予めこの状況を予測していたエリスは伏兵をラリアに潜ませていた。真っ赤な服を脱ぐと、そこには青い服が見える。
そんな双方は血生臭い戦いを繰り広げているが、さっきのエリスの言葉のせいか、ラリアの仲間になるもの、逃げだす者も多かった。
「それだけか?」
「ああ、もうよい。さっさと殺せ」
そう言うとアーランは目を伏せた。だから、俺はアーランの顔を上げる。
「その前に一つだけ質問がある。なぜ母上を殺した」
するとアーランは俯いた。その様子は殺したことを後悔しているように見えた。
だが、
「お前の母は遥か東国にある島国の男と結婚したこの国の恥さらしだ。そんな娘など、余にはいない」
「くっ!!」
俺は剣をアーランの首元を少し斬ると、血が首元から滴り落ちていた。
そんな状況だというのにアーランは笑っていた。
「ミレーヌなど余の娘ではない! そして、お前も余の孫ではない! 薄汚い平民共が! さあ、殺せ! どのみち、この世界は終わりだ。余は先に旅立つだけ!」
「アーラン・ラリアァァ!!!」
分かっていた。アーラン・ラリアという人物がどういう人なのかを。
だが、少しだけ期待もしていた。実はなにもかも、事故で、エリスの策略によるものじゃないかって。
だって、アーラン・ラリアは俺の祖父なのだ。
俺は目を伏せながら、大笑いしているアーラン・ラリアの首を思いっ切り刎ねた。
アーランが憎くて首を刎ねたというのに、俺の心は満たされなかった。
殺してしまったんだ。実の祖父を。どんなに事実が残酷だったとしても、殺してしまったんだ。
「アラスくん。私の父はガリア人で迫害されていた。アラス君、ありがとう」
ユラは優しく俺の腕を掴んでいた。
「そうよ、アラス。ここで立ち止まっている場合じゃないわ。それに、あんた一人が背負っているわけじゃないのよ。私達を忘れないで」
リーフェは俺の前に立つと、俺を叱咤激励していた。
「アラス、最後の敵がまだ待っている。さぁ、行こうぜ」
エラルドは笑いながら、手を差し伸べ得ていた。
「そうだな。ありがとうみんな。危うく、こんな場所で立ち止まってしまうところだった」
そうだ。こんな場所で、後悔している暇なんてない。もう後戻りはできない。
俺は再び前を向いた。
0
あなたにおすすめの小説
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
器用貧乏な赤魔道士は、パーティーでの役割を果たしてないと言って追い出されるが…彼の真価を見誤ったメンバーは後にお約束の展開を迎える事になる。
アノマロカリス
ファンタジー
【赤魔道士】
それは…なりたい者が限られる不人気No. 1ジョブである。
剣を持って戦えるが、勇者に比べれば役に立たず…
盾を持ってタンクの役割も出来るが、騎士には敵わず…
攻撃魔法を使えるが、黒魔道士には敵わず…
回復魔法を使えるが、白魔道士には敵わず…
弱体魔法や強化魔法に特化していて、魔法発動が他の魔道士に比べて速いが認知されず…
そして何より、他のジョブに比べて成長が遅いという…
これは一般的な【赤魔道士】の特徴だが、冒険者テクトにはそれが当て嵌まらなかった。
剣で攻撃をすれば勇者より強く…
盾を持てばタンクより役に立ち…
攻撃魔法や回復魔法は確かに本職の者に比べれば若干威力は落ちるが…
それを補えるだけの強化魔法や弱体魔法の効果は絶大で、テクトには無詠唱が使用出来ていた。
Aランクパーティーの勇者達は、テクトの恩恵を受けていた筈なのに…
魔物を楽に倒せるのは、自分達の実力だと勘違いをし…
補助魔法を使われて強化されているのにもかかわらず、無詠唱で発動されている為に…
怪我が少ないのも自分達が強いからと勘違いをしていた。
そしてそんな自信過剰な勇者達は、テクトを役立たずと言って追い出すのだが…
テクトは他のパーティーでも、同じ様に追い出された経験があるので…
追放に対しては食い下がる様な真似はしなかった。
そしてテクトが抜けた勇者パーティーは、敗走を余儀無くされて落ち目を見る事になるのだが…
果たして、勇者パーティーはテクトが大きな存在だったという事に気付くのはいつなのだろうか?
9月21日 HOTランキング2位になりました。
皆様、応援有り難う御座います!
同日、夜21時49分…
HOTランキングで1位になりました!
感無量です、皆様有り難う御座います♪
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる