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第4章 杜の都
第241話 えっ!? 芽が出た!?
しおりを挟む「すまんな。気が立っててよ。お前さんに当たっちまった」
ロサ・マリアの頭を撫でながら謝ると、少しだけ目を赤くしたマリアが小さく首を振った。ったく、何してるんだ、俺は。
大事なもんが、連れ去られたってえのによ……。
自分の不甲斐なさを棚に上げて、他人に八つ当たりとか、格好悪い。
なんて思ってたらよ、俺の狭い額がむず痒くなって来たじゃねえか。
『あら? あらあらあら!』
それ合わせてか、俺の頭の真ん中に座ってた青い小鳥が立ち上がってそわそわし始めた。当然、嫁たちの視線もそこに集まる。
「何だ? 痒くなってきたんだが……。スピカさんや、何か連れて来た?」
『何言ってるんですか!? 毎日水浴びしてます!』
「あたっ! 綺麗なのは知ってるって。ほら、飛んでる時にあたたっ! 悪かったって!」
弁解は無駄だったわ。まあ、何も考えずにぽろっと言っちまった俺が悪いんだが……。首を竦めて謝るものの、青い小鳥の怒りが簡単に収まるはずもなく、嘴で突かれる羽目になっちまった。
そんな時だ。
ポンッ!
『「「「「「はっ!?」」」」」』
何か急に頭がすっきりして痒さが吹っ飛んだが、そこにある訳ないものが見えちまったのさ。当然、俺ら全員の視線はそこに釘付けだ。
『「「「「「えっ!? 芽が出た!?」」」」」』
在り得ねえだろっ!?
何で、青々とした双葉が俺の額から生え出て揺れてるんだよ!?
可怪しいだろうがっ!?
マギーが口を押えて俺に背中を向けやがった。肩を震わせるとこを見るにありゃ、ツボに入ったな。
ポンッ! ポポポンッ!
『「「「「「はっ!?」」」」」』
なんて考えてたらよ。
小気味良い破裂音がして、青い小鳥を除く5人の頭の上に双葉が生え出て来たんだよ! どうなってやがる!?
俺だけ額から斜めに生えてるし……。
『あ~~あ~~聞こえてますか~~? そろそろ皆の頭に世界樹の芽が出てると思うんだけどな~。あ、プラムちゃん、ここに向かって何か話し掛けてごらん。聞こえてたら、声が返って来るから』
と、気の抜けるような、朗らかな声が俺たちの頭に響いて来た。というのも、反応するのは俺たちだけで、警備隊の連中は横目でチラッと見るくらいで、特に反応もねえのさ。
消去法で考えればそう言うこったろう。
『これですか?』
『うんうん』
『あ~~あ~~聞こえてますか~~?』
「プラムを何処にやった!」って怒鳴る前に、世界樹の木霊の真似をするプラムの声が聞こえてきたせいで、出鼻を挫かれちまったわ。
声を聞けてほっとするが、それでも木霊を信用したわけじゃねえ。
「プラムか!?」「「プラム!」」「「プラムちゃん!」」
『旦那さまの声だ! 皆の声も聞こえる!?』
『でしょ~?』
俺たちにしか聞こえてないという推理は正解だったみてえだ。俺たちが声を上げたせいで、不審がられるちまった。やれやれ。
にしても――。
「おい、木霊!」
『こーちゃん』
「は?」
一瞬、何を言ってるのかさっぱり分からなかった。
『木霊じゃなくて、こーちゃんって呼んでよ』
「五月蠅え、呆け。さっさとプラムを返しやがれ!」
『あははは! 僕が木霊だから、木の種類を掛けたの? 旨いこと言うね~』
「なっ!?」
『良いのかな~。そんな態度取って? プラムちゃんはこっちに居るんだよ?』
「ちっ! プラムと話させろ! プラム! 何処か怪我してねえか!? 痛いとこねえか!?」
『はいはい~~。プラムちゃん話してあげて~~』
『旦那さま! ここ凄いの! 高い木の上で、遠くまで見えるのです! 海も見えるよ! あと、滑って遊べる木の枝があります!』
楽しそうな報告を聞くと、「ああ、怪我はしてねえんだな」と安心する反面、木霊のやつの思惑が見えて来ねえ。何か頼みたいとは言ってやがったが、プラムを人質にするつもりはなさそうだ。
「お、おう、そりゃ良かったな」
『はい!』
『と言う訳だから、ハクトくんのお嬢ちゃんは大事に預かってるから心配しないようにね?』
「ちっ。おい、木霊」
『こーちゃん』
「おい、こー。プラムに変なことしやがったらただじゃ置かねえぞ?」
『ん~~まあ、ハクトくんだからそれで良いか。はいはい。そこは心配しなくていいよ。寧ろ、心配なのはハクトくんたちの方かな~~』
「どういうことだ?」
『それも踏まえてのお願い事なんだよね~。スピカ様がそこに居るから僕も安心できるけど、この国は今危ないって事さ。それ以上は言えない。僕の力も十全じゃないからね。プラムちゃん1人くらいなら守って上げれるって話だよ』
守る?
今守るって言ったのか? 何から?
どうせそれを聞いても答えない事くらい俺でも分かる。どういう意味か、4人に視線で尋ねてみたが、皆首を横に振るだけだ。
「分かった。俺らがそこに行くまでプラムに怪我させんじゃねえぞ」
『分かったよ~~。ハクトくんたちがここに来るまで、プラムちゃんから色々お話し聞かせてもらっとくからね~~』
「あ、おい、プラム!」
『あ、はい!』
「こーの奴に、要らん事話さなくていいからな!?」
『……はい!』
「何だその間は!? プラムおま――」『あ~何だか声が聞き辛くなってきたな~~。そうそう、その世界樹の芽は邪な存在から一時的に守ってくれるからね! じゃ、気を付けて! 待ってるからね!』
「あ、おい、こら、こーっ! 何古典的な方法で逃げようとしてやがる!?」
『あははは! こう言う掛け合いがしてみたかったんだよ~~…………』
「聞こえなくなりましたね?」
フェードアウトしていった世界樹の木霊の声に耳を澄ませていたマギーが顔を上げる。笑いは治まったらしい。いや、頬がぴくぴくしてるのは我慢してるってことか?
「それにしても、皆の頭に変な芽が出ちゃったね~。何の芽って言ってたっけ?」
「世界樹の芽よ」
「そ――」「それはどういうことだ? 吾らを苗床に樹が育つということか?」
プルシャンの疑問にマリアが答えてくれたが、不安がない訳じゃねえ。俺が聞こうとしたことをヒルダが被せ気味に聞いてくれたから、黙っとくことにした。
「分からない、です」
『ん~大丈夫じゃないでしょうか? 恐らくですが、世界樹の麓に入れる証の様なモノだと思いますよ? 清らかな力を感じるので、狂った魔樹の様などす黒い魔力もありませんし。何より見た目が可愛らしいのが良いですよね! きゃっ!』
最後の言葉に、俺は思わず頽れてしまった。急に四つん這いの姿勢になってしまったせいで、青い小鳥が飛び立つ。
可愛い、だと?
何の拷問だ、そりゃ!?
「主君、吾も可愛いと思うぞ?」
「っ――」「おお――いっ! 何してる――っ! 置いてくぞ――っ!」
ヒルダの傷口に塩を塗るような慰めに反論しようとしたら、だいぶ先に進んでいたエルフの国境警備隊の殿の声に邪魔をされちまった――。
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