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幕間
閑話 女神たちの茶会4
しおりを挟む「ヘゼ姉様、お尋ねしたいことがございます」
「ハクトちゃんのことね?」
少しだけ間を空けてヘゼ姉様は確認してくださいました。
そうです。
でもこの疑問を持ったのはわたしだけではないはずです。
八女のシュルマと末妹のライエル・アル・アウラは……。
そうね。期待したわたしが愚かでした。
2人は放っておきます。
「ふう。わたしが創造主様の命で数日居なかった時のことを覚えてるかしら?」
ヘゼ姉様の問いに皆が頷く。
わたしも立ったままでは姉様を咎め立てているように見えましたので、腰を下ろします。
言われてみれば確かにそういうことがありました。
わたしたちの感覚では最近の出来事ですが、地に住む者であれば100数十年は経っていても可怪しくないでしょう。
神族とそうでない者たちにとって時間の感覚がそれだけ乖離しているということですわ。
悠久の時を管理惑星の為に過ごすわたしたちの為を思って創造主様が与えてくださった賜物です。
そうでなければ、きっと気が触れていたことでしょう。
「“神族ノ因子”を届けに行ったのよ」
「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」
“神族ノ因子”。
わたしたちは思わず息を呑んでしまいました。
わたしたちの仲間が増える時は3つあります。
1つは創造主様が直接創造なさる時。これは殆ど無いと言ってもいいでしょう。
2つ目。神族の男神と女神が夫婦になり子を為す時。
3つ目。それが今ヘゼ姉様が語った人の中に“神族ノ因子”を撒き、時が来たら因子を発芽させたものを招く。
そこまで考えて、はっとヘゼ姉様を見詰めます。
「本当はね、届けてから帰るつもりだったんだけど、旦那様がタイプだったの」
その言葉に年上組は肩の力が抜けてしまいました。
ヘゼ姉様……。
「あ、ちょっと勘違いしないで頂戴。略奪愛なんてしてませんからね!」
誰がそんなことを訊きましたか。
え?
ヴィンデミアトリックス姉様?
興味がある?
はあ、勝手にして下さい。
そもそもヘゼ姉様の場合はそのケースじゃなかったんでしょ?
「そうなの。因子を届けて、ちゃんとお腹の子に着いたんだけどね。産後の肥立ちが悪くって母親が亡くなってしまったの」
まさか……。
嫌な予感がします。
「偶然を装って、後妻に入っちゃったの♪」
何やってるんですかーーーーっ!?
姉様たちも笑わないでくださいっ!
何が「入っちゃったの♪」ですか!
そこ! 笑わない!
調子に乗って末の3姉妹がケタケタと笑うものですから、テーブルを叩いて強めに怒ってしまいました。
あ゛!? 誰 が 行 き 遅 れ で す っ て?
ふう。分かれば良いのです。
全く妹たちの口が悪いのは誰に似たのやら……。
あ、続けて下さい。
「でね。夫婦とは言え、神族なのでその辺りは力を使って旦那様に満足してもらってたんだけど、ほら、寿命がね?」
ヘゼ姉様の言わんとしておられることは理解できました。
確かに神族ともなれば人間の寿命の枠に捕らわれません。
滅ぼされない限りは不死ですからね。
「仮初の肉体だから時の経過と老いを出すのは問題じゃなかったけど、その、いつまで地球に居るかというのがあって」
結局、人間の感覚でいう100数十年居てしまったと?
わたしの確認に冷や汗を垂らしながらヘゼ姉様が同意してくださいました。
「それで、『静江ばあちゃん』というのは?」
何となくは判ってしまいましたが、妹たちはまだ「?」という表情でしたので姉様に呼び水を流します。
「わたしが後妻に入った家が因幡家だったの。そうハクトちゃんの家ね。その時のわたしの名前が因幡静江。で、因子が代々受け継がれてハクトちゃんに宿ったのを確認出来たから帰って来たの」
ヘゼ姉様、端折り過ぎです。
因みに、ハクトは因幡家の何代目なのでしょう?
「う~ん。旦那様が言うには、稲羽の興りが地球の暦で1500年辺りだったかしら。だから旦那様が8代目?」
訊かないで下さい。
稲羽? 因幡ではなく、稲羽?
「そうなの。何でも隠したい名前なんですって。だから国許が違う因幡という字を当てたみたい。えっと、源蔵さんが8代目だから、ハクトちゃんは……」
そうブツブツ言いながら指を折るヘゼ姉様。
「14代目ね! 因幡の子たちは皆早く結婚して子どもを作るから。ハクトちゃんからすれば……ひいひいひいひいお婆ちゃんね」
そこ、ひいひい真似しない。
ギリギリ直系と言える六世の祖ですか。
そのサイクルが短いからハクトとヘゼ姉様が重なる時期があったと?
「そうなの。始めは因子が着床してなかったから、ああ、この子もダメかなと思ってたら、5歳の時にね。あの子はわたしの膝枕で寝るのが好きだったのよ。うふふふ」
嬉しそうに微笑むヘゼ姉様を見て、今までの流れであったモヤモヤが消えて腑に落ちた。
だからハクトに拘ったのですね。
これはスピカには聞かせれません。
でも、何を思って創造主様はハクトをスピカにと選ばれたのでしょう?
いえ、わたしごときが詮索してはいけません。
創造主様の深遠な御心のままに。
「さ、これでお話はお仕舞い。お茶会もお開きにしましょう」
パンとヘゼ姉様の柏手がわたしの思いを連れ戻しました。
そうですね。
ハクトのことが判っただけでも良しとしましょう。
皆が席を立ち各々の仕事場へ戻ろとした時、アウヴァ姉様の手がわたしの袖を引くのに気が付きました。
何でしょう?
「深遠の森に居るのはあれだけじゃないだろ? どうするつもりだ?」
アウヴァ姉様の男勝りな口調は相変わらずです。
確かにあの森には他を寄せ付けない理由があります。
ですが、今の時点ではそこに向かう気配もありませんし、あれも積極的に動く事はありませんから問題ないでしょう。
「そうか。お前がそう言うなら今日は下がる」
一瞬だけ眼光が鋭くなったのでひやっとしましたが、アウヴァ姉様はそのまま歓談室を出て行かれました。
その様子にわたしも何処か引っ掛かるような胸騒ぎを感じはしましたが、それ以上は考えても分かりませんので忘れることにしました。
水盤にはハクトとスピカが仲良く寝息を立てている様子が映しだされています。
思わず頬が緩んでしまいました。
慌てて両手で頬を引き締め、わたしも仕事に戻ります。
サロンを出る前に水盤へ向けて自然と声が出ていましたーー。
「ハクト、スピカを頼みましたよ」
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