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2章 粛清と祭
第15話 銀髪の乙女 ※R18シーン無し
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ゆかと一緒に入ると疑われるような気もしたので、先にゆかに入ってもらって、自分は昼の授業が始まるギリギリで席に着くことにした。
13時20分から授業が始まる。
ちょうど5分前の、15分に昇降口へ入ると、他の生徒も教室に急いでいた。
バタバタしている方がこっちに気を取られないので、その方が都合がいい。
ただ、そんな中で、印象的な出来事があった。
なんと言うか、言葉で説明が難しいが、スッと身体が軽くなったような、スッキリして、気持ちが浄化されたような気分になった体験だ。
それは、とある人物との接触だった。
シューズボックスで、靴を履き替えていると、小柄で銀髪の女の子とすれ違った。
皆んなが慌てている中、その子は教室ではなく、職員室へ向かっているようだった。
僕は彼女を一目見て、他の生徒とは違う白いオーラのようなものを感じた。
この感情はなんなのだろう。
僕は声を掛けたいと思ったが、さすがに授業に遅れるとさらに目立ってしまうので、仕方なく教室に急いだ。
⭐︎
「あー、それたぶん、丘乃だよ。丘乃小鳥」
授業終わりに、隣の席のよもぎに聞いてみたら、知っているようだった。
「丘乃さんって言うんだ、びっくりしたよ。すれ違った時に、こう、白いオーラがわわーって、出てたみたいで、目元もキリッとしてるんだけど、そんなにキツい印象も無かったんだ。なんだろう、教会の人みたいな、聖職者ってやつ? そんな感じ」
「オーラねぇ……」
よもぎは彼女の話題に関してイマイチ気分が乗ってないのか、退屈そうに聞いていた。
「なになに? よもぎちゃんと何の話してるの?」
話に乗ってきたゆか。
すると、よもぎが少し不機嫌そうにゆかの方を向いた。
「いやさ、丘乃の話」
「おかの? ことりちゃん?」
「そ、ことりの話」
ゆかも知ってるようだ。意外と学院では有名人なのだろうか?
「ことりちゃんと会ったの?」
ゆかが僕の方を向く。
「うん、ああいうのは銀髪って言うのかな、綺麗な白い髪をしていて、オーラが凄くて、何だろう。天使みたいって言うか」
「天使? また一目惚れ? すぐ女の子のこと好きになるよねセイシくん」
口調は変わらないが何となく威圧感があるゆか。
「違う違う! そういう天使ってことじゃなくて、聖職者、そうそう、シスターみたいな感じ」
「髪が白いからそんな風に見えるってだけじゃなくて?」
「そういうわけじゃないんだよ。なんて説明したら良いんだろう。他の子と雰囲気が違うっていうか、ただの生徒じゃ無い気がしたんだよね」
「で、なんで天使?」
「うーん、本物の天使って感じ」
「私は偽物の天使ってこと?」
ゆかが変な対抗心を燃やしている。
「違うって、天使の意味が」
「どう違うの?」
「まず、ゆかの場合は、すごく可愛いって意味の天使で」
「ほうほう、なるほどですな」
ゆかの口調がふざけている時は、だいたい照れている。
「丘乃さんの場合は、天使という種族みたいな感じ?」
つい、よもぎの方を見てしまう。
「なんで私を見る?私は何にも知らないって」
「ですよね」
ゆかが何とも言えない表情だ。
「本物の天使、か。それってあんまり良くない気がする」
「どうして?」
「ことりちゃん、目的があってこの学院に入学したらしいのよ。先生に聞いたら、特待生なんだって」
「そっか、目的か。内容は2人とも知ってる?」
「知らねー」「私も」
2人とも知らないようだ。
結局は本人から聞くのが一番だろう。
放課後に、少し探してみるか。
あと、ゆかへのお詫びも買わなくてはならない。
アルバイトをどうするかも考えなくては。
⭐︎
放課後。
一応、ゆかに今日、店に行くかどうかを聞いてみたが、よもぎと一緒にやる事があるそうでそのまま別れた。
帰りに、丘乃小鳥がいるAクラスへ向かってみる。
Aクラスは、特進クラスとも呼ばれていて、授業レベルが高いと聞いている。
つまり、特待生である丘乃さんは、当然ながら優等生というわけだ。
竜宮さんもかなり優秀なはずだが、特進クラスからは漏れたと言っていた。
あのオーラは知能指数から出たものなのか?まさかな。
と、Aクラスを覗くと、ちょうど丘乃さんも帰宅する直前だったようだ。鞄を持って、席を立ちかけている。
席の位置は、一番後部座席の、真ん中だ。
それにしても、銀髪のおかげですぐに分かった。あの髪色は天然なのか?
