えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

文字の大きさ
24 / 333
幕間

閑話 女神たちの茶会3

しおりを挟む
 
 わたしたちは再び大きな水盤を囲んで茶会をもよおすことになりました。

 前回同様、一番上のヘゼ姉様が仕切ってさっさと会場まで準備して居られたので、否応なくです。

 あ、いえ、喜んで参加してます。

 ヘゼ姉様、そんなににらまないで下さいまし。

 ま、お茶会であろうと、眼の前にある神器を使って世界の様子を観察するのが主な仕事ですからね。

 結果的には仕事はしているのですが……。

 困ったことに、ヘゼ姉様がスピカたちの動向を気になさるのです。

 いえ。

 これはわたしの勘ですが、ハクトを追ってるひっ!? な、なんでもありませんわ、姉様。

 相変わらず勘が鋭いお方です。

 わたしは気持ちを落ち着かせるために、ヘゼ姉様がれてくださったお茶の満たされたカップを受け皿ソーサーごと持ち上げます。

 そうでした。簡単にわたしたちの席順を紹介しますとーー。

 長女ヘゼから円卓を右回りに。

 次女ザヴィヤヴァ。

 三女アウヴァ。

 四女ヴィンデミアトリックス。

 五女ザニアわたし

 六女ポリマ。

 小鳥になった七女スピカ。

 八女シュルマ。

 末妹まつまいライエル・アル・アウラ

 の9人姉妹ですわ。

 紅茶ですわね。芳しい香りが鼻に抜けます。



 ーー美味しい。



 こちらは落ち着いていますが、あちらはそうとは言えない状況のようですわね。

 そう思いながら水盤に視線を落とします。

 ちょうど深淵しんえん小鬼猿ゴブリンエイプの群れに襲われているところです。

 あれくらいではこちらが手を出す必要はありません。

 ヘゼ姉様は、『ああ、そこです! そこはこうして!』と観察がお忙しそうですわ。

 ヘゼ姉様だけじゃなく、一番下の妹ライエル・アル・アウラと、すぐその上のシュルマも、身振り手振りで楽しんでいるようです。

 普段の仕事は死んだ魚なのような眼でノロノロしてるのに随分差があること。

 それにしても、あの能力で大怪我を負うこと無く過ごせているのは驚きです。

 水盤に映しだされている深淵の森は、管理世界フォルトゥーナの一般的な能力の持ち主だと生き残ることは難しいでしょう。

 他とは隔絶された厳しい環境で独自に成長を遂げた、いびつな生態系が存在しているのですから。

 そうですね。

 解り易く例を上げるなら、レベルでしょう。

 フォルトゥーナでは就いている職業位階しょくぎょういかい、によって上限レベルが異なりますが……。

 Lv10:新参者(15%)

 Lv50:熟練者(42%)

 Lv100:究道者きゅうどうしゃ(38%)

 Lv250:街の英雄(0.0016%)

 Lv500:壁を超えた者(0.0008%)

 Lv1000:国の英雄(0.0005%)

 Lv2000:人外(0.0001%)

 ――という認識で良いでしょう。総人口からの割合もこのくらいだったと記憶しています。

 勇者や魔王は桁が1つ違う域まで成長しますから、ここでは触れないでも良いでしょう。

 その中で、大概はLv100-200の間まで上り詰めれれば、一廉ひとかどの人物と見なされるというのが世界の常識ですわね。

 深淵の森は最低がLv100辺りです。

 あの深淵の主に至っては更に桁が違いますからね。

 ですから、ハクトの能力はわたしや2つ上のアウヴァ姉様からすると異常なのです。

 しかも、度重なる戦闘で随分レベルが上がってる事を本人は気付いてないようですわね。

 痛みの耐性スキルが生まれたのと、回復強化のレベルも上がってる所為で、肉体の変化を感じにくくなったのかしら。

 ――と思ってたら、次女のザヴィヤヴァ姉様とわたしのすぐ上の四女ヴィンデミアトリックス姉様が盛大に紅茶を吹き出されました。

 ええ、それはもう見事に霧を吹いておられましたわ。

 何があったのかと思いましたら、ハクトが見事に深淵の河馬カバに魅了されてるではありませんか。どのような容姿を思い描いているのか知りませんが、記録しておくことにしましょう。

