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「ここまで異変があるのに強行するのは得策じゃない気がします。イリアもいないし…」

シーアの意見にライモンが頷く

「せっかくここまで来たのよ!?あと一層で誰も帰らない未踏の階層なのに!」

メビウスが叫ぶように言うが、まああれだけ恐ろしいドラゴンがいたら、誰も帰らないのは納得だ

そういえば、ドラゴンはずっと俺たちを探し回っていた。大丈夫だろうか?我が子達を殺されて怒り心頭、絶許状態だろう

「報告との違いは見逃せないし、未知すぎる。ましてや世界樹の根が枯れる事態だ。階層全て毒で満ちていたらどうする?いくら探索魔法で大体はわかるとはいえ、また不確定要素があるので、出直さないか?」

タレ目のチャラ男、ライモンがまともな事言ってる。

あの張り巡らされた茎や蔦は世界樹の根っこだったのか

それよりも、俺は脱水症状を起こしかけている。喉がカラカラで限界を迎えそうだが、今、緊迫した様子で話し合っているので水を強請るなんて出来そうにない

なんとか唾を飲み込んで、ひりつく喉を癒す

誰もいなかったら湿地帯の泥水でも啜ってしまいそうだ

泥で固まったバルジアンの頭を撫でながら、ぼんやりと意識を飛ばす

確かアビスは、ドラゴンがいる一層下が最下層ではなかっただろうか?

ああ、到達した人がいないと言っていたな

でも、探索魔法で下があるなら、まだ俺たちは最下層は見ていない事になる

大体こういうギルド向けのダンジョンは最下層にお宝が山のようにあるのだと本で読んだ

難易度でお宝の内容は変わるらしいが、地下迷宮、アビスが大人気の理由は未だ誰も打破していないダンジョンなので、ドラゴンの溜め込んだお宝があるという噂を聞いたことがある

大体、湿地帯で冒険者達は全滅して、S級の冒険者ですら半ばまでしか進行していない

つまり、このパーティは、かなりの強者、少なくともS級かA級のクランになる

バフやヒーラーがいないのは、欠けたのだろうか

どう見てもシーアは神官のような出立だが、攻撃要因に見える

もぞもぞと動くバルジアンに息を吐く

早く、起きて欲しい。なんとなく、怖い

「いいじゃない。緊急時の囮はいるんだし」

一斉に全員が俺を見ている気がする。

聞こえないところで、やってくれよ。本当に水なんて強請れない…。

囮になるのだろうか?いや、囮というより、バルジアンと俺は一層下のドラゴンに激しく恨まれているので本命だろう

くだらない事を考えていると、先程からもぞもぞしていたバルジアンが起き上がる気配がした

幼い仕草で目をこすりながら起き上がるバルジアンからパラパラ泥の塊が落ちていく

そして起き上がると、がばっと俺の両肩を掴んで揺さぶってきた

「んー…クルー、無事?!大丈夫だった!?あれ?コボルトは…?」

血塗れパリパリ泥の俺を見て、バルジアンは泣きそうになりながら、ヒーリングをかけてくる

「あ、大丈夫、大丈夫です。バルジアン様、いいから、怪我してないから…」

バルジアンを宥める俺たちの姿を、一行はずっと見ていた

「決まったな。潜ろう」

ライモンの言葉に、蔦を伝って降りる事は確定したらしい。

不思議そうに一行と俺の顔をバルジアンはきょときょと見比べてくる。

「バルジアン様が気を失われて、助けてくれたパーティです。しかし、気をゆるされませんよう」

こそこそとバルジアンに耳打ちすると、素直にこくこくと頷く

本当に素直なんだよなあ…

「気を失っている間、クルーを助けてくれて、ありがとうございます」

未開の地だし、恩人ぽい一行に珍しく笑顔を向けるバルジアンを胡乱な目で見る

にこにこバルジアンがライモンに話しかけるが、嫌そうに顔を歪められていた

今、見た目があれだからなあ。血塗れの泥まみれ、いくら美貌を誇るバルジアンとて今は浮浪者にしか見えない。しかも、半裸だし。

握手を求めるも、メビウスにぱちんと手を叩かれてバルジアンはショックを受けていた

何故なら親にも殴られたことがないのが、バルジアンだ。魔物はともかく、魔物にはヒャッハーだが、幼少期はともかく、最近ではユーリ以外は阿りご機嫌を伺う取り巻きに囲まれた、お坊ちゃんなのだ。衝撃だったに違いない。

「穢らわしい手で、ライモンに触らないでちょうだい」

赤い唇を尖らせて言うメビウスを手で制し、ライモンが前に出る

「私はライモンだ。黒髪がメビウス、大きい赤毛がロイ。あの背の低いのがシーアだ。君はヒーリングが使えるのか?ヒーラーだけでアビスに潜ったのか?命知らずにもほどがある…」

多分、ライモンは瞬時に俺たちの力関係を見抜き、バルジアンの立ち居振る舞いから貴族というのも見抜き、貴族の遊びで危険な真似をするなと咎めているのだ

まともな人間だ

「すみませぇん。いけると思ったんですぅー」

棒読みで聡いバルジアンは小馬鹿にするようにライモンを煽る

「!!これだから貴族はっ!!」

噛みつきそうなくらい怒ったライモンをロイが止める

「まあまあ、お貴族さまなら別です。無事にお送りできるよう報酬をいただきたく。たまにヒーリングをしてくださるなら格安でお引き受けしますよ!」

一番存在感がなかったシーアがべらべらと捲し立ててきて、バルジアンもライモンも毒気を抜かれたらしく、ぷいっと背を向けて離れた
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