僕は声を掛けてみた。
「丘乃さん!」
ビクっと肩を震わせてこっちを見る。
やはりこの子も整った顔立ちで、美少女だ。ただ、あまり色気は感じない。中学の時のクラス委員の子を思い出した。
彼女は、きょとんとした顔をしている。
「私に何かご用ですか?」
「いや、えっと、丘乃さんに興味があって、ちょっと話をしてみたくて」
なんだかテンパってしまう。急に声を掛けられると、ナンパかと思うよなと、少し心配になった。
「私の時間を使うほどの価値がある話なら聞いても良いですが」
なかなかパンチのある返答だ。
「そうだよね。すいません。少しだけなので」
「少しと言うのは、何分?何時間?私とあなたでは、価値観が違うので、5分か、30分か、1時間かで、答えてください」
「じゃ、じゃあ、30分でお願いします」
「少しじゃないですね。私の言った通りです。受けても良いですが、話の中身によっては、相応の金額を要求します」
「い、一括払いでなければ……金欠なので」
「そう、じゃあ、3ヶ月の期間をあげます。ほら、もう3分経過しています。残り27分ですよ」
焦って冷や汗が出てきた。まさかこんな子だったとは。
「とりあえず、座っても良いですか」
「なら、私も座りますね」
僕は彼女の隣の席に座り、彼女自身も自分の席に座り直した。
「丘乃さんは、ここの特待生、何ですよね?」
「ええ、その通りですが、誰から聞いたのですか」
「えっと、それは、言わないとダメでしょうか」
「金額が2倍になります」
「よもぎちゃんです」
ごめんなさい、よもぎ。
「へー、秋風蓬が?」
「はい」
「あ、悪いのは僕です。無理やり言わせたようなものなので、彼女には何の罪もありません」
「特待生については、公表してますし、学院生であれば、入学名簿を見ればすぐに分かりますよ」
「そっか、良かった」
「ただし、これは入学時に伏せることを希望すれば告知されませんので、もし、あなたがそれを知らなかったとしたら、個人情報を勝手に探ったということになりますが」
「すいません。知りませんでした。僕が勝手に探りました」
「へー、そうでしたか、それは不愉快極まりないですね」
「あの……金額は」
「3倍です」
「ひぇぇ、もうしません」
「今のはジョークです」
「あ、じゃあ、加算は無しってことですね」
「誠意が感じられないので、やはり4倍にします」
「ごめんなさい」
また増えてる!!?
