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幕間
閑話 女神たちの茶会3
しおりを挟むわたしたちは再び大きな水盤を囲んで茶会を催すことになりました。
前回同様、一番上のヘゼ姉様が仕切ってさっさと会場まで準備して居られたので、否応なくです。
あ、いえ、喜んで参加してます。
ヘゼ姉様、そんなに睨まないで下さいまし。
ま、お茶会であろうと、眼の前にある神器を使って世界の様子を観察するのが主な仕事ですからね。
結果的には仕事はしているのですが……。
困ったことに、ヘゼ姉様がスピカたちの動向を気になさるのです。
いえ。
これはわたしの勘ですが、ハクトを追ってるひっ!? な、なんでもありませんわ、姉様。
相変わらず勘が鋭いお方です。
わたしは気持ちを落ち着かせるために、ヘゼ姉様が淹れてくださったお茶の満たされたカップを受け皿ごと持ち上げます。
そうでした。簡単にわたしたちの席順を紹介しますとーー。
長女ヘゼから円卓を右回りに。
次女ザヴィヤヴァ。
三女アウヴァ。
四女ヴィンデミアトリックス。
五女ザニア。
六女ポリマ。
小鳥になった七女スピカ。
八女シュルマ。
末妹ライエル・アル・アウラ
の9人姉妹ですわ。
紅茶ですわね。芳しい香りが鼻に抜けます。
ーー美味しい。
こちらは落ち着いていますが、あちらはそうとは言えない状況のようですわね。
そう思いながら水盤に視線を落とします。
ちょうど深淵の小鬼猿の群れに襲われているところです。
あれくらいではこちらが手を出す必要はありません。
ヘゼ姉様は、『ああ、そこです! そこはこうして!』と観察がお忙しそうですわ。
ヘゼ姉様だけじゃなく、一番下の妹ライエル・アル・アウラと、すぐその上のシュルマも、身振り手振りで楽しんでいるようです。
普段の仕事は死んだ魚なのような眼でノロノロしてるのに随分差があること。
それにしても、あの能力で大怪我を負うこと無く過ごせているのは驚きです。
水盤に映しだされている深淵の森は、管理世界の一般的な能力の持ち主だと生き残ることは難しいでしょう。
他とは隔絶された厳しい環境で独自に成長を遂げた、歪な生態系が存在しているのですから。
そうですね。
解り易く例を上げるなら、レベルでしょう。
フォルトゥーナでは就いている職業位階、によって上限レベルが異なりますが……。
Lv10:新参者(15%)
Lv50:熟練者(42%)
Lv100:究道者(38%)
Lv250:街の英雄(0.0016%)
Lv500:壁を超えた者(0.0008%)
Lv1000:国の英雄(0.0005%)
Lv2000:人外(0.0001%)
――という認識で良いでしょう。総人口からの割合もこのくらいだったと記憶しています。
勇者や魔王は桁が1つ違う域まで成長しますから、ここでは触れないでも良いでしょう。
その中で、大概はLv100-200の間まで上り詰めれれば、一廉の人物と見なされるというのが世界の常識ですわね。
深淵の森は最低がLv100辺りです。
あの深淵の主に至っては更に桁が違いますからね。
ですから、ハクトの能力はわたしや2つ上のアウヴァ姉様からすると異常なのです。
しかも、度重なる戦闘で随分レベルが上がってる事を本人は気付いてないようですわね。
痛みの耐性スキルが生まれたのと、回復強化のレベルも上がってる所為で、肉体の変化を感じ難くなったのかしら。
――と思ってたら、次女のザヴィヤヴァ姉様とわたしのすぐ上の四女ヴィンデミアトリックス姉様が盛大に紅茶を吹き出されました。
ええ、それはもう見事に霧を吹いておられましたわ。
何があったのかと思いましたら、ハクトが見事に深淵の河馬に魅了されてるではありませんか。どのような容姿を思い描いているのか知りませんが、記録しておくことにしましょう。
姉様方はそれがツボに入ったらしく、盛大に咽ておられます。
ザヴィヤヴァ姉様はヘゼ姉様が。ヴィンデミアトリックス姉様はわたしが背中を摩ってあげていますが、咽るのと笑いを堪えるのとでかなりお辛そうですわ。
お2人がここまで笑うのも暫く見なかった気がします。
ハクト、良くやりました。
「ん……主」
わたしのすぐ下、六女のポリマの声に皆の視線が水盤に集まります。
何ということでしょう。
深淵の主がハクトを狙っているではありませんか。
不味いですわね。
今のハクトでは迚もじゃありませんが太刀打ちできません。
チラリと三女のアウヴァ姉様に視線を飛ばすと首を振られました。矢張り姉様も同じ結論のようです。
ヘゼ姉様、そうような眼で見ないで下さいまし。
出来ることと出来ないことがございます。
どうしたものかと思案してますと、なんと湖の主が思わぬ行動に出たではありませんか。
誰かが使役した……訳では無さそうですわね。
ヘゼ姉様?
違う? そうですか。
ならば少し読んでみましょう。
眼を瞑って湖の主に意識を重ねます。
ああ、そういうことでしたか。
間接的にハクトが川に流した獲物の血で力を得ることが出来たようですわね。
深淵に棲む魔物の血は他と比べて格段に魔素の含有量が多い。
魚であれば血液の混ざった水を飲んでそれだけ取り入れることも可能ということでしょう。
それに、獲物を解体してる時に自分も指を切ったか何かで流した血も混ざってたのを吸ったということですか。
これは、面白いことが後々出来そうな気がします。
ハクトもそういうことが必要でしょう。ふふふ。
あ、申し訳ありません、アウヴァ姉様。気が逸れていたのを姉様に咎められてしまいました。
「「おお!」」
と眼をキラキラさせながら最年少の妹2人が、【骨法】のスキルを使ったハクトを身を乗り出して見ています。
え?
【粉骨砕身】は2人が考えたの?
ハイリスクハイリターン?
要らないでしょう。
え?
時間が切れたら全身の骨が砕けるですって!?
何をしてるのですか! 貴女たちはっ!!
全身ということは頭の骨も砕けるという事ですよ!?
人が頭を砕かれて生きていられる訳がないでしょう!?
泣かないっ!
ヘゼ姉様も落ち着いて!
そこからのハクトの動きは眼を瞠るものがありました。
あの深淵の主に一撃入れるとは見上げたものです。
ああ、でも時間がありません。何か良い手がないものでしょうか?
え?
ザヴィヤヴァ姉様なんて仰いました?
【骨接ぎ】?
それです!
すぐに伝えようと思ったら、ヘゼ姉様が既にしておられました。
「ハクトちゃん、落ち着いて。【骨接ぎ】を使うのよ。無事な方の手を頭に当てて、頭から治すの」
水盤の水面に触れるヘゼ姉様の真剣な眼差し……。
昨日今日知り合った男に向ける視線ではありません。
「あらあら、仕様のない子ね。ハクトちゃんは」
魔力を使い切り気を失って枝に倒れこむハクトに結界を張る、ヘゼ姉様の優しげな微笑み……。
そして極めつけは意識を失ったハクトの口から漏れたーー。
『……静江ばあちゃんーー』
という言葉。
わたしは意を決してヘゼ姉様を問い質すことにしました。
「ヘゼ姉様、お尋ねしたいことがございます」
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