黒衣の魔道士

オレンジペコ

文字の大きさ
上 下
70 / 264
第一部 アストラス編~王の落胤~

69.※翻弄

しおりを挟む
「あぁ…っ…はぁ…あ…」
「クレイ…いい格好だな」

手を縛られながらビクビクと身体を震わせ、両足を大きく開いて高く掲げられたクレイが自分を見上げてくる姿は嗜虐心を煽ってくるのには十分だった。

「やっ…こんなの恥ずかしい…」
「どうしてだ?入っているところがよく見えていいだろう?」
「うぅ…っ…ひどい…」

先程からこの格好のまま緩やかに追い詰めては止めることを繰り返しているからか、クレイは羞恥心を煽られて仕方がないようだった。

「…俺が好きなのはロックウェルだけなのに…」

こんな風に虐めてくるなんてひどすぎると涙目でクレイが口にするが、それで許してやるほど甘くはない。

「嫉妬させるなと言ったはずだ」
「ロックウェルの馬鹿…」

そんなことしていないのにと言ってくるクレイをしっかりと調教したくて仕方がなかった。

「そんなことを言っているとこのままずっとイかせてやらないぞ?」
「やっ…それは嫌だ…ッ!!」
「ここも…拘束してみようか?」

そう言って男根の根元を拘束してやると焦ったように声を上げてくる。

「ひっ…!ロックウェル!それは嫌だっ…!」
「お前次第で拘束は解いてやる」

そう言いながらもゆっくりとまた腰を揺らしてやるとクレイがふるふると首を振り始めた。

「やだっ…!ロックウェル!早く解いて!お願いだからっ!」

けれどそんなクレイをうっとりと見つめながらそのまま追い込んでいく。

「あっあっあっ…!やだっやだぁ…!!」

苦しいと言いながら泣き始めたクレイをそのまま犯し続けているとやがて意識が飛び始めた。

「あっあっああぁあああっ!!」

ピクピクと身体を震わせドライでイッたクレイをそのまま緩々と可愛がると、たちまちその身を震わせ続ける。

「はぁう…ッ…!あぁんっ!あっあっあっ…!!」

イッているのに物足りないように追い詰めていくと腰をくねらせ甘く啼き始めた。

「はぁ…ッ!ああッあっあっ…!」
「可愛いクレイ…お前は私だけを見つめて感じていてくれ…」

それと同時に回復魔法を掛けてやれば理性が戻ってきたのかまた懇願が始まる。

「はぁッ…ロックウェル…も、助けて…ッ!」
「そのまま何度でもイき続ければいい」
「うぅ…。頼む…からっ!手だけでも解いて…ッ!お前に抱きつきたい…!」
「……」
「好きなのに抱きつけないのが一番嫌だ…!」
「クレイ?」
「うっ…好きッ…好きなんだ…」

