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第1章 南方正教会
第198話 えっ!? あの旗ってっ!?
しおりを挟む「っ!? 煙が来ない!?」
爆風と土煙が馬車を避けるように後ろへ流れて行く。何だ?
「奥様たちは本当に人族ですか!? どうして、第5位階の魔法が使えるんです!? 【風の壁】で馬車を囲んだので、爆発の余波は凌げるはずです」
後ろの覗き扉から、エルフの幼顔がぴょこっと飛び出て来た。
「ロサ・マリアか。助かったぜ」
「いえ。それと質問に答えてもらっていませんが?」
「知らん」
「知らんって!?」
「知らんもんは知らん。あいつらが何処で魔法を修めた俺には分からん。聞いてもねえしな」
「そんな――」
「根掘り葉掘り聞きだして好奇心を満足させる気はねえよ。あいつらは俺の使えねえ魔法が使える。お前さんもそうさ。それ以上でも以下でもねえ。……だろ?」
「……そう、ですね。上手く言い包められた気もしますが、今はそれだけ聞ければいいです」
「へっ。そりゃありがたい。理屈を捏ねるのは苦手でな」
「屁理屈の間違いでは?」
「そいつは得意だぜ?」
「来て数日ですが、そこは知ってます」
「へっ。言うねえ。さてと……」
土煙が晴れた先に見えていたのは、莫迦でかいクレーターと青緑色のバラバラになった肉片だ。爆発の中心から一番遠くにいた左右の2体が片腕を失いながら、立ち上がろうとしてる。俺から見りゃ重症だ。
放っときゃ失血死だろうが、どうやらそれじゃ気が治まらん奴がいるみたいだな。
「よっと」「【爆えはあぁぁん!」「【霧えはあぁぁん!」「うわあ――っ!」
ヒルダとプルシャンの後ろに飛び降り、2人を抱え込むように抱き寄せて、おっぱいを後ろから鷲掴んでやった。良い感触だ。服の上からってのが物足りねえがな。
「腹が立つのは分かるが、無駄に魔法を撃つな。放っときゃ死ぬ」
御者の女騎士が両手をパーにして赤い顔を隠して、指の隙間から俺を凝視して……Оh、やっちまった。
俺まだ女の姿のまんまだったぜ。まさか、あいつに見られてねえだろう……。
「うおっ!? いつからそこに居やがった!?」
御者席と馬車の中を結ぶ扉口から、顔半分出した女エルフが居るじゃねえか!?
「飛び降りて来た瞬間に、これは、と勘が働いたのだ」
「無駄な才能だな、おいっ! 鼻血、鼻血! 鼻血垂らしながら話してもありがたみはこれっぽちもねえよ! 止まってねえからさっさと中に戻れっ!」
「し、失礼するっ!」
「あ~あのエルフ、ユリフなのね……?」
「ゆりふ?」
「百合趣味のエルフって事でユリフ」
「なる程。そりゃ言い得て妙だな」
「でしょ!?」
「あんたは?」
「百合趣味ないから安心して! 男女の関係しか興味ないから! でも、目の前で見せ付けられるとドキドキはするけどね」「ふぅん」「くふん」
小豆色のセミロングの髪の女騎士がそう指摘してくれて、そういえば、まだ胸を揉んでたな、と気付く。鼻に掛かるような甘い吐息が聞こえて来たので、慌てて胸から手を離し周囲を確認することにした。
大男とキノコ頭の騎士は、馬車の後ろの方に回ってくれたようだ。
刺激が強すぎたか? まあ良い。
魔法の反撃に驚いただろうが、これだけで諦めるとは思えん俺はもう一度屋根に跳び上がって周囲に目を凝らす。が、見渡す限り草原だ。
さっきの雑木林は、2人の魔法のせいで結構薙ぎ倒されてたりする。
おかっぱ頭の勇者の姿も見えん。矢が切れたか?