「それで、私に何を聞きたいのですか?」
「えっと、変な事を聞きますが、丘乃さんって、天使ですか?」
ヤバい、テンパってしまって、急に直球の質問をしてしまった。
聞く順番があるだろう。
落ち着いた雰囲気なので、家が聖職者の家系だったりしますか? とか。
「そうですが、それが何か?」
「ごめんなさい、急に天使とか言われて変な、って、えええ!? えええええ!」
びっくりして軽く叫んでしまった。
今、そうですが、って言ったのか。
丘乃さんは、耳を塞いでいる。
「うるさいです。5倍にします。理由は、うるさいからです」
「すいません。まさか、本当に天使だとは思わなかったので」
「で、私が天使だったら、何なんですか?」
「あの、もう一度確認しますが、天使ってのは、比喩ではなく、本当に天使かどうかだったんですが」
「はい。私は天使ですよ。羽根もあります。見たいですか?」
「あの、見ても、大丈夫なんですか?」
「ええ、証拠の一つですので、なにか?」
「いえ、見たら加算されるのであれば、辞めようかと」
「あー、金額のことですか、これは私が勝手にしようとしてることなので、加算しません」
「でしたら、お願いします」
彼女は、立ち上がると、シャツを脱ぐ、すると、上半身はブラジャーになった。
これはこれで加算されるべき内容だよなと、逆にこの部分がオプション料金設定ではないことに驚いた。
というか、そんなことに驚いている暇はない。
なんと、彼女の両肩、まさに肩甲骨のところから白い羽根が綺麗に折り畳まれてお尻の上辺りまで伸びていた。
作り物じゃないことが分かるくらいに、しっかりと存在感を醸し出している。
ピクッと動き、羽根が持ち上がり、両サイドに伸びた。
バサっ、と、左右に開き、まさにその様子は、白鳥が翼を開く時と全く同じだ。
僕は息を呑んだ。
まさか、実在したとは。
天使、という存在が。
彼女は僕の方へ振り返る。
白いブラが正面から丸見えだが、そんなことが小さく感じるくらいの衝撃だ。
彼女が、羽根を軽く動かしながら座り直す。
「信じましたか?」
「はい、ありがとうございます」
「なら、良かったです。他に質問はありますか?」
「あの、その羽根で、空を飛んだりってのは」
「できません」
あ、それは出来ないんだ。天使って、天の使いだから、天に帰ることもできると勝手に思っていた。
「羽根、普段は隠しているんですね」
「はい、邪魔なので」
「天使は大変ですね」
「そんなことはないですよ。鳥は皆んな、普段は羽根をしまって地面を歩いているのです。普通のことです。まぁ、私は飛べないのですが」
「そうでしたか。すいません失礼なことを」
「いえ、これは私が勝手にしたことですので、お気になさらず」
「一応、天使である、丘乃さんに聞きたいのですが、丘乃さんは、哺乳類に属する、人間だと思って良いのですか?それとも、鳥類に近い存在なのですか?はたまた、神のような、神聖な存在なのでしょうか」
「私は天使ですが、鳥類のように卵は産みません。普通に皆さんと同じようにご飯を食べますし、普通にへそもあります。つまり、人間との性交渉で妊娠しますので、完全に哺乳類で、人間です。これで良いですか?」
「名前は、小鳥さんなんですね」
「それは、親が付けましたので」
「ご両親も、天使ですか?」
「いえ、天使は、家系で私だけのようです」
「そんな、突然変異みたいなこと、あるんですね」
「ありますよ、悪魔とおなじです」
「悪魔、あっ!」
「何でしょうか?」
嫌なことに気づいてしまった。
そうだ、ここは、聖天使女学院。
聖天使。
裏ではサキュバス学院なんて言われているが、本当は、本来の意味通り、聖天使女学院なんじゃないだろうか。
もし、そうだとしたら、天使の学院に悪魔、つまり、サキュバスが集められているということは。
「で、他に質問がないのであれば、私はもう行きますが」
「そうだ、お金は、いくらお支払いすれば」
「では、100円の5倍で、500円で」
「安い!!」
思わずそう叫んでしまった。
なんだ、丘乃さん、意外と良い人なのかもしれない。
さっきは、かなり冷徹な印象で、お金まで要求するくらいなのだから、怖い人なのだろうと勝手に勘違いしていた。
