極道恋事情

一園木蓮

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封印せし宝物

40(封印せし宝物 完結)

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「なあ、冰。時々思うんだ。もしもあの頃、香港を離れることなくずっと一緒に過ごしていたとしたらどうだったのか――とな」
「白龍……?」
「もしかしたら――俺はもっと早くにお前にプロポーズしていたかも知れんな」
「プロポーズ……!」
 途端に真っ赤に染まった頬の熱を隠すようにモジモジと視線を泳がせる。
「大学を出るまでは――そう、多分あのまま月に何度かはお前に会いに行っていただろうし、仕事に就いてからもそれは変わらなかっただろうとな。ただし、てめえ自身で銭が稼げるようになったことで案外早くにお前と一緒に暮らしたいと考えたんじゃねえかってな」
 その頃には冰も中学に上がっている年頃だ。
「俺も実家を出てお前と黄のじいさんと――それに真田もおそらく一緒だろうな。四人で一つ屋根の下に住んで、お前が修業する頃には結婚したいと言い出したんじゃねえかとな」
 もしも運命がそんなふうにもうひとつの道へ進んでいたとしたら、お前はその申し出を受け入れてくれたか――? はにかみながらもそう訊いてよこした周に、冰は破顔するほどの笑みでクシャクシャにしながらその首筋へと抱きついた。
「もちろんだよ! だって俺、あの頃から白龍のことが大好きで大好きで仕方なかったんだ。あ、でも……」
 あのまま一緒に過ごしていたら、今度はその恋情で苦しんだかもねと言って冰もまたはにかんだ。
「それを言うなら俺の方だな。お前を――家族や兄弟としての愛情を超えて恋愛対象として惚れちまったことを黄のじいさんに何て説明すりゃいいんだと悩んだろうな」
「白龍ったら……! でもそうだね、その時はきっと――真田さんが助け舟を出してくれたかも知れないよね」
「おう、そうだな。真田は頼りになる!」
「だよね。なんて言ったってお父さんだもんね! ねえ白龍、俺たちって頼りになるお父さんがたくさんいて幸せだよね!」
「そうだな。親父に黄のじいさんに真田――。それにカネと一之宮の親父さんたちも俺らの父親みてえなもんだ。皆んなそれぞれにあったかくて、でも厳しいところもあって俺たちのケツを叩いてくれるしな」
 あはははと声を絡ませて朗らかに笑う。

 ねえ、白龍。
 なあ、冰。

 いつから俺のことを好きだった――?

 そんなふうに言いたげな視線が重なって、二人同時に思いきり吹き出してしまった。
「うん、俺はね。多分……初めて会ったあの瞬間から」
「だろうな。俺もそうだったように思うぞ。このボウズは俺のもんだ、誰にも渡してなるもんかと、潜在意識の中でそう決めていたような気がするからな」
「本当?」
「ああ、本当だ!」



 お兄さん!

「お兄さん!」

 ボウズ!

「ボウズ!」

 互いを呼び合うその言葉は、二人にとってかけがえのない宝物。
 遠い日に封印せし大切な思い出をしまい込んだ扉の鍵が今、開く。
 その宝物を胸に、より一層互いを想い、絆を深めた夫婦を祝福するかのように街の灯は煌めき、そして新しい朝が白み始める。

 あなたと俺は、
 お前と俺は、
 唯一無二、一心同体の心を分かち合った何よりも大切な相手。今までも、これからも、ずっとずっと手を離さずに歩いていこう。
 例えばそれが肉体の滅びる死であったとしても、二人を分つことは叶わない。形が無くなっても――心は、魂は、決して離れることがない。
 どんなに険しい道でも、どんなにゆるやかな道でも、繋いだこの手を離さずあなたと共に歩んでいこう。
 どこまでも、
 いつまでも、
 病める時も健やかなる時も永久とこしえに――!

封印せし宝物 - FIN -
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