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第二章 側妃問題はそっちのけでイチャつきたい!

44.ブラン皇子との手合わせ

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「改めてディア王女とルーセウス王子の出会いについて教えていただきたいですわ」

にこやかに口火を切るローズマリー皇女にディア王女が笑顔で答える。

「出会いは単純ですわ。ディオに会いにルーセウス王子がワイバーンでやってきた際に出迎えた日が最初です。あの日私は運命を感じましたわ」

ああ、あの条件を提示された日か。
確かにあの日が出会いではある。

「そうだな。あの日は衝撃的だった」

ディオを愛してるかどうか聞かれたんだよな。
まだそれほど経ってないが、随分前のような気もする。
それだけ今が幸せということだが。

「まあ!お互いに一目惚れだったんですか?それは素敵ですわね」
「ええ。思わずその日のうちに婚約を願い出るほどには」
「い、いつだ?!」
「ミラルカのパーティーより少し前くらいですわ。颯爽とワイバーンから降り立った姿を見て、後光がさして見えましたの。まるで太陽のように眩しかったですわ」

単に真っ昼間にやってきたから、逆光が眩しかっただけじゃないか?
尤もらしい言いようにすごいなと思わざるを得ない。

「ですからミラルカのパーティー後に婚約が成立した際はとても心躍りましたわ。ディオも認めてくれましたし、私はミラルカではなくゴッドハルトで伸び伸びと過ごしたいと思っております」

にこやかに言い切るディア王女。
まあ確かに伸び伸びは過ごしているな。
俺は特に干渉する気はないし、やりたいように自由に過ごしてくれというスタンスだから。

「ルーセウス王子のどこがそんなにいいんだ?!」
「ですから先程も言いましたでしょう?やりたい事をやりたいように自由にさせてくれるのです。器が大きいのですわ。ねえ、ディオ?貴方もそう言っていたものね?」

それに対してディオがコクリと頷く。

「ルーセウスの器が大きいのは本当だから」
「例えば?!」
「例えば…?いっぱいあり過ぎてちょっと言い切れないな。少なくとも俺より器が大きいのは確かだ。ここぞという時に全く動じないし、冷静にベストな選択ができるところとか、絶対に無理だと思うようなことでも諦めずに粘り強く向かっていくところとか。なんだろう?心がとにかく強いし、考え方も前向きで柔軟だし、王とはこうあるべきなんだなっていうお手本みたいな感じで、そのカッコ良さが振り切れてると思うんだ」

ベタ褒めだ!

(え?ディオから見た俺って凄過ぎないか?)

流石にそこまで過剰評価されてるとは思わなかった。
よし。幻滅されないようにもっと頑張ろう。

「くっ…!まさかディオ王子がそこまで認めてるだなんて…!」

悔しげにブラン皇子が拳を握り込む。

「ディオ様がそこまでお認めになられるのは珍しいですわね。てっきり仲の良い友人だからディア王女に勧めたのだとばかり思っていましたわ」
「俺からディアにルーセウスを勧めたことはないよ。ディアは自分の意思でルーセウスに婚約をお願いしたんだ。それだけルーセウスが魅力的だったってことじゃないかな?」
「そう言えばガヴァムで変態騎士達にも毅然と対応していましたわね。お兄様。お兄様もそう言ったカッコいいところをもっとアピールされてみてはいかがです?きっとそこが足りないんですわ」

このままでは平行線だと考えたのか、ローズマリー皇女がブラン皇子にそう提案した。

「なるほど。じゃあ手合わせをして俺もカッコ良さをアピールするとしようか」

そう言ってブラン皇子は俺との手合わせを願い出てくる。

「ルーセウス王子。ディア王女を賭けて、俺と手合わせをしていただきたい!」
「普通の手合わせなら全く構わないが、ディア王女の意思を無視した手合わせは遠慮させて欲しい」