考えてみれば、仕事でも無いのに、初対面でそんなに要求するはずはないのだ。
自分のブランディングのためにやっている、趣味の一つなのかもしれない。
そう考えると、彼女のことも可愛く見えてくる。
いくらインテリで、特待生で、天使という種族に属するとはいえ、そんな極端な判断をする人間でもないだろう。
それにしても、本当に天使だとは驚いた。この学院に来てから、何かと驚くことはあったが、どれも、まだ常識の範囲内のことだった。
ある意味、転入して一番の衝撃だ。
今までに起こったことも、たしかに普通ではあり得ないことではあったが、単に性欲が強い女の子がいっぱい居るというだけで、それ以上でも、それ以下でもなかった。
強いて言うなら、香りを嗅ぐと堪らなく興奮してしまうというだけだ。
考えてみれば、発情している女の子からそういう香りがするのは、全然おかしいことではない。
可愛い女の子から良い香りがするは、当然だ。
単なる香水の匂いもあるかもしれないが、普通の男であれば、女の子に発情するのは当たり前なのだ。
色々考えると、今回のこの、天使という存在と出会うことこそ、この学院を象徴する初めての体験になったのではないだろうか。
そう思うと、この学院にどれくらいの天使が存在するのだろう。
少なくとも、僕が裸を見た数名は天使では無かった。
天使のオーラを纏っている者だけが天使なのだとすれば、今のところは丘乃小鳥だけなのだが、これから出会うことはあるのだろうか。
彼女が銀髪というのも気になる。
もし、天使が皆、銀髪という特徴があるとしたら、ほぼ居ないのかもしれない。
ただ、オーラを消して、髪を染めているのだとしたら、分からないかもしれない。
オーラが消えるなんてことがあるのだとしたら、だが。
しかし、気になるのは、このオーラというのは、僕以外にも見えているのだろうか?
見えると言うか、感じ取るという感じだが、できれば仲間を探してみたい。
色々と聞いて回るしかなさそうだ。
「そう思って貰えて良かったです」
彼女は羽根を背中に器用に折り畳むと、シャツを着た。
「あの、最後に聞いてもいいですか?」
「なんでしょう? あなたが聞きたいことは、私が天使かどうかが気になったということだけでは無いのですか?」
「いえ、目的のことです」
「目的?」
「はい、この学院に入った目的です」
「そんなの、決まってるじゃないですか」
決まっているんだと思うと、何故か緊張感が走った。
僕は、ゴクっ、と、唾を飲む。
「この世の悪魔を殲滅するためです」
13時20分から授業が始まる。
ちょうど5分前の、15分に昇降口へ入ると、他の生徒も教室に急いでいた。
バタバタしている方がこっちに気を取られないので、その方が都合がいい。
ただ、そんな中で、印象的な出来事があった。
なんと言うか、言葉で説明が難しいが、スッと身体が軽くなったような、スッキリして、気持ちが浄化されたような気分になった体験だ。
それは、とある人物との接触だった。
シューズボックスで、靴を履き替えていると、小柄で銀髪の女の子とすれ違った。
皆んなが慌てている中、その子は教室ではなく、職員室へ向かっているようだった。
僕は彼女を一目見て、他の生徒とは違う白いオーラのようなものを感じた。
この感情はなんなのだろう。
僕は声を掛けたいと思ったが、さすがに授業に遅れるとさらに目立ってしまうので、仕方なく教室に急いだ。
⭐︎
「あー、それたぶん、丘乃だよ。丘乃小鳥」
授業終わりに、隣の席のよもぎに聞いてみたら、知っているようだった。
「丘乃さんって言うんだ、びっくりしたよ。すれ違った時に、こう、白いオーラがわわーって、出てたみたいで、目元もキリッとしてるんだけど、そんなにキツい印象も無かったんだ。なんだろう、教会の人みたいな、聖職者ってやつ? そんな感じ」
「オーラねぇ……」
よもぎは彼女の話題に関してイマイチ気分が乗ってないのか、退屈そうに聞いていた。
「なになに? よもぎちゃんと何の話してるの?」
話に乗ってきたゆか。
すると、よもぎが少し不機嫌そうにゆかの方を向いた。
「いやさ、丘乃の話」
「おかの? ことりちゃん?」
「そ、ことりの話」
ゆかも知ってるようだ。意外と学院では有名人なのだろうか?