動きを止めてクレイの言葉に耳を傾けてやると、クレイは必死になりながらその言葉を紡いできた。

「お前の温もりを感じていたい…」

このまま繋がったところの熱だけでイかされ続けたくないのだとクレイは懇願する。

「怒らせたのならドライで蹂躙されても我慢する。でも…お前をちゃんと感じさせてくれ…」

その言葉に目を瞠り、思わず目を潤ませるクレイの腕の拘束を解いてやるとそのままそっと引き寄せられた。

「ロックウェル…」

そうやって縋るように抱きついてきたクレイを抱きしめて、胸がいっぱいになる。

「いいのか?」

そんな言葉にコクリと頷いてくれたので、そのまま抱き合いながら奥まで蹂躙してやると苦しげに甘く啼いた。

「ああっ…!!ふっ…うぅうっ…」

泣きながら縋ってくるから辛いのは辛いのだろうが、我慢すると言っていただけにクレイはそれ以上は求めるつもりはないようだ。

「やぁっ…!き、気持ちいいっ…!!」

回復魔法も使いながら何度かそうやって緩急をつけてドライでイカせてやると、少し慣れてきたのか軽く意識を飛ばしながらそんな言葉を口にし始める。

「クレイ…可愛い…」
「ロックウェル…ロックウェル…!」

求められるだけ口づけを交わしてやるとクレイがまたギュッと強く抱きついてきた。

「あっああっあっ…!!」
「またイクのか?」

そんな問いかけにコクコクと頷き中をキュウキュウと締め付けてくる。
そのタイミングで体位を変えてやり、男根に施した拘束を解いてやった。

「あぁっ…!!」

途端に甲高い嬌声が口から飛び出し心地良く耳を擽る。

「クレイ…一緒にイこう…」
「んっんんっ…!!あッ、やぁああぁあ────ッ!!」

クレイが一番好きな体位で奥まで勢いよく突き上げると激しく身を震わせそのままイッてしまうが、気にせず自分も中へと思い切り吐き出した。

「はぁあぁん…。あぁん…」

そのまますっかり理性を手放したクレイをしっかりと抱き締めて暫しの幸福に酔いしれる。

「あ…もっと、もっとして…!」

快楽に溺れ理性を飛ばしながらも無意識にそんな風に口にするクレイがたまらなく愛おしく感じられて、もっと責め立ててやりたくなる。

「まだまだ好きなだけ犯してやる」
「あっ…!!やっやっやっ…!!はぁあああっ…!!いいッ…いいッ…!!」

腰を擦り付けるようにしながらトプトプと白濁をこぼし自分を求めてくるクレイに、このままどんどん溺れていきそうな自分がいた。

「あ、気持ちいぃ…!はぁあッんっ!あぁッ!ロックウェル、いいッ!そこダメ!気持ちいいッ!あッ、もっとぉ…!」

最早理性が崩壊しているクレイをそのまま好きなように蹂躙していく。

「クレイ…お前を好きすぎる私を見捨ててくれるな…」

そんな本音をそっと口にしながら貫くと、クレイが歓喜の声を上げながら達する。

「も、イク────ッ!!」
そうしてその日はそのまま何度も抱き合い、最後にそっと回復魔法を掛けてから寄り添うように眠りについた。


***


「ん…」
クレイが目を覚ますと、そこには絡みつくように両腕で自分を抱きしめるロックウェルの姿があり驚いた。
いつもは並んで眠るだけなのに…。

(そんなに不安にさせたのか?)

ロイドの件は今更だろうが、もしかしたらリーネの件で不安にさせていたのかもしれない。
「ヒュース」
【なんでしょうか?】
そっと自分の眷属へと声を掛けるとすぐに答えは返ってきた。
「リーネは何かロックウェルを煽るようなことを言ってきてはいないか?」
もしかしたらそう言うこともあるかと思い訊いたのだが、返ってきたのはため息で────。
【はぁ…クレイ様?どれだけ鈍いんです?】
「?」
【ロイドとご友人だと仰るお気持ちもわかりますし、魔力交流をしてもいいとお思いなら構わないでしょう。でもですね、それを隠しもせずロックウェル様に仰るのがそもそも間違っているのですよ】
「……?隠した方が浮気と疑われるかと思って言っただけだったんだが?」
【…クレイ様?恋人を作ったことがないのでお分かりにならないのかもしれませんが、それをあんな風に言うのはですね、逆効果といいますか…】

そうやって二人でやりとりしていると、急に後ろからギュッと抱き締められた。

「クレイ…」
その声は耳にゾクリと響いて妙に下腹まで響いてくる。
「ロ…ロックウェル?!」
一体何事だと慄いていると、そのまま耳元で甘い囁きを落とされた。
「そう言えば私はお前の初めての恋人だったな?」
「え?ああ。そうだが?」
そう答えてやるとそっと髪に軽く口づけられる。
「それならこれから恋人と言うのがどういうものなのかじっくり私が教えてやる」
「え?いや。わかっているから必要はない」
「…わかっていないから言っているんだが?」
「わかっている」
「わかっていない」
「……恋人はお前が初めてでも、経験は一応豊富だから問題はない」
どうしてわかってもらえないんだろうと思わず拗ねてしまった自分に、ロックウェルがそっと熱い眼差しを向けてきた。
「そんなもの、全てを私で塗り替えてやりたいと…そう言っているんだ」
「……?!」
「そうだな。ロイドとの魔力交流を黙っていなかった理由はわかったし、もう怒る気はないが…」
そう言って妖艶に笑ってくるロックウェルに思わず釘付けになる。

