極道恋事情

一園木蓮

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身代わりの罠

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「チームのヘッドからも通達が入ると思うが、オレたちはメビィの警護については一切関与しない。てめえの身はてめえで守れということだ」
「そんな……」
 企てがすっかりバレてしまったことでメビィは言葉も出ない様子だ。
「それから遼二。お前も脇が甘過ぎる」
 顎先で『立て』と合図すると、メビィには聞こえないように口の動きだけでこう告げた。

(歯を食い縛れ)

 と同時に鐘崎の横っ面に僚一からの重い拳が飛んできた。理由はどうあれ策略に引っ掛かってしまったことへの制裁である。メビィに見せつける為にもこのくらいは致し方ないというところなのだ。
 よろけた鐘崎をすかさず紫月が抱きとめる。この制裁も組の長である僚一の判断だ。庇う言葉を口にしてはならない。鐘崎本人はもちろん紫月もそれを分かっているから口出しはしないものの、無言で亭主を支えるあたりはやはり愛情である。
「よし、遼二。顔を洗ってついて来い。今夜の手順についてミーティングだ。メビィはこのまま部屋へ残り、あとはチームの指示を仰げ」
 僚一はそれだけ告げると早々に鐘崎らを伴って特別室を後にした。



◇    ◇    ◇



「親父、すまなかった。俺の落ち度だ」
 粟津帝斗が用意してくれた別の部屋へと移ると、鐘崎は真っ先にそう言って頭を下げた。
「まあ仕方ない。さっきはあの女の手前、ああするしかなかったが、正直なところお前だけの落ち度とは言い切れん。あのチームと組むことを決めたのはこの俺だからな」
 僚一は自分が殴った息子の頬を気遣いながらも軽く溜め息を落とした。
「だがまあ、女のあしらい方についてはまだまだお前に教えねばならんな」
 そう言って苦笑する。
「紫月もすまねえ……。あんな写真が出回って、おめえを驚かせちまった」
 鐘崎は紫月に要らぬ心配をかけたことにも心痛む思いでいた。
「いいってことよ。お前が俺に隠れて滅多なことするなんて思っちゃいねえ。これは罠に掛けられたなって、真っ先にそう思ったしさ」
 実に理解のある嫁で、鐘崎にしてみればそれだからこそ申し訳ない気持ちでいっぱいにさせられる。
「氷川と冰もすまなかったな」
 鐘崎には彼等が顔を揃えていた時点で、きっと自分や紫月のことを気遣って朝早くから駆け付けてくれたのだろうことが分かっていたのだ。
「構わん。お互い様だ。俺もまさかおめえが進んであんなことをするわけがねえと思ったしな。だてにモテるのも困りものだが、とにかく誤解と分かって良かった。それより今夜の手順はどうする。乗り掛かった船だし、今回の件にはうちの鄧も携わっているからな。俺も力になるぞ」
 頼もしい周の言葉に、鐘崎と紫月はもちろんのこと僚一も有り難くうなずくのだった。
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