「ことりちゃんと会ったの?」
ゆかが僕の方を向く。
「うん、ああいうのは銀髪って言うのかな、綺麗な白い髪をしていて、オーラが凄くて、何だろう。天使みたいって言うか」
「天使? また一目惚れ? すぐ女の子のこと好きになるよねセイシくん」
口調は変わらないが何となく威圧感があるゆか。
「違う違う! そういう天使ってことじゃなくて、聖職者、そうそう、シスターみたいな感じ」
「髪が白いからそんな風に見えるってだけじゃなくて?」
「そういうわけじゃないんだよ。なんて説明したら良いんだろう。他の子と雰囲気が違うっていうか、ただの生徒じゃ無い気がしたんだよね」
「で、なんで天使?」
「うーん、本物の天使って感じ」
「私は偽物の天使ってこと?」
ゆかが変な対抗心を燃やしている。
「違うって、天使の意味が」
「どう違うの?」
「まず、ゆかの場合は、すごく可愛いって意味の天使で」
「ほうほう、なるほどですな」
ゆかの口調がふざけている時は、だいたい照れている。
「丘乃さんの場合は、天使という種族みたいな感じ?」
つい、よもぎの方を見てしまう。
「なんで私を見る?私は何にも知らないって」
「ですよね」
ゆかが何とも言えない表情だ。
「本物の天使、か。それってあんまり良くない気がする」
「どうして?」
「ことりちゃん、目的があってこの学院に入学したらしいのよ。先生に聞いたら、特待生なんだって」
「そっか、目的か。内容は2人とも知ってる?」
「知らねー」「私も」
2人とも知らないようだ。
結局は本人から聞くのが一番だろう。
放課後に、少し探してみるか。
あと、ゆかへのお詫びも買わなくてはならない。
アルバイトをどうするかも考えなくては。
⭐︎
放課後。
一応、ゆかに今日、店に行くかどうかを聞いてみたが、よもぎと一緒にやる事があるそうでそのまま別れた。
帰りに、丘乃小鳥がいるAクラスへ向かってみる。
Aクラスは、特進クラスとも呼ばれていて、授業レベルが高いと聞いている。
つまり、特待生である丘乃さんは、当然ながら優等生というわけだ。
竜宮さんもかなり優秀なはずだが、特進クラスからは漏れたと言っていた。
あのオーラは知能指数から出たものなのか?まさかな。
と、Aクラスを覗くと、ちょうど丘乃さんも帰宅する直前だったようだ。鞄を持って、席を立ちかけている。
席の位置は、一番後部座席の、真ん中だ。
それにしても、銀髪のおかげですぐに分かった。あの髪色は天然なのか?
僕は声を掛けてみた。
「丘乃さん!」
ビクっと肩を震わせてこっちを見る。
やはりこの子も整った顔立ちで、美少女だ。ただ、あまり色気は感じない。中学の時のクラス委員の子を思い出した。
彼女は、きょとんとした顔をしている。
「私に何かご用ですか?」
「いや、えっと、丘乃さんに興味があって、ちょっと話をしてみたくて」
なんだかテンパってしまう。急に声を掛けられると、ナンパかと思うよなと、少し心配になった。
「私の時間を使うほどの価値がある話なら聞いても良いですが」
なかなかパンチのある返答だ。
「そうだよね。すいません。少しだけなので」
「少しと言うのは、何分?何時間?私とあなたでは、価値観が違うので、5分か、30分か、1時間かで、答えてください」
「じゃ、じゃあ、30分でお願いします」
「少しじゃないですね。私の言った通りです。受けても良いですが、話の中身によっては、相応の金額を要求します」
「い、一括払いでなければ……金欠なので」
「そう、じゃあ、3ヶ月の期間をあげます。ほら、もう3分経過しています。残り27分ですよ」
焦って冷や汗が出てきた。まさかこんな子だったとは。
「とりあえず、座っても良いですか」
「なら、私も座りますね」
僕は彼女の隣の席に座り、彼女自身も自分の席に座り直した。
「丘乃さんは、ここの特待生、何ですよね?」
「ええ、その通りですが、誰から聞いたのですか」
「えっと、それは、言わないとダメでしょうか」
「金額が2倍になります」
「よもぎちゃんです」
ごめんなさい、よもぎ。
「へー、秋風蓬が?」
「はい」
「あ、悪いのは僕です。無理やり言わせたようなものなので、彼女には何の罪もありません」
「特待生については、公表してますし、学院生であれば、入学名簿を見ればすぐに分かりますよ」
「そっか、良かった」
「ただし、これは入学時に伏せることを希望すれば告知されませんので、もし、あなたがそれを知らなかったとしたら、個人情報を勝手に探ったということになりますが」
「すいません。知りませんでした。僕が勝手に探りました」
「へー、そうでしたか、それは不愉快極まりないですね」
「あの……金額は」
「3倍です」
「ひぇぇ、もうしません」
「今のはジョークです」
「あ、じゃあ、加算は無しってことですね」
「誠意が感じられないので、やはり4倍にします」
「ごめんなさい」
また増えてる!!?
