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本編
21 常連目指すのもいいかも
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「いらっしゃいませ。あ、こんにちは、三田さん、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
ベルのちりりんと可愛い音と共に店の中へ入ると、笑顔で迎えてくれたのは彩ちゃんの旦那様だった。確か名前は浩介さん。宗司さんと変わらない程の高身長で、カフェスタイルがばっちりな優しそうなイケメンさんだ。
「先日は有難うございました」
「いえ、こちらこそ有難うございます。わざわざ来ていただいて。彩華さんはもう来ると思いますから、こちらへ掛けてお待ちください」
環菜はすぐ傍のテーブル席へと案内された。
「はい。あ、実は今日もう一人増えまして・・・」
後ろを振り返ると、丁度宗司さんがドアを開けて入ってきたところだった。
「こんにちは、先日はどうも有難うございました。今日は豆を買いに来ました」
「こんにちは、木槌さん。こちらこそ有難うございます。豆はお持ち帰りで宜しいですか?」
「はい、お願いします」
「では、こちらで豆を選んでいただいて宜しいですか?」
そういって宗司さんと彩ちゃんの旦那様は私達が入ってきたドアと反対にあるドアの奥へと向かって行った。
(私もどんな豆があるのか見てこようっと)
環菜は椅子に腰掛ける前に広い背中を追いかけて店内の見学へと向かった。
クレマチスの外観はコンクリートの打ちっぱなしだったが、店内の壁は白を基調としていて、数個の観葉植物の他、コーヒー茶碗、小物も配置良く棚に飾られて雰囲気がいい。私好みだ。
店内はカウンター席が4つとテーブルが3つで奥の壁に長椅子が置かれている。10人程の客席とこじんまりとしている。
環菜が入ってきた入り口から左の奥の壁には大きなガラス瓶が木で作られた棚に沢山並べられており、瓶の中にはコーヒーが入っている。瓶一つ一つには、コーヒーの種類・産地・特徴などが書かれたラベルが付けられており分かりやすい。コーヒーをメインに販売しているが、簡単な食事も提供しているらしく、レジ横にクッキー等の焼き菓子が並べられ、その横にはサンドイッチがあったらしい空間にサンドイッチ完売しましたとの札が置かれていた。
キッチンの中にもう一人従業員の人がいて、顔を確かめると彩ちゃんから居ると聞いていたみうちゃんその人だった。
「みうちゃん、久しぶり~。元気してた?」
「わっ、環菜ちゃんだ。本当に来てくれたんだぁ。うん、元気元気!」
カップを拭いていた手を止めたみうは花がぱぁぁぁっと広がるような笑顔で迎えてくれた。
うん、昔と変わらない笑顔だなぁ。その笑顔にほっこりとした。
取り敢えず喉が渇いていたので、まだ豆を選んでいる宗司さんの分と私のコーヒーに焼き菓子をプラスして注文した。
最初に案内された席へと私が座ると、宗司さんも希望の豆を頼み終わったらしく同じテーブルに着いた。
「宗司さんの分のコーヒー、勝手に頼んじゃいました。ホットにしちゃったけど良かった?」
「ああ、構わない。有難う」
良かった。
コーヒーが運ばれて来るまで店のあちこちを眺めていた。うん、割と小さいお店だけれどほんと素敵。宗司さんも何度も足を運んでいるというからきっとコーヒーも美味しいのだろう。
それから暫くしてトレイにコーヒーと焼き菓子を乗せて運んできたのはみうちゃんだった。
「お待たせしましたー」
「有難う。あ、みうちゃん、こちら同じ会社の木槌さん。私の上司なの」
「木槌です。いつもお世話になっております」
