えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

文字の大きさ
231 / 333
第1章 南方正教会

第198話 えっ!? あの旗ってっ!?

しおりを挟む
 
 「っ!? 煙が来ない!?」

 爆風と土煙が馬車を避けるように後ろへ流れて行く。何だ?

 「奥様たちは本当に人族ですか!? どうして、第5位階の魔法が使えるんです!? 【風の壁】で馬車を囲んだので、爆発の余波はしのげるはずです」

 後ろののぞき扉から、エルフの幼顔がぴょこっと飛び出て来た。

 「ロサ・マリアか。助かったぜ」

 「いえ。それと質問に答えてもらっていませんが?」

 「知らん」

 「知らんって!?」

 「知らんもんは知らん。あいつらが何処で魔法をおさめた俺には分からん。聞いてもねえしな」

 「そんな――」

 「根掘り葉掘り聞きだして好奇心を満足させる気はねえよ。あいつらは俺の使えねえ魔法が使える。お前さんもそうさ。それ以上でも以下でもねえ。……だろ?」

 「……そう、ですね。上手く言い包められた気もしますが、今はそれだけ聞ければいいです」

 「へっ。そりゃありがたい。理屈をねるのは苦手でな」

 「屁理屈へりくつの間違いでは?」

 「そいつは得意だぜ?」

 「来て数日ですが、そこは知ってます」

 「へっ。言うねえ。さてと……」

 土煙が晴れた先に見えていたのは、莫迦ばかでかいクレーターと青緑あおみどり色のバラバラになった肉片だ。爆発の中心から一番遠くにいた左右の2体が片腕を失いながら、立ち上がろうとしてる。俺から見りゃ重症だ。

 放っときゃ失血死だろうが、どうやらそれじゃ気が治まらん奴がいるみたいだな。

 「よっと」「【爆えはあぁぁん!」「【霧えはあぁぁん!」「うわあ――っ!」

 ヒルダとプルシャンの後ろに飛び降り、2人を抱え込むように抱き寄せて、おっぱいを後ろから鷲掴わしづかんでやった。良い感触だ。服の上からってのが物足りねえがな。

 「腹が立つのは分かるが、無駄に魔法を撃つな。放っときゃ死ぬ」

 御者の女騎士が両手をパーにして赤い顔を隠して、指の隙間から俺を凝視して……Оh、やっちまった。

 俺まだ女の姿のまんまだったぜ。まさか、あいつに見られてねえだろう……。

 「うおっ!? いつからそこに居やがった!?」

 御者席と馬車の中を結ぶ扉口から、顔半分出した女エルフが居るじゃねえか!?

 「飛び降りて来た瞬間に、これは、と勘が働いたのだ」

 「無駄な才能だな、おいっ! 鼻血、鼻血! 鼻血垂らしながら話してもありがたみはこれっぽちもねえよ! 止まってねえからさっさと中に戻れっ!」

 「し、失礼するっ!」

 「あ~あのエルフ、ユリフなのね……?」

 「ゆりふ?」

 「百合ゆり趣味のエルフって事でユリフ」

 「なる程。そりゃ言い得てみょうだな」

 「でしょ!?」

 「あんたは?」

 「百合趣味ないから安心して! 男女の関係しか興味ないから! でも、目の前で見せ付けられるとドキドキはするけどね」「ふぅん」「くふん」

 小豆色のセミロングの髪の女騎士ブリギッタがそう指摘してくれて、そういえば、まだ胸を揉んでたな、と気付く。鼻に掛かるような甘い吐息が聞こえて来たので、慌てて胸から手を離し周囲を確認することにした。

 大男とキノコ頭の騎士は、馬車の後ろの方に回ってくれたようだ。

 刺激が強すぎたか? まあ良い。

 魔法の反撃に驚いただろうが、これだけであきらめるとは思えん俺はもう一度屋根に跳び上がって周囲に目を凝らす。が、見渡す限り草原だ。

 さっきの雑木林ぞうきばやしは、2人の魔法のせいで結構ぎ倒されてたりする。

 おかっぱ頭の勇者の姿も見えん。矢が切れたか?