「それで、私に何を聞きたいのですか?」
「えっと、変な事を聞きますが、丘乃さんって、天使ですか?」
ヤバい、テンパってしまって、急に直球の質問をしてしまった。
聞く順番があるだろう。
落ち着いた雰囲気なので、家が聖職者の家系だったりしますか? とか。
「そうですが、それが何か?」
「ごめんなさい、急に天使とか言われて変な、って、えええ!? えええええ!」
びっくりして軽く叫んでしまった。
今、そうですが、って言ったのか。
丘乃さんは、耳を塞いでいる。
「うるさいです。5倍にします。理由は、うるさいからです」
「すいません。まさか、本当に天使だとは思わなかったので」
「で、私が天使だったら、何なんですか?」
「あの、もう一度確認しますが、天使ってのは、比喩ではなく、本当に天使かどうかだったんですが」
「はい。私は天使ですよ。羽根もあります。見たいですか?」
「あの、見ても、大丈夫なんですか?」
「ええ、証拠の一つですので、なにか?」
「いえ、見たら加算されるのであれば、辞めようかと」
「あー、金額のことですか、これは私が勝手にしようとしてることなので、加算しません」
「でしたら、お願いします」
彼女は、立ち上がると、シャツを脱ぐ、すると、上半身はブラジャーになった。
これはこれで加算されるべき内容だよなと、逆にこの部分がオプション料金設定ではないことに驚いた。
というか、そんなことに驚いている暇はない。
なんと、彼女の両肩、まさに肩甲骨のところから白い羽根が綺麗に折り畳まれてお尻の上辺りまで伸びていた。
作り物じゃないことが分かるくらいに、しっかりと存在感を醸し出している。
ピクッと動き、羽根が持ち上がり、両サイドに伸びた。
バサっ、と、左右に開き、まさにその様子は、白鳥が翼を開く時と全く同じだ。
僕は息を呑んだ。
まさか、実在したとは。
天使、という存在が。
彼女は僕の方へ振り返る。
白いブラが正面から丸見えだが、そんなことが小さく感じるくらいの衝撃だ。
彼女が、羽根を軽く動かしながら座り直す。
「信じましたか?」
「はい、ありがとうございます」
「なら、良かったです。他に質問はありますか?」
「あの、その羽根で、空を飛んだりってのは」
「できません」
あ、それは出来ないんだ。天使って、天の使いだから、天に帰ることもできると勝手に思っていた。
「羽根、普段は隠しているんですね」
「はい、邪魔なので」
「天使は大変ですね」
「そんなことはないですよ。鳥は皆んな、普段は羽根をしまって地面を歩いているのです。普通のことです。まぁ、私は飛べないのですが」
「そうでしたか。すいません失礼なことを」
「いえ、これは私が勝手にしたことですので、お気になさらず」
「一応、天使である、丘乃さんに聞きたいのですが、丘乃さんは、哺乳類に属する、人間だと思って良いのですか?それとも、鳥類に近い存在なのですか?はたまた、神のような、神聖な存在なのでしょうか」
「私は天使ですが、鳥類のように卵は産みません。普通に皆さんと同じようにご飯を食べますし、普通にへそもあります。つまり、人間との性交渉で妊娠しますので、完全に哺乳類で、人間です。これで良いですか?」
「名前は、小鳥さんなんですね」
「それは、親が付けましたので」
「ご両親も、天使ですか?」
「いえ、天使は、家系で私だけのようです」
「そんな、突然変異みたいなこと、あるんですね」