「あ、こちらこそいつも有難うございます。改めまして、前原です。何度か来られているのでお顔は知っていましたけど、まさか環菜ちゃんと同じ会社の人だったとは思いませんでした」
「それは私も同じです」
宗司さんとみうちゃんはその偶然を面白がっていた。
互いに紹介を終えたところでそれぞれの目の前にコーヒーが置かれた。
カップを移動したその後からふわっといい香りが遅れて漂ってきた。店に入ったときにもいい香りと思ったが、やっぱり実物からの方が香りの強さが違った。その香りに誘われて、息を吹きかけてからさっそく一口飲んでみた。
「あ、おいし」
普段飲んでいるのはインスタントが多いんだけど、やっぱり豆から淹れたコーヒーは美味しいな。香りは勿論の事、こんなに濃いのにさらっと飲めてしまう。
「でしょ!?うちのマスターが心を込めて自家焙煎した豆だからね」
帰りに自宅用の買っちゃおうかなー。うーん、迷う。
「それにしてもみうちゃんここで働いてたんだぁ。知らなかったー、知ってればもっと早くからここに通い詰めてたのに」
昼休憩は時間と距離的に無理だろうが、仕事帰りなら全然OK、近くていい場所だ。コーヒーも美味しいし、店の雰囲気はいいし、友達は居るし。勿体ないことをした気分だ。
「苦しゅうない。今からでも遅くはないぞ。明日から日参すればよい」
時代劇がかったセリフ回しに思わず私はぷぷっと噴出した。宗司さんは口元を手で隠して笑いを堪えてる。
「承知つかまつりました。---って毎日はいくら何でも無理だから。でも絶対また来るからね」
同じ調子で返すと、みうちゃんも笑ってくれた。なんだか昔に戻った気分になった。
「うん、待ってるからね。ところでさぁ、木槌さんって環菜ちゃんの彼氏?それとも・・・私が知らないだけで結婚したの?その左手の指輪がすっごい気になるんだけどっ」
昔からの友達は遠慮というものがない。期待にみちたその目の輝きが半端ない。
椿といい、高須さんといい、皆見るとこ細かいな!よくこんな一瞬で気が付くよ。私には到底真似出来ない芸当だ。
「うっ、彼氏、です。だって付き合い始めてまだ4日だよ!?いくらなんでも無理無理」
結婚なんてまだ考えられないよ。
宗司さんにはプロポーズされちゃってるけど、黙っておこう。言うと色々大変な事になりそうだし。絶対にきやーきゃはしゃぐに違いないんだから。
「えっ、まだそんなに付き合い始めたばっかりなんだ」
付き合ってまだ片手で足りる日数にみうちゃんは驚いていた。
「でも私は彼女といつ結婚してもいいと思ってますよ」
と、宗司さんは私の方を見つめながら愛おし気な顔で付き合い初日と同じセリフの爆弾発言をここでもいい放った。
「ぎゃーっっっ、宗司さん何言ってるんですかっ。それはまだ返事待ってくれるっていう約束でしょうっ!?」
もーっ、もーっっっっ、宗司さんってば!言わなきゃ分からないことをっっ!
「きゃーっっっ、凄いっ、素敵っ。木槌さん、私環菜ちゃんと上手くいくよう応援してますねっ」
「それは有難う」
予想通りにみうちやんはハイテンション、宗司さんはこの上なく機嫌が良さそうだ。
疲れを感じた環菜は二人を見ていられなくて視線を外した。見た先は環菜達が入ってきたのとは反対の入り口のドアの前。そこに黒い猫がちょこんと座って佇んでいる。しかも店の内側に。
「・・・猫がいる・・・」
飲食店内にいいのか!?と思ったのだが、そういえば前に会った時猫がいると言っていたなとことをぼんやりと思い出した。みうちゃんは特に慌てることもなく説明してくれた。
「ああ、あの猫はくろちゃんと言ってうちの看板猫なの。もうすぐ彩ちゃん帰って来るっていう合図なの」
「えっ、猫ってそんなこと出来たっけ?」
犬なら玄関先で主人を待つというのを聞いたことはあるけれど、猫もなんだ!?と驚いた。
「くろちゃんは特別♪」