 4本しか撃ってねえから、それはねえな。



 待て。



 雑木林が薙ぎ倒されてるのは判るが。あそこにあった死体の山は何処に行った? 爆風に飛ばされる程近くにはなかったはずだ。

 「ロサ・マリア」

 「何でしょうか?」

 「あそこに、さっきの爆発で出来たでかいくぼみがある。あそこに向けて何か届きそうな攻撃魔法ねえか?」

 「【疾風しっぷう息吹いぶき】というのがありますが?」

 「主殿あるじどの、第2位階の【息吹】ならわれも使えるぞ?」

 「はい、はーいっ! わたしも使えるよ!」

 「ああ、ありがとな。お前らの魔法はちょっと目立ち過ぎる。今回はロサ・マリアの方が良い気がするのさ。わりいな」

 奴らは臭わねえ。あれだけ盛大に細切れになっちまってるのに、血の臭いどころか糞尿の臭いすら漂って来ねえってどういうことだよ!?

 考えられるのは2つ。

 巧妙にだまされているか、奴らの消臭技術が日本の技術を超えてるか、だ。

 実際、俺はまんまと騙された経験がある。地下競売オークションの帰り道、下水道であの"美食の君"とかいう女に回り込まれた時だ。

 あの女の後ろに居た奴らに気付けなかった。

 だから今回も騙されてるんじゃねえかと思ったのさ。2択目は、公都で暮らしてみてそもそもねえと自信を持って言える。王城ですら臭いを香りで胡麻化ごまかそうとしてたんだ。日本レベルの消臭効果を求めるのは酷ってもんだろ。

 で、火や水は目視できるから目視しにくいモノをって思ったら、ロサ・マリアこいつが風魔法を使ったを思い出したのさ。

 「ああ、それで良い。やってくれるか。ヒルダとプルシャンは正面を警戒」

 「うむ」「分かった!」

 「行きます! 【疾風しっぷう息吹いぶき】!」

 屋根に上がって俺の横に立ったロサ・マリアが右手を突き出す。

 「うえっ!? この子も無詠唱!?」

 小豆あずき色の髪の姉ちゃんが驚いてロサ・マリアを見上げるのが見えたが、そりゃ後だ。突き出した腕から放たれた突風が草原くさはらぎ倒して進むを目で追う。



 さあ、どうなる!?



 ピシィッ



 突風の突き抜けた空間にヒビが入ったように見えた。

 「後ろは異常なしだ」

 「弓の射程圏内から外れたのかもしれませんね」

 「馬車が走ってないようだが、何があった?」

 大男ラジスラフキノコ頭マウリシオの騎士が馬車の左右を回りながら戻って来るのと、馬車の奥から朱色の髪をポニーテールにした精悍な男ディルクが顔をのぞかせたタイミングが重なって、俺の耳に声が届く。

 と同時に俺たちの前方の視界が開け、十字型ののぼり旗を掲げた一群の武装集団が現れたのさ。数は20から30人ってとこか?

 「えっ!? あの旗ってっ!?」

 御者席に居る小豆色の髪の姉ちゃんが旗を指さす。確か、律令りつりょう神殿は蔦で円を描いて、その内側に7枚の葉っぱが茂ってたはずだ。

 「おいおいマジかよ」

 のぼり旗を見てか現れた武装集団の方を見てなのか判らんが、大男の驚いた声も聞こえる。ま、戦力的に俺たちと護衛の騎士たちを合わせても、人数的に向こうの方が多い。

 「律令神殿の聖印に似てるようですが?」

 キノコ頭のにいちゃんの言う通り、よく似てる・・・・・んだが葉っぱが2枚しかねえのさ。それを見たポニーテールの男がつぶやいた言葉が耳に残った。

 「ちっ。面倒な事になって来たな」

 「知ってるのか?」

 「誰でもいい。奥の爺さん婆さんを呼んで来い」

 俺の問いに答えずに、馬車の中へ向けて呼びかけるポニーテールの男。

 「あ、じゃあ、あたしが行ってきます!」

 ロサ・マリアが馬車の屋根から中へ下りてた様で、声だけ聞こえた。

 それを聞いてか、ポニーテールの男が俺の目を見て面倒臭そうに口を開く。

 「あの旗は、律令神殿でも滅多にお目に掛かることがない、二葉にようの実働部隊だ」

 によう。多分2枚の葉っぱっていう事だろう。

 実働部隊。

 要は、武闘派って事だ。

 俺個人として絡まれる理由が何個か浮かんでくるが、目的が俺なのか、それともこの旅なのかどうかも判らねえ。

 仕方ねえから、シクシクと差し込むように痛む下っ腹をさすりながら、爺さん婆さんが出て来るのを待つことにした――。





しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

処理中です...