「あいつの色に染まるのだけは許さない」

そして口づけるのなら自分が教えた口づけで翻弄するくらいの事をしてやればいいとロックウェルは言い出した。
「どうせお前は言ってもあいつとの口づけをやめる気はないのだろう?」
他にもリーネなどにも必要に迫られればするのだろうと聞いてくるロックウェルに思わずコクリと頷くと、そうだと思ったと返される。

「本音は私以外とはするなと言いたいところだが、お前をそこまで束縛して逃げられても困るからな」

そこは妥協してもいいとロックウェルは言ってくれた。

「その代わり、寝るのは絶対に私だけと誓ってくれ…」

どこか弱ったようにそう言ってきたロックウェルにクレイは頷きを返す。
「?…わかった」
「仕事も含めて、女とも寝るなよ?」
「え?」
まさか仕事も含めてと言われるとは思っても見なかったが、暫し考えてから返事をする。
「じゃあどうしても必要そうな時は相談してからにする」
「そうしてくれ。お前を女と寝かせるくらいなら私がその女と寝てやる」
その答えには正直呆れてものも言えなかった。
どうしてロックウェル程の男がそれほどまでに自分を独り占めしたがるのか…。
それでも、それだけ自分の事が好きなのだと思えてなんだかくすぐったい気持ちになった。

「お前は本当にどれだけ俺に夢中なんだ?」
「縛りつけて逃がしたくないほど愛しているが?」

そんな風に返されて頬が染まってしまうのを止められない。
「~~~~ッ!!わかった。取りあえずシャワーを浴びて朝食を摂るぞ」
結局昨夜は食べられなかったのだからと誤魔化すように促して、そうしてやっと寝台から離れたのだった。


***


「今日の注意事項は?」
「危ないことさえしなければいいということくらいだ」
回廊を行きながらクレイが尋ねてくるが、特にこれと言ってはない為そのままそう返してハインツの待つ部屋へと向かう。
「ハインツ王子。本日から私とクレイで魔法の事をお教えさせていただきます」
そう言ってロックウェルが挨拶を交わすと、ハインツが嬉しそうに微笑んだ。
「宜しくお願いします」
そしてパッとクレイの方を向くとおずおずと言葉を掛けた。
「ク…クレイ。その……兄上と呼んでも?」
「いや。クレイでいい。俺は王子でもなんでもないし、ただの黒魔道士として接してもらう方が嬉しい」
「……じゃあ。先生と言うことで宜しく、クレイ」
「ああ。宜しく頼む」
少し残念そうに微笑むハインツに気付いているのかどうか、クレイはそのままにこやかに笑うとすぐに魔法について話し始めた。

「今日は魔法の基礎から学んでもらおうと思う」
「呪文も色々ありますが、ただ覚えるだけではなく丁寧に紡ぐのが大事です」

そうやって二人で交互に魔法の基礎についてを教えていく。

「それに合わせるように自分の中の魔力を乗せていくんだ。間違っても暴走はさせないように」
そして威嚇するだけなら別に呪文は必要としないが、魔力の無駄遣いだとクレイはバッサリと言い切った。
「自分がやりたいことを具体的にイメージしてやるといい」
「はい!」
一生懸命耳を傾け講義に取り組むハインツは実に筋がよく、初日にもかかわらず白も黒もよく学んだ。




「バランスがいいな」
「そうだな。あれならどちらにでもなれる」
ハインツの根底には『誰かを護れる強さを!』と言うのがあるらしく、攻撃も防御も癒しも全て必要だと感じていることが窺えた。
箱入りとは言え、さすが王族。そこは素直に感心してしまう。
そうやってハインツの授業を終えて二人でお茶を飲んでいると、そこへルドルフが顔を出した。

「クレイ!」
「ルドルフ王子」
「ルドルフでいい。それよりも今日からハインツの教育係になったらしいな」
「ああ。なかなか筋がいいと今ロックウェルとも話していたところだ」
「そうか。国政の勉強の方も頑張ってくれているんだが、そちらも筋はいい」
「そう言えば今、政についてはルドルフが教えているのか?」
クレイがそう尋ねると笑顔で席に着きながら答えてくる。
「ああ。クレイは私を次王にと押してくれたが、現状ハインツが皇太子には変わらないからな。少しでも問題点なども教えていって、有意義な時間を過ごしながら国の事をわかってもらおうとしているところだ」
「さすがだな。俺にはできないことだ」
「そう買いかぶるな」
そうやって仲良く話す二人に一息つき、ロックウェルはそっと立ち上がった。

