極道恋事情

一園木蓮

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謀反

33

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 汐留、周邸――。
 プライベートジェットで医療車ごと汐留へと戻った周が意識を取り戻したのは鄧の医務室だった。
「気が付かれましたか? ご気分はいかがです?」
 穏やかな声で話し掛けられて、周はぼんやりとそちらを振り返った。相手は白衣を着た男、聞かずとも医者だろうと分かった。マカオ滞在中にも顔を合わせていたので、この医師のことは覚えていた。
「あ……あ、ここは?」
「日本の東京です。私はあなたの専属医で鄧浩と申します」
「東京……」
「ここはあなたのご自宅の中にある医務室です。ご容態が落ち着かれるまではしばらくここに入院といった形を取らせていただいていますが、経過を見てお部屋の方にも戻れます。もう何も心配はいりませんので、安心してご養生なされてくださいね」
「自宅……」
「ええ、そうです。あなたを見つけた鉱山を出た後、しばらくの間はマカオに滞在していました。ご容態が落ち着かれたのでご自宅へ戻ってきたわけです」
「ここが自宅……なのか? 随分と立派なところのように思えますが……」
 医務室だというここは設備こそ最新のものが揃っているものの、周が休んでいる部屋は造りも豪勢で、まるで高級ホテルの一室のようだ。何も覚えていない周からすれば、ひどく不思議に思えるのだろう。鄧は驚かせないようにゆっくりと言葉を選びながら、必要最小限の経緯を説明した。
 まずは周が現在記憶を失くしているということと、この社を経営していることだけが告げられる。マカオでの滞在中に周隼が父親で、周風が兄だということは伝えていたので、ザッとではあるが生い立ちや名前などは正直に打ち明けていた。
「具合の悪いところはございませんか? 頭が痛いとか怠いなど、どんなことでもご遠慮なさらずにおっしゃってくださいね」
「ああ……気分は悪くない……。ただ何も覚えていないだけです……。ここは東京だということですが、自分がここに住んでいたことすら思い出せない……」
 やはり何も覚えていない様子だ。
「あなたがご記憶を失ったのは薬物を盛られたせいです。薬が切れるまでに時間は掛かると思いますが、私共で薬の成分を分析したところ効果は一生というわけではない可能性が分かりました。慌てずにゆっくり構えていてくだされば、いつかはきっと思い出せる日がきます」
 鄧は心配せずに今はとにかく身体を休めることを第一に考えてくださいと言った。
「少しお待ちになっていてください。今、あなたの秘書をしている御方をお呼びしますね」
 冰は既に社に出ているので、周が目覚めたら声を掛けることになっていたのだ。
「秘書……?」
「ええ、あなたの秘書の方です。彼は今、社の方を切り盛りして頑張ってくださっておられるのですよ」
「俺の……秘書……。俺には秘書がいるの……か?」
 天井を見上げながら呆然とそんなことを呟く。
 しばらくすると血相を変えるようにして飛んできた青年の顔を見た途端に、周はわずかに瞳を見開いた。
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