極道恋事情

一園木蓮

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ダブルトロア

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 楚光順がなんとか周風と娘の優秦を会わせないようにと心を砕いていた頃――、その思いを踏みにじるような企みが水面下で澱みつつあった。なんと、娘の優秦が元の組織にいた組員たちを抱き込んで、またしても良からぬ企てに手を染めようとしていたからである。
 優秦が声を掛けたのは、父の光順が周ファミリーに与していた頃に部下であった数人の男たちだった。彼らは優秦にそそのかされて周風の婚約者を手篭めにする実行犯に加わった男たちである。
 
 楚光順が束ねていた組織を畳んでヨーロッパへと移住したのをきっかけに、それまで彼の下についていた部下たちも当然のことながら解散を余儀なくされた。
 光順は堅気となって新転地で細々とした事業を始めたわけだが、それまで抱えていた部下たち全員を養う力は持ち合わせていなかった。光順の人柄に惹かれて、どうしても共に歩みたいと言ってくれた側近たち数人だけを連れてヨーロッパへと移り住むことになったのだ。
 それにあぶれた末端の者たちは職探しにも苦労をさせられ、多くは香港の繁華街でチンピラ同然の生活を強いられることとなった。これまでは周ファミリー直下ということで幅を利かせていた者たちも肩身の狭い思いをすることとなり、金銭的にも苦労続きだ。そんな中での周風のウィーン行きは一攫千金のまたとない機会となってしまったわけだ。

「報酬はパパが持ってる絶品の日本刀よ。その他に骨董品の置き物も数点付けるわ。どれも希少価値の高いものだから、上手く売れば大金になるわ。あんたたちの渡航費だってまかなえるし、当分は遊んで暮らせるわよ!」
 そう持ち掛ける優秦に、男たちは半信半疑ながらも心が動いた者もいたようだ。
「親父さんのコレクションなんかを勝手に持ち出して平気なのか? まさか土壇場で裏切るんじゃねえだろうな、嬢さん」
「大丈夫よ! パパは今回あの人がウィーンへ来ることをアタシに内緒にしようとしたんだもの。このくらいの仕打ちは当然よ! それより周風たちのスケジュールをしっかり調べ上げてちょうだい! 泊まるホテルまでは突き止められないとしても、あの人が選びそうなホテルならアタシの方でも目星をつけられるわ。あんたたちは風が誰と一緒に来るのかっていうのを正確に調べ上げてくれるだけでいいわ。こっちに着いてからやってもらう手順はアタシの方で考えとくから!」
 こうして優秦と男たちの間で企てに向けての準備が始まってしまったのだった。
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