えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

文字の大きさ
280 / 333
第4章 杜の都

第242話 えっ!? 何故これをおま、いえ、貴方がっ!?

しおりを挟む
 
 「ハクト、凄いよ! 石壁を樹で挟んでるよ!?」

 「ああ、そうだな。これで強度が出るのか?」

 プルシャンが俺の前で目をキラキラとさせながら指差す先に、奇妙な城壁が行く手を阻んでいたんだ。

 城門は石造りなんだが、その左右に10パッスス約15m進んだところで直径3パッスス約4.5mはあろうかというみきから伸びる大木がそびえ立っているのさ。それも、石壁、大木、石壁、大木って等間隔で挟むようにぐるっとな。

 ざっと見る限り、王都の城壁はこうなってるみたいだ。木と石壁の隙間? ねえよ。俺ももしかしたら、抜け道みたいに入れるんじゃねえかと見てみたが、石垣に吸い付くと言うか、押し当てられてる感じなのさ。

 城壁の上で青々と茂る葉っぱを見るに、この樹は"竜鉄楓ごしんぼく"だろう。ロサ・マリアの里の真ん中に生えてた大樹によく似てる。

 俺に言わせりゃあ、「よくもまあ樹の成長で石壁が崩れなかったもんだ」と思えるような奇跡の城壁だよ。



 樹の最大成長幅を計算に入れて石壁を作ったって事か!? まさかな……。



 木霊にプラムを連れて行かれると言う一騒動の後、俺たちは太陽が中天に差し掛かる前に、石畳いしだたみの終着地点である王都へ辿たどり着いた。

 後ろを見渡すと、俺たちが同行した国境警備隊とは違う連中も何隊か居るようで、結構混雑してる感じだ。何処ぞの里からの買い付けだろうか、数人数の旅行者と言うか商人らしきエルフも見える。皆、美男美女と来たもんだ。ここまでくるともう見慣れちまったね。

 ああ、俺たちは入都手続きの真っ最中で、順番待ちさ。

 未だに慣れねえが、額で揺れる双葉ふたば鬱陶うっとうしい。

 ヒルダたち4人は頭の真ん中から生えてるんだぜ? だか、視界が遮られることもチラチラと視界に入って来ることもねえ。くそっ、あの野郎。会ったらとっちめてやらねえと気が済まねえぞ。

 俺らの頭をチラチラと見ながら、コソコソ話し込んでる様子を見るのはストレスが溜まる。まあ、俺は人目にさらされて、ホームレスの生活を送って来た口だからな。多少の事は気にならんが、嫁たちの事を気にすると、なんかこう、モヤモヤするのさ。

 手を出すとまずい事になるくらい百も承知だから、なるだけ無視だがな。

 「次!」

 どうやら、俺らの順番が来たようだ。

 奥の詰所から顔を出した、エルフの男が左手の人差し指でクイックイッと手招きした。いちいち所作が様になるから腹が立つ。顔を見慣れたが、態度まで慣れたとは言ってねえ。

 後、年齢な。結構歳が行ってれば、ああ、大分生きてるんだなとは思うが、2、300年じゃ見た目がまだわけえからなさっぱりだぜ。

 ともあれ、マリアの手前おさえる事に決めた。

 自分の事をいくら言われようが、別にどうって事はねえが、嫁さんたちの事を言われたらと思うと不安に思うとこもある。

 ま、相手の出方次第だろうな。

 兎も7日なぶれば噛み付くってことわざもあるしよ。ちょっとは我慢するが、やるときゃやるぜ?

 横目で左右をそれとなく確認しながら詰所つめしょに進む。プラムの事は、無事なら目の前の事に対処するという方針で嫁さんたちとも話し合ったから良いだろう。

 貴いノーブルエルフだのマークールだの、"純血種キルエルフ"だの見た目には判らねえからな。いちゃもん付けて来たら、で良いだろう。

 ん? マークールとキルエルフって同じ意味だったっけな? まあいいか。

 俺たち5人と、俺の頭に乗った青い小鳥スピカが詰所の中に通される。

 俺の感覚で見た部屋の大きさは8畳間くらいの広さだな。俺らを呼び込んだエルフの門衛は、入り口で直立不動だ。部屋の中に入らねえらしい。

 念の為、嫁たちを先に入れて俺が殿しんがりで入る。と言ってもほぼ一塊だから、大した差はねえがな。

 詰所に足を踏み入れると、両袖机に1人の中高年層を思わせる風貌ふうぼうのエルフが両肘を突き、指を組んだ手の上に顎を乗せてる姿が視界に入ってきた。

 偉そうな男だ。

 雰囲気も態度もな。

 敬えと言ってる訳じゃねえが、人に対する対面する態度じゃねえだろうがよ。

 おっと。落ち着け落ち着け。

 「ふう……。実際に目で見るまでにわかには信じられなかったが、その頭の芽は本物か? 頭に根付いているのか?」

 「「「「……」」」」

 渋めのエルフの問い掛けに、嫁たちが一斉に振り向いて俺を見た。つまり、俺が話せという事だろうな。へいへい。ようござんすよ。

 「さてね。俺たちは勝手に植え付けられた側だからな。何とも言えんってのが正直話だ。ただ、見た目と触感は本物と見分けが付かんね。ああ、勘違いして欲しくねえんだが、そこら辺にある植物の葉っぱと比べて遜色ねえって話だぞ?」