そこは無視してはいけないだろうと思って言ったのだが、ブラン皇子は『怖気付いたのか?』と挑発してきた。
どうしてそうなるのか…。

困りながらディア王女の方を見ると、『こういう人だから嫌なんです』と言わんばかりに嘆息した。

「ルーセウス王子。大変申し訳ありませんが、時間をかけず叩き潰して、プライドを木っ端微塵にしてやっていただけません?」
「え?」
「その後で私もコテンパンにしてやりたいので、言い訳できない体力を是非残しておいてくださいませ」

なるほど。完膚なきまでに叩き潰したいんだな。

「わかった。滅多にないディア王女のお願いだし、受けよう」

普段ディオとの仲を応援してくれているし、これくらいならいいかと承諾する。

そして鍛錬場へと移動して剣を合わせると、思った以上にブラン皇子は強く、手応えのある手合わせとなった。
とは言え勝ったのは俺で、苦々しく睨んできたのがブラン皇子なのだが…。

「くっ…!まさかこの俺が負けるなんて…っ!」

油断なんてしていない、正真正銘本気の手合わせだったのをブラン皇子もしっかり理解はしている様子。
かなり自信があったんだろう。
手加減してやれず申し訳ない。

「これでわかったでしょう?大人しく諦めてくださいね?でないと今度は私の剣で叩き潰して差し上げますわ」
「…!是非!」

ディア王女の言葉を受けたちまちブラン皇子の目が輝き、ご褒美と言わんばかりに剣を手に取りディア王女に向かっていった。
とは言えご褒美目的なせいか、剣戟に先程のような鋭さは一切なく、幾度か打ち合っただけであっという間にディア王女の剣技で叩きのめされてしまう。

「ああ…念願の…!」

しかもそのまま踏まれて悦ぶブラン皇子に、ドン引きだ。

「本当につまらないわ。ルーセウス王子みたいに本気で向かってくるなら未だしも、踏まれるためだけに手を抜いてくるなんて最悪よ!そう言うところも好きになれませんの。お分かりになられます?」

これは確かにディア王女が嫌がるのも納得がいく。

「ディア王女とお兄様…とてもお似合いですのに」
「絶対に御免ですわ。さっさとミラルカに帰ってちょうだい!」
「そうですわね。残念ですが、今回は連れ帰らせて頂きますわ」
「そうしてちょうだい」

冷たく突き放されてもうっとり見惚れているブラン皇子はどうしようもないが、ローズマリー皇女はさっさと話を切り上げ、ディオへと笑顔で告げた。

「ディオ様。ディア王女とお兄様の件は残念ですが、私とのことはどうぞご一考くださいませね」
「え?」
「私、正妃がロクサーヌ様だろうとヴィオレッタ王女だろうと、ディオ様を好きな気持ちだけは決して負ける気はございませんから!」
「気持ちは有り難いけど、戴冠式も控えているしその話を受ける気はないと覚えていてほしい」

可愛らしく訴えられたにも関わらず、俺が不安になる隙さえ与えずディオはサラリと受け流す。

「俺が認める正妃は一人だけだから」

嬉しい!

(俺の正妃もディオだけだ!)

思わず表情が緩みそうになったらディア王女に腕をつねられた。
痛い。

「ルーセウス王子?気が緩みすぎですわよ?」
「ディア王女」
「もう少ししっかりなさってくださいな」

戴冠式までにバレたら困るのは俺の方だぞと暗に言われて、ちょっと反省する。

「すまない」
「わかってくださったなら結構ですわ」

そんな俺達の小声でのやり取りを見て、どうやら仲睦まじく思ったのか、ブラン皇子は捨て台詞を吐いてくる。

「二人が結婚するまでは絶対に諦めない!」
「お好きにどうぞ」

こうして一先ず帰ってもらえたものの、まさか戴冠式の日があんなにも波瀾万丈な日になるとは、この時は考えもしなかったのだった。



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