「ルドルフ王子。私はこの後魔道士長の仕事もありますのでこれで失礼しますが、お時間があるようでしたらどうぞゆっくりとお寛ぎ下さい」
「ああ、ご苦労。クレイに悪い虫がつかないように見張っていてやるから、気にせず行ってくるといい」
「ありがとうございます」

ルドルフの言葉に安堵して、ロックウェルはそのままその場から立ち去った。

(ルドルフ王子が一緒なら安心だ)

そう思いながら────。


***


「クレイ!」
「シリィ」
暫くそこでルドルフと国の話をしていると、休憩なのかシリィが笑顔でやってきた。
「ロックウェル様からここに居るって聞いて。これ、遅くなったけど返したくて…」
ありがとうとはにかみながら言ってくるシリィにクレイも気にするなと笑顔で返す。
「クレイから使い魔を預かっていなかったら私、死んでいたかもしれないもの。本当にありがとう」
「いや。シリィには何度も世話になっているし本当に気にする必要はない」
そうやって笑ってやると、何故かそっとその場にいるルドルフを気遣うように目を遣ったものの、思い切ったようにその言葉を告げてきた。

「あ、あのっ!それでね?前に言っていたようにお礼がしたいんだけど、クレイの暇な時でいいから一緒にどこか出掛けない?」

「え?」
「勿論仕事のない時で構わないし、その時に何か欲しいものがあれば言ってくれればいいから…」
顔を真っ赤にしながら懸命に言ってくるシリィに、クレイも少し考えてまあいいかと返事をする。
これくらいならロックウェルも怒ったりはしないだろう。
「別に構わないが…」
「本当に?!」
「ああ。行きたい場所があれば多少遠くても影渡りで連れて行ってやれるし、好きなところを考えておいてくれ」
「嬉しい!ありがとう」
そうやって本当に嬉しそうにシリィが笑うからクレイもつられて笑顔になった。
けれど、じゃあまた連絡すると言ってすぐに仕事に戻っていったシリィに手を振りルドルフへと目を向けると、何とも言えない顔をされてしまう。

「なるほど。これはロックウェルも苦労するわけだ」
「?」
「お前は本当に罪作りな男だな」

ただの友人同士の約束だろうに、何故そんな風に言われるのかがちっともわからないと首を傾げていると、今度はリーネがそこへとやってきた。

「クレイ!」

その言葉と共にリーネがするりと背中から抱きついてきてそっと耳元に顔を近づけてくる。
サラリと流れた髪からはふわりといい香りが届いてきた。
なかなか好みな花の香りだ。
「リーネ。スキンシップは無駄だぞ?」
「ふふっ…わかってるわ。でもそのうちクセになるかもしれないじゃない?」
「さあ…どうかな?」
クッと冷たい笑みで笑うクレイにリーネが嬉しそうに笑う。
「そんな顔もたまらないわね。早く落としたくなるわ」
「馬鹿だな。そんな簡単に落ちるわけがないだろう?」
「ふふふ…じゃあ少しだけ味見…ね?」

その言葉と同時に項にチリッと痛みが走る。

「…リーネ」
「予約の印よ?似合ってるわ」
これはキスマークをつけられたのは明白だった。

「こういうことはやめろ。ロックウェルが怒る」

「ロックウェル様なんてどうでもいいじゃない。これは私とあなたの勝負なんだから」
クスクスと笑いながらリーネが妖しく笑う。
「そういうわけにはいかないから言っている」
「随分気を遣うのね。まあいいわ。今日は挨拶代わりに来ただけだし、引いてあげる」
そう言いながらリーネは深追いせずにそのまま軽く手を振り笑顔で去って行った。