そうみうが言い終わると同時に本当に彩華の姿が扉のガラスの向こう側に見えた。
「凄い、ほんとだ」
「でしょう?」
満面の笑みを浮かべながら得意げにみうは胸を張っていた。
ベルのちりりんと可愛い音と共に店の中へ入ると、笑顔で迎えてくれたのは彩ちゃんの旦那様だった。確か名前は浩介さん。宗司さんと変わらない程の高身長で、カフェスタイルがばっちりな優しそうなイケメンさんだ。
「先日は有難うございました」
「いえ、こちらこそ有難うございます。わざわざ来ていただいて。彩華さんはもう来ると思いますから、こちらへ掛けてお待ちください」
環菜はすぐ傍のテーブル席へと案内された。
「はい。あ、実は今日もう一人増えまして・・・」
後ろを振り返ると、丁度宗司さんがドアを開けて入ってきたところだった。
「こんにちは、先日はどうも有難うございました。今日は豆を買いに来ました」
「こんにちは、木槌さん。こちらこそ有難うございます。豆はお持ち帰りで宜しいですか?」
「はい、お願いします」
「では、こちらで豆を選んでいただいて宜しいですか?」
そういって宗司さんと彩ちゃんの旦那様は私達が入ってきたドアと反対にあるドアの奥へと向かって行った。
(私もどんな豆があるのか見てこようっと)
環菜は椅子に腰掛ける前に広い背中を追いかけて店内の見学へと向かった。
クレマチスの外観はコンクリートの打ちっぱなしだったが、店内の壁は白を基調としていて、数個の観葉植物の他、コーヒー茶碗、小物も配置良く棚に飾られて雰囲気がいい。私好みだ。
店内はカウンター席が4つとテーブルが3つで奥の壁に長椅子が置かれている。10人程の客席とこじんまりとしている。
環菜が入ってきた入り口から左の奥の壁には大きなガラス瓶が木で作られた棚に沢山並べられており、瓶の中にはコーヒーが入っている。瓶一つ一つには、コーヒーの種類・産地・特徴などが書かれたラベルが付けられており分かりやすい。コーヒーをメインに販売しているが、簡単な食事も提供しているらしく、レジ横にクッキー等の焼き菓子が並べられ、その横にはサンドイッチがあったらしい空間にサンドイッチ完売しましたとの札が置かれていた。
キッチンの中にもう一人従業員の人がいて、顔を確かめると彩ちゃんから居ると聞いていたみうちゃんその人だった。
「みうちゃん、久しぶり~。元気してた?」
「わっ、環菜ちゃんだ。本当に来てくれたんだぁ。うん、元気元気!」
カップを拭いていた手を止めたみうは花がぱぁぁぁっと広がるような笑顔で迎えてくれた。
うん、昔と変わらない笑顔だなぁ。その笑顔にほっこりとした。
取り敢えず喉が渇いていたので、まだ豆を選んでいる宗司さんの分と私のコーヒーに焼き菓子をプラスして注文した。
最初に案内された席へと私が座ると、宗司さんも希望の豆を頼み終わったらしく同じテーブルに着いた。
「宗司さんの分のコーヒー、勝手に頼んじゃいました。ホットにしちゃったけど良かった?」
「ああ、構わない。有難う」
良かった。
コーヒーが運ばれて来るまで店のあちこちを眺めていた。うん、割と小さいお店だけれどほんと素敵。宗司さんも何度も足を運んでいるというからきっとコーヒーも美味しいのだろう。
それから暫くしてトレイにコーヒーと焼き菓子を乗せて運んできたのはみうちゃんだった。
「お待たせしましたー」
「有難う。あ、みうちゃん、こちら同じ会社の木槌さん。私の上司なの」
「木槌です。いつもお世話になっております」
「あ、こちらこそいつも有難うございます。改めまして、前原です。何度か来られているのでお顔は知っていましたけど、まさか環菜ちゃんと同じ会社の人だったとは思いませんでした」
「それは私も同じです」
宗司さんとみうちゃんはその偶然を面白がっていた。
互いに紹介を終えたところでそれぞれの目の前にコーヒーが置かれた。