4本しか撃ってねえから、それはねえな。
待て。
雑木林が薙ぎ倒されてるのは判るが。あそこにあった死体の山は何処に行った? 爆風に飛ばされる程近くにはなかったはずだ。
「ロサ・マリア」
「何でしょうか?」
「あそこに、さっきの爆発で出来たでかい窪みがある。あそこに向けて何か届きそうな攻撃魔法ねえか?」
「【疾風の息吹】というのがありますが?」
「主殿、第2位階の【息吹】なら我も使えるぞ?」
「はい、はーいっ! わたしも使えるよ!」
「ああ、ありがとな。お前らの魔法はちょっと目立ち過ぎる。今回はロサ・マリアの方が良い気がするのさ。悪いな」
奴らは臭わねえ。あれだけ盛大に細切れになっちまってるのに、血の臭いどころか糞尿の臭いすら漂って来ねえってどういうことだよ!?
考えられるのは2つ。
巧妙に騙されているか、奴らの消臭技術が日本の技術を超えてるか、だ。
実際、俺はまんまと騙された経験がある。地下競売の帰り道、下水道であの"美食の君"とかいう女に回り込まれた時だ。
あの女の後ろに居た奴らに気付けなかった。
だから今回も騙されてるんじゃねえかと思ったのさ。2択目は、公都で暮らしてみてそもそもねえと自信を持って言える。王城ですら臭いを香りで胡麻化そうとしてたんだ。日本レベルの消臭効果を求めるのは酷ってもんだろ。
で、火や水は目視できるから目視し難いモノをって思ったら、ロサ・マリアが風魔法を使ったを思い出したのさ。
「ああ、それで良い。やってくれるか。ヒルダとプルシャンは正面を警戒」
「うむ」「分かった!」
「行きます! 【疾風の息吹】!」
屋根に上がって俺の横に立ったロサ・マリアが右手を突き出す。
「うえっ!? この子も無詠唱!?」
小豆色の髪の姉ちゃんが驚いてロサ・マリアを見上げるのが見えたが、そりゃ後だ。突き出した腕から放たれた突風が草原を薙ぎ倒して進むを目で追う。
さあ、どうなる!?
ピシィッ
突風の突き抜けた空間に罅が入ったように見えた。
「後ろは異常なしだ」
「弓の射程圏内から外れたのかもしれませんね」
「馬車が走ってないようだが、何があった?」
大男とキノコ頭の騎士が馬車の左右を回りながら戻って来るのと、馬車の奥から朱色の髪をポニーテールにした精悍な男が顔を覘かせたタイミングが重なって、俺の耳に声が届く。
と同時に俺たちの前方の視界が開け、十字型ののぼり旗を掲げた一群の武装集団が現れたのさ。数は20から30人ってとこか?
「えっ!? あの旗ってっ!?」
御者席に居る小豆色の髪の姉ちゃんが旗を指さす。確か、律令神殿は蔦で円を描いて、その内側に7枚の葉っぱが茂ってたはずだ。
「おいおいマジかよ」
のぼり旗を見てか現れた武装集団の方を見てなのか判らんが、大男の驚いた声も聞こえる。ま、戦力的に俺たちと護衛の騎士たちを合わせても、人数的に向こうの方が多い。
「律令神殿の聖印に似てるようですが?」
キノコ頭の兄ちゃんの言う通り、よく似てるんだが葉っぱが2枚しかねえのさ。それを見たポニーテールの男が呟いた言葉が耳に残った。
「ちっ。面倒な事になって来たな」
「知ってるのか?」
「誰でもいい。奥の爺さん婆さんを呼んで来い」
俺の問いに答えずに、馬車の中へ向けて呼びかけるポニーテールの男。
「あ、じゃあ、あたしが行ってきます!」
ロサ・マリアが馬車の屋根から中へ下りてた様で、声だけ聞こえた。
それを聞いてか、ポニーテールの男が俺の目を見て面倒臭そうに口を開く。
「あの旗は、律令神殿でも滅多にお目に掛かることがない、二葉の実働部隊だ」
によう。多分2枚の葉っぱっていう事だろう。
実働部隊。
要は、武闘派って事だ。
俺個人として絡まれる理由が何個か浮かんでくるが、目的が俺なのか、それともこの旅なのかどうかも判らねえ。
仕方ねえから、シクシクと差し込むように痛む下っ腹を摩りながら、爺さん婆さんが出て来るのを待つことにした――。
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