「…全く」

そうやって溜息をついていると、ルドルフがやれやれと肩をすくめてきた。
「なるほどな。お前は相手によって全然態度が違うんだな」
「…シリィとリーネは全然違うんだから仕方がない」
リーネとはあくまでも遊びだと言うクレイにルドルフは少し考え、質問してきた。
「黒魔道士とはそういうものなのか?」
「まあ皆似たり寄ったりだと思うが?」
「…そうか。ちなみにお前にとってシリィはどういう相手だ?」
「シリィ?そうだな。守ってあげたい友人…かな?」
「じゃあリーネは?」
「ただの一時の遊び相手だ」
「ロイドは?」
「…?気の合う黒魔道士仲間だが?」
「では…ロックウェルは?」
「…知っているだろう?」
「勿論敢えて聞いている」
「…甘えられる、好きな恋人だ」
サッと頬を染めて答えたクレイにルドルフは満足げに頬を緩めた。

「だ、そうだ」

その言葉と共に急に後ろから抱きすくめられ、クレイは驚いた。
「…?!ロックウェル?!」
先程のリーネとは全然違う恋人の香りに思わず胸が弾んでしまう。
「仕事じゃなかったのか?」
思わず照れ隠しにそうやって尋ねると、リーネの姿が見えたから気になって戻ってきたのだと素直に言ってきた。
「浮気はしていないか?」
「さっきの今だぞ?する訳がないだろう?」
頬を染めながらそう答えたものの、首筋の赤い跡を目敏く見つけられてしまう。

「クレイ?これは?」

その低音がゾクリと背に響く。
それを受けて、ルドルフが笑顔で先程の件を伝えてきた。
「その首のあざはリーネの悪ふざけだ。クレイはちゃんとお前に怒られると彼女に言っていたし、許してやってほしい。あとシリィがそのマントを返しに来て今度礼がしたいと言っていたから、妬かずに休みの許可は与えてやってくれ」
「……わかりました」
そんなやり取りにクレイがホッと息を吐く。

(…助かった)

嫉妬されずに済んだとルドルフに感謝しながらクレイはそっとロックウェルへと向き直った。
「ロックウェル…気になるなら別に上書きしてもいいぞ?」
だから妬かないでほしいと言う意味合いで言ったのに、何故かそれは彼の心に火をつけてしまったようで…。
「んんっ…!ちょっ…ッ!!」
ちゅっ…と吸われたかと思うと、そのまま他にも何か所か吸い付かれてしまう。
「お前は油断も隙もないからこれでも足りないくらいだ」
「~~~~っ!!もう帰る!」
妖しく笑ったロックウェルにまた翻弄されそうになって、クレイはそのまま隙を突くようにするりと腕の中から抜け出して、影を渡って逃げだした。



それを見届けて、ルドルフはおかしいとばかりに笑い出す。
「ルドルフ様?」
「はははっ…!いや。本当にクレイはお前が好きなんだなと思って…な」
そんな言葉にロックウェルが首を傾げる。
「シリィには思わせぶりに優しく微笑んで、リーネには軽くあしらうように小悪魔的に魅了する。そんな対応の差は見られたが、クレイはどちらにも靡いてはいなかった」
その言葉にそんなことをしていたのかと腹が立ったが、次の言葉で少しばかり溜飲が下がる。

「そんなクレイがお前が相手だと全く違っていて…本気で好きなんだなと言うのがすごくよくわかった」

甘えられる恋人と言うのはその通りのようだったとルドルフは言う。
「私もそのような相手に出会いたいものだ」
そう言って立ち上がったルドルフにロックウェルはそっと礼を執った。
「ルドルフ様。お相手、ありがとうございました」
「いや。楽しい時間だった」
「今日はこの後ご視察に?」
「ああ。急いではいないから、多少仕事を片付けてから出立する予定だ」
「そうですか。では護衛の者を揃えておきますので…」
そうして二人で話しながらそっとその場を離れたのだった。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

Evergreen

BL / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:14

氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

BL / 連載中 24h.ポイント:56,838pt お気に入り:5,059

最愛の人がいるのでさようなら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:50,843pt お気に入り:586

番から逃げる事にしました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:33,655pt お気に入り:2,295

人形と皇子

BL / 連載中 24h.ポイント:12,135pt お気に入り:4,351

見つからない願い事と幸せの証明

BL / 完結 24h.ポイント:1,753pt お気に入り:8,156

意地っ張りの片想い

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:49

間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

BL / 連載中 24h.ポイント:1,371pt お気に入り:276

短編集*レンアイ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,165pt お気に入り:114

処理中です...