 姉様方はそれがツボに入ったらしく、盛大にむせておられます。

 ザヴィヤヴァ姉様はヘゼ姉様が。ヴィンデミアトリックス姉様はわたしが背中をさすってあげていますが、咽るのと笑いをこらえるのとでかなりお辛そうですわ。

 お2人がここまで笑うのもしばらく見なかった気がします。

 ハクト、良くやりました。



 「ん……主」



 わたしのすぐ下、六女のポリマの声に皆の視線が水盤に集まります。

 何ということでしょう。

 深淵の主がハクトを狙っているではありませんか。

 不味いですわね。

 今のハクトではとてもじゃありませんが太刀打ちできません。

 チラリと三女のアウヴァ姉様に視線を飛ばすと首を振られました。矢張やはり姉様も同じ結論のようです。

 ヘゼ姉様、そうような眼で見ないで下さいまし。

 出来ることと出来ないことがございます。

 どうしたものかと思案してますと、なんと湖の主が思わぬ行動に出たではありませんか。

 誰かが使役した……訳では無さそうですわね。

 ヘゼ姉様?

 違う? そうですか。

 ならば少し読んでみましょう・・・・・・・・

 眼をつむって湖の主に意識を重ねます。



 ああ、そういうことでしたか。



 間接的にハクトが川に流した獲物の血で力を得ることが出来たようですわね。

 深淵に棲む魔物の血は他と比べて格段に魔素の含有量が多い。

 魚であれば血液の混ざった水を飲んでそれだけ取り入れることも可能ということでしょう。

 それに、獲物を解体してる時に自分も指を切ったか何かで流した血も混ざってたのを吸ったということですか。

 これは、面白いことが後々出来そうな気がします。

 ハクトもそういうことが・・・・・・・必要でしょう。ふふふ。

 あ、申し訳ありません、アウヴァ姉様。気が逸れていたのを姉様にとがめられてしまいました。

 「「おお!」」

 と眼をキラキラさせながら最年少の妹2人が、【骨法こっぽう】のスキルを使ったハクトを身を乗り出して見ています。

 え?

 【粉骨砕身】は2人が考えたの?

 ハイリスクハイリターン?

 要らないでしょう。

 え?

 時間が切れたら全身の骨が砕けるですって!?



 何をしてるのですか! 貴女あなたたちはっ!!



 全身ということは頭の骨も砕けるという事ですよ!?

 人が頭を砕かれて生きていられる訳がないでしょう!?

 泣かないっ!

 ヘゼ姉様も落ち着いて!

 そこからのハクトの動きは眼をみはるものがありました。

 あの深淵の主に一撃入れるとは見上げたものです。

 ああ、でも時間がありません。何か良い手がないものでしょうか?

 え?

 ザヴィヤヴァ姉様なんておっしゃいました?

 【骨接ほねつぎ】?

 それです!

 すぐに伝えようと思ったら、ヘゼ姉様が既にしておられました。

 「ハクトちゃん、落ち着いて。【骨接ぎ】を使うのよ。無事な方の手を頭に当てて、頭から治すの」

 水盤の水面みなもに触れるヘゼ姉様の真剣な眼差し……。

 昨日今日知り合った男に向ける視線ではありません。

 「あらあら、仕様のない子ね。ハクトちゃんは」

 魔力を使い切り気を失って枝に倒れこむハクトに結界を張る、ヘゼ姉様の優しげな微笑み……。

 そして極めつけは意識を失ったハクトの口から漏れたーー。



 『……静江ばあちゃんーー』



 という言葉。

 わたしは意を決してヘゼ姉様を問いただすことにしました。






 「ヘゼ姉様、お尋ねしたいことがございます」





しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...