 「……そうか。ところで、何故雪毛ゆきげ兎人とじんの君が皆に先立って話すのかね?」

 ほら来なすった。

 返事の前に一拍間が開いたからな。眉もひそめてたしよ。イケメン隊長ネストリだけじゃなく、雪毛の偏見はエルフでも根強いって事か。

 ま、毛虫と揶揄からかわれなかっただけでも好感が持てるってもんだぜ。

 「そりゃ簡単だ。俺がこいつらの旦那で、主人だからだな」

 その一言で、渋メンエルフの雰囲気が変わるのが判った。

 「……わたしも老いて耳が遠くなったのかもしれんな。もう一度同じことを聞くぞ? 何故雪毛ゆきげ兎人とじんの君が皆に先立って話すのかね?」

 こいつ、一字一句同じ質問をしてきやがった。

 「そりゃ簡単だ。俺がこいつらの旦那で、主人だからだな」

 凄まれてビビるほどやわな玉じゃねえよ。

 「……口の利き方に気を付けろ。君とて、雪毛の兎人がどう扱われているのか知らぬわけでもあるまい? そのエルフのお嬢さんは、ロサ・マリア・ベル・スルバラン嬢ではないのかね?」

 どうやらこの渋メンエルフ、マリアの里の事を知ってるらしいな。

 「聞かれてるぞ? マリア?」

 「そうです」

 「ベル・スルバラン嬢にお尋ねする。貴女とこの雪毛の兎人の関係は?」

 「人攫ひとさらいに捕まり、人族の奴隷になって闇市場で売られる所をご主人様に救って頂きました。この首飾りチョーカーがその証です」

 「ベル・スルバラン嬢を解放するのだ」

 「無理だね」

 「口の利き方に気を付けろと忠告はしたぞ?」

 奥の部屋から殺気が流れてくる。やれやれ、気の短い奴らが多いな。いや、誇りプライドが無駄に高いせいだろうな。長生きする種族なんだから、もう少し穏やかで居られねえもんかね?

 「すまんね。俺も歳みたいでな、耳が遠いみたいだぜ?」

 「無理とゆうのにはちゃんとした理由があります」

 喧嘩を売ろうとしたら、マリアに止められた。わりい。

 キッと俺を睨んで説明を始めるマリアを横目に、俺は肩をすくめて見せるのだった。

 「ほう? というと?」

 「この契約が女神様によって仲介されたものだからです。それに、ご主人様がわたしに求めたのは、『ご主人様とご主人様に属する者の情報をみだりにしゃべらない、害さない。わたしが居た施設の事、そこで見聞きしたことを妄りに喋らない。どちらも、話したくなったり、話すように強調された場合、ご主人様に伺いを立てること』だけですから。破格の待遇だと思います」

 「……」

 「こいつの言う通りだな。別に奴隷にしたくて金貨1,000枚も払うかよ。こいつをあそこから連れ出すのにそれだけ金がかかったって事だ。ま、そこを信じるか信じないかは、お前さんだがな。それと良いのか?」

 「……何の話だ?」

 ま、普通はそれを言われたからって鵜呑うのみには出来ねえよな。単なる与太話よたばなしだとっても仕方ねえだろう。

 このまま水掛け論で、最後には腕に物を言わせることになるのが目に見えてる。

 だから俺はあれ・・を使う事にしたのさ。

 【無限収納】に収めている例の硬貨を、懐から取り出すように見せて取り出し、キンッと渋メンエルフに親指で弾いて渡す。

 「それが何だかわかるか?」

 無造作に掴み取った後、渋メンエルフが目をみはった。

 「えっ!? 何故これをおま、いえ、貴方がっ!?」

 そうだ。例の第8王子とかいう転生者からもらった硬貨を見せてやったのさ。そしたらよ、「さっきまでの威勢は何処へ行きやがった!?」って聞きたくなるくらいにオロオロし始めたじゃねえか。

 「あう」

 「確か、話は通ってるはずだよな? この落とし前、どうつけてくれる?」

 マリアの頭に左手をポンと置いて、くしゃくしゃっと頭を撫でながら、俺はできるだけ悪そうな笑顔でそう聞いてやった――。





しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...