「ありますよ、悪魔とおなじです」
「悪魔、あっ!」
「何でしょうか?」
嫌なことに気づいてしまった。
そうだ、ここは、聖天使女学院。
聖天使。
裏ではサキュバス学院なんて言われているが、本当は、本来の意味通り、聖天使女学院なんじゃないだろうか。
もし、そうだとしたら、天使の学院に悪魔、つまり、サキュバスが集められているということは。
「で、他に質問がないのであれば、私はもう行きますが」
「そうだ、お金は、いくらお支払いすれば」
「では、100円の5倍で、500円で」
「安い!!」
思わずそう叫んでしまった。
なんだ、丘乃さん、意外と良い人なのかもしれない。
さっきは、かなり冷徹な印象で、お金まで要求するくらいなのだから、怖い人なのだろうと勝手に勘違いしていた。
考えてみれば、仕事でも無いのに、初対面でそんなに要求するはずはないのだ。
自分のブランディングのためにやっている、趣味の一つなのかもしれない。
そう考えると、彼女のことも可愛く見えてくる。
いくらインテリで、特待生で、天使という種族に属するとはいえ、そんな極端な判断をする人間でもないだろう。
それにしても、本当に天使だとは驚いた。この学院に来てから、何かと驚くことはあったが、どれも、まだ常識の範囲内のことだった。
ある意味、転入して一番の衝撃だ。
今までに起こったことも、たしかに普通ではあり得ないことではあったが、単に性欲が強い女の子がいっぱい居るというだけで、それ以上でも、それ以下でもなかった。
強いて言うなら、香りを嗅ぐと堪らなく興奮してしまうというだけだ。
考えてみれば、発情している女の子からそういう香りがするのは、全然おかしいことではない。
可愛い女の子から良い香りがするは、当然だ。
単なる香水の匂いもあるかもしれないが、普通の男であれば、女の子に発情するのは当たり前なのだ。
色々考えると、今回のこの、天使という存在と出会うことこそ、この学院を象徴する初めての体験になったのではないだろうか。
そう思うと、この学院にどれくらいの天使が存在するのだろう。
少なくとも、僕が裸を見た数名は天使では無かった。
天使のオーラを纏っている者だけが天使なのだとすれば、今のところは丘乃小鳥だけなのだが、これから出会うことはあるのだろうか。
彼女が銀髪というのも気になる。
もし、天使が皆、銀髪という特徴があるとしたら、ほぼ居ないのかもしれない。
ただ、オーラを消して、髪を染めているのだとしたら、分からないかもしれない。
オーラが消えるなんてことがあるのだとしたら、だが。
しかし、気になるのは、このオーラというのは、僕以外にも見えているのだろうか?
見えると言うか、感じ取るという感じだが、できれば仲間を探してみたい。
色々と聞いて回るしかなさそうだ。
「そう思って貰えて良かったです」
彼女は羽根を背中に器用に折り畳むと、シャツを着た。
「あの、最後に聞いてもいいですか?」
「なんでしょう? あなたが聞きたいことは、私が天使かどうかが気になったということだけでは無いのですか?」
「いえ、目的のことです」
「目的?」
「はい、この学院に入った目的です」
「そんなの、決まってるじゃないですか」
決まっているんだと思うと、何故か緊張感が走った。
僕は、ゴクっ、と、唾を飲む。
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