カップを移動したその後からふわっといい香りが遅れて漂ってきた。店に入ったときにもいい香りと思ったが、やっぱり実物からの方が香りの強さが違った。その香りに誘われて、息を吹きかけてからさっそく一口飲んでみた。
「あ、おいし」
普段飲んでいるのはインスタントが多いんだけど、やっぱり豆から淹れたコーヒーは美味しいな。香りは勿論の事、こんなに濃いのにさらっと飲めてしまう。
「でしょ!?うちのマスターが心を込めて自家焙煎した豆だからね」
帰りに自宅用の買っちゃおうかなー。うーん、迷う。
「それにしてもみうちゃんここで働いてたんだぁ。知らなかったー、知ってればもっと早くからここに通い詰めてたのに」
昼休憩は時間と距離的に無理だろうが、仕事帰りなら全然OK、近くていい場所だ。コーヒーも美味しいし、店の雰囲気はいいし、友達は居るし。勿体ないことをした気分だ。
「苦しゅうない。今からでも遅くはないぞ。明日から日参すればよい」
時代劇がかったセリフ回しに思わず私はぷぷっと噴出した。宗司さんは口元を手で隠して笑いを堪えてる。
「承知つかまつりました。---って毎日はいくら何でも無理だから。でも絶対また来るからね」
同じ調子で返すと、みうちゃんも笑ってくれた。なんだか昔に戻った気分になった。
「うん、待ってるからね。ところでさぁ、木槌さんって環菜ちゃんの彼氏?それとも・・・私が知らないだけで結婚したの?その左手の指輪がすっごい気になるんだけどっ」
昔からの友達は遠慮というものがない。期待にみちたその目の輝きが半端ない。
椿といい、高須さんといい、皆見るとこ細かいな!よくこんな一瞬で気が付くよ。私には到底真似出来ない芸当だ。
「うっ、彼氏、です。だって付き合い始めてまだ4日だよ!?いくらなんでも無理無理」
結婚なんてまだ考えられないよ。
宗司さんにはプロポーズされちゃってるけど、黙っておこう。言うと色々大変な事になりそうだし。絶対にきやーきゃはしゃぐに違いないんだから。
「えっ、まだそんなに付き合い始めたばっかりなんだ」
付き合ってまだ片手で足りる日数にみうちゃんは驚いていた。
「でも私は彼女といつ結婚してもいいと思ってますよ」
と、宗司さんは私の方を見つめながら愛おし気な顔で付き合い初日と同じセリフの爆弾発言をここでもいい放った。
「ぎゃーっっっ、宗司さん何言ってるんですかっ。それはまだ返事待ってくれるっていう約束でしょうっ!?」
もーっ、もーっっっっ、宗司さんってば!言わなきゃ分からないことをっっ!
「きゃーっっっ、凄いっ、素敵っ。木槌さん、私環菜ちゃんと上手くいくよう応援してますねっ」
「それは有難う」
予想通りにみうちやんはハイテンション、宗司さんはこの上なく機嫌が良さそうだ。
疲れを感じた環菜は二人を見ていられなくて視線を外した。見た先は環菜達が入ってきたのとは反対の入り口のドアの前。そこに黒い猫がちょこんと座って佇んでいる。しかも店の内側に。
「・・・猫がいる・・・」
飲食店内にいいのか!?と思ったのだが、そういえば前に会った時猫がいると言っていたなとことをぼんやりと思い出した。みうちゃんは特に慌てることもなく説明してくれた。
「ああ、あの猫はくろちゃんと言ってうちの看板猫なの。もうすぐ彩ちゃん帰って来るっていう合図なの」
「えっ、猫ってそんなこと出来たっけ?」
犬なら玄関先で主人を待つというのを聞いたことはあるけれど、猫もなんだ!?と驚いた。
「くろちゃんは特別♪」
そうみうが言い終わると同時に本当に彩華の姿が扉のガラスの向こう側に見えた。
「凄い、ほんとだ」
「でしょう?」
満面の笑みを浮かべながら得意げにみうは胸を張っていた。
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