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第1章 深淵の湖
第20話 えっ!? ウォーターベッド!?
しおりを挟む「へぶしっ!?」
辛うじて兎の眼に見えたのは、体にめり込む深緑色の鱗に覆われた丸太のようなものだ。
どうやら蟒蛇の尻尾で叩き落とされたらしい。
クソ痛ぇ……。
運好くというか、運悪くというか、落とされた先は蟒蛇の胴体だった。
うわ、まぢかよ!?
「うおっ!? っぶねえ!!」
丁度咬みつけれる位置に俺が落ちてきたようで、巨大な口が体を掠める!
自分の体には喰い付きたくはないらしい。
へばりつくようにして躱せた自分を褒めてやりたい気分だぜ。
「こっからだ。【骨爪】」
スキルの発動と同時に両手の拳から指先までが骨に覆われていく。
あっという間に引っ込めれない爪の出来上がりだ。
これじゃ握れないな。
ジャアーーーーーーーーーッ!!!
爪を体に突き刺された痛みで蟒蛇が身を捩る。
おわっ、落ちるとこだったじゃねぇか!
その間にも巨大ベタの突き上げを喰らっているようで、俺の方ばかりに気を向けていられない状態のようだ。
「へっ、これで落ちる心配はなくなった。って、もう半分しか時間ねぇ!? くそっ!」
視界の隅ある砂時計のようなタイマーサインが半分消えていた。
慌てて、無限収納から剣魚の頭を取り出して、蟒蛇に差し込む!
ジャアァァァァーーーーーーーーーッ!!!
3分の1くらいしか刺さらなかったが、痛みと怒りで錯乱状態だ。
俺を振り払おうと咬み付いたり、身を捩ったりするが爪のお蔭で振り落とされることはない。
とは言っても、リミット時間が迫っていることには変わりなく、俺も若干焦りだしてた。
そこへ――。
蟒蛇の周りの水が盛り上がって尖ったかと思うと、でっかい槍のように伸びで蟒蛇の体を突き抜いてーー。
いや、躱しやがった。
莫迦でかい図体のワリに動きが早え。
けど水の槍を躱したことで一瞬隙が生まれた。
「昨日のお返しっ、だっ!」 どごんっ!
綺麗に拳が握れないから、指を伸ばしたままの状態でアッパーを顎の下に入れてやった。
鈍い音がして顎が浮き上がったからそれなりにダメージは入ってるんじゃないか?
何処かで小さくピシッと言う音が聞こえた気がする。
骨法は殴り技がないんじゃなかったって?
んなもん使うかよ。
こりゃ言ってみればガキの喧嘩だ。
それに骨法は対人間様仕様だからこいつに使える技なんてねえ!
「げっ!?」
んなこと考えてたら蟒蛇の鼻面が眼の前に来た。
咄嗟に右腕を振り下ろす!
ボキン
ジャラララララーーーーーーーーーッ!!!
何かに引っ掛かった手応えが腕に残ったが――。
「ってええええっ!」
その手応えに右腕が耐えれなかったみたいで、ぷらんと関節がない箇所で力なく垂れ下がってる。
「がはっ!!」
顔に傷を付けられたのが余程癪に障ったのか、蟒蛇は咬み付かずに鼻面で俺を水面へ叩き付けやがった。
痛えってもんじゃねえぞ? 顔がひん曲がるかと思ったくらいだ!
どっかの漫画みたいに、吹き飛んでいくのに「キイィィ――ン」って音がしてるんじゃねえかと思ったくらいの勢いだ。
ま、この一瞬でそんなことを考えてる俺もどうかと思うがな。
ぼよぉ~~~~~~ん 「はっ!?」
着水したと思った瞬間、跳ね返った。
えっ!? ウォーターベッドッ!? と勘違いしそうな柔らかさと弾力で吹き飛ばされた勢いが見事に殺され、俺は訳も分からずにしゅたっと水面に立っている。
ジャラララララーーーーーーーーーッ!!!
「っ!?」
呆然としてる暇はない。
足下の水中で黒い魚影が見えた気がしたが、リミットが迫ってるのを視界の三角マークの減り具合が教えてくれる。
怒りで我を忘れてる蟒蛇に背中を見せて、俺は文字通り脱兎のごとく逃げを打った。
1分少々時間があるだろうか。
ハッキリとは判らないまでも、【粉骨砕身】の脚力で湖畔に跳び、折れてない左手でスピカを柔らかく掴む。
ピキュッていう感じの声が漏れた気もしたけど、胸に軽く押し付けるように抱いて走ってるから問題ないだろう。
すぐに下って来た小川沿いに出て山の方へ駆け上がる。
枝葉が体に当たるけど、気にしてる暇はない。
「あそこに良い枝がある!」
朝起きた大木まではもどれないが、それに近い大きさの木を見付けてその枝に飛び乗った時だった。
視界で見えていた三角マークが消えたんだ。
ピシッ ピキッ パキッ ポキッ ペキッ パシッ
良く判らない音が頭の中に響き始めるじゃねえか。
どんどん音が全身に広がっていく。冗談だろ!?
俺は【粉骨砕身】の説明書きをぼんやり思い出した。
確か……限界以上の力を引き出し動けるものの、効果が切れた直後に全身の骨が砕けて動けなくなるだったか?
「ダメじゃねえかよ……」
全身てことは頭蓋骨も含まれるってことだろ!?
味噌が出ちまう。
何とかしねえと、これ使ったらカウントダウン自殺って笑えねえぞっ!?
『ハクトちゃん、落ち着いて。【骨接ぎ】を使うのよ。無事な方の手を頭に当てて、頭から治すの』
「はっ!? ぐうっ、痛みが出てきやがった! くっそう。要するに時間かけて全身粉砕骨折ってことかよ!? 【骨接ぎ】!」
何が起きたのかさっぱり分らん!
急に頭の中に女の声が響いたんだ。ザニア姐さんの声じゃねえ。
けど、何処か懐かしさを感じさせる声に俺は言われたことをした。
頭が割れるように痛くなり始めてるのが、ふっと緩むのが判る。
あとはその繰り返しだ。
「【骨接ぎ】! 【骨接ぎ】! 【骨接ぎ】! 【骨接ぎ】! 【骨接ぎ】! 【骨接ぎ】! 【骨接ぎ】! 【骨接ぎ】! ーーーー! ーーーーーー! ーーーーーーーー! ーーーーーーーーーー!」
《【骨接ぎ】の熟練度が上がりました。【骨接ぎ】の熟練度が上がりました。【骨接ぎ】の熟練度が上がりました》
必死になって【骨接ぎ】を体に掛けていく。
手は頭に当てたままだ。
どっかでアナウンスが聞こえたような気もしたが、【骨接ぎ】を掛け続けた俺は急に眠気を催す。
「【骨つーー…………」
あまりの眠気に眼を開けていることの出来ない俺は、葉が隙間なく茂る大枝に糸が切れた人形のように突っ伏したーー。
『あらあら、仕様のない子ね。ハクトちゃんは』
沈んでいく意識の中で、聞き覚えのある懐かしい声が聞こえたような気がしたーー。
……静江ばあちゃんーー。
第1章 了
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