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第1章 深淵の湖
第19話 えっ!? 真下!?
しおりを挟むえっ!? わ、微笑った!?
額から1本の角を生やした真っ黒な巨大ベタが空中で弧を描きながら、直径数mはあろうかという水球を幾つも作り出し、巨大な蟒蛇に向けて打ち出している様子を俺は呆然と眺めていた。
魚って笑えるんだな……などと意味不明な事を考えながら。
水柱を立てて水中に消える巨大ベラ。
明らかに蟒蛇と体格差がありすぎる。3倍以上はあるんじゃねえのか?
闘魚という性質上、テリトリーに入った蟒蛇に喧嘩を吹っ掛けたんだろうが、眼が合って笑い掛けられたってことはあれだ。
「助けられたってことじゃねえのか?」 ピィ?
そんな甘っちょろい森じゃないことは僅か1日で体験済みだ。
だから、助けられたって考える方が莫迦げてるのも解ってる。
けどよ、そう思ってしまったんだから仕方ねえじゃねえかよ。
悪い癖がまた出たのさ。御人好しっていうやつが。
ガリガリと後頭部を掻きながら、再び空中に躍り出た真っ黒な巨大ベラに目を凝らすと、ステータスが見れた。
◆深淵湖の主◆
【種族】ユニコーンベタ(キングクラウンテール)
【性別】♀
【レベル】?
【状態】興奮
【Lp】? / ?
【Mp】? / ?
【Str】?
【Vit】?
【Agi】?
【Dex】?
【Int】?
【Cha】?
【ユニークスキル】
?
【アクティブスキル】
?
【パッシブスキル】
?
【称号】
?
やっぱり湖の主か。
こんな奴っばかりがわんさか居る森って、ほんと人外魔境だな。
「あっ!?」
蟒蛇の尻尾で弾かれて水面を切るように吹っ飛んでいく巨大ベラが俺の眼に映った。
「あああ、クソっ! スピカ、悪いがここで待っててくれ」
ピッ!
どんなもんか知らんが使ってみねえことには感じが掴めねえ!
「ええい、ままよ! 【粉骨砕身】! っ!?」
か、体の芯から力が湧いてくる!?
これならいけるか!?
ん?
空中に8なのか、三角形を2つ縦に砂時計型に並べたようなモノが浮かんでる。
手を伸ばして見るが、掴めない。
ということは、俺しか見えてないってことか。そういやあ、このスキル10分とかって説明書きにあったな。
詰まるところ、タイムリミットが見えるようになってるってことか。
「随分親切だな」
思わず笑ってしまった。
おっと、時間は有限だ。さっさと手を打たねえと。
ぱふぱふと頬を挟むように叩き、無限収納からさっき抜き取った剣魚の頭を取り出して、それで近くの木を斬ると何の力も要らずにするっと切れた。
ーー気持ち悪ぃな。
正直な感想だ。力が増してるせいか、それともこの切れ味が良過ぎるのか、あるは両方相まってなのか判らないがリアルに感じられないんだよ。
気を取り直して何分割かにスライスした木を、水切りの要領で湖面に放り投げる。
何個かは蟒蛇に届きそうだぞ!?
自分の腕力に驚きつつ、頭の上に陣取ってるスピカに声を掛ける。
「スピカ、ちょっと行って1発ぶん殴って帰ってくる。分かりやすい所で待っててくれ。殴ったら、全速力で逃げるから!」
ピィッ
チラッと足元に転がる木を見ながら気付いてしまった俺……。
ん~~、これってタ○パイパ○みたいに、丸太に乗って飛んで行けるんじゃね?
褒めてやりたい。
悪役だったが、週刊誌で見た彼の登場シーンは当時30代だった俺の心を揺さぶったのを覚えている。
あれ、やりてえ……。
湖の上ではのっぴきならない状態が続いているんだが、俺は自分の欲望を優先させることにした。
スパッ、スパッと枝を落とし、ゴロンと蹴転がせばあっという間に丸太の完成だ。
「むん」
持ち上げてみるがそんなに重たくない。スキルさまさまだな。
狙いは蟒蛇の頭。
今のポテンシャルなら、投げた瞬間に飛び乗るくらいは朝飯前だろう。
「よし、行ってくるな」
ピッ
ぶんっ
予想通り、軌道は山なりじゃなく一直線だ。
スピカに声を掛け、だんっと地面を蹴って飛び去る丸太に……。
ーーあれ? 丸太は?
「丸太がねえっ!?」
Ohーー。
チラっと見えてしまった。彼方に飛び去る丸太の燦きを……。
ちくしょうっ! 強く投げ過ぎた!!
ジャアァァァァーーーーーーーーーッ!!!!
はあっ!?
突然耳元で蟒蛇の声が聞こえたような錯覚に襲われ、何気に視線を落とす。
えっ!? 真下!?
何と一飛びで1キロ近くはある距離を詰めてしまってたようだ。
スキルと兎の身体能力、嘗めてたよ。
そんなことを考えれば当然蟒蛇の上を行き過ぎる訳で、落下中ではあるが、着水地点は結構離れた所になりそうだな。
ーーと思ってたら、すっと何かの影に入ったかと思った瞬間、全身にとてつもない衝撃が入った!?
「へぶしっ!?」
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