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第二章 間違いが、正解を教えてくれる。

金玉大パニック!

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「……え? なんでA5……?」

 俺が手にした金太真琴きんたまこと先生の3年振りの新作は、驚くべき薄さだった。

 その厚さは、実に1センチにも満たない。

 その代わりと言ってはなんだが、非常にサイズがデカかった。分かる人にしか分からないだろうが、個人的に俺は手にした瞬間に、その新作のサイズがA5であることを察した。

「マミリン、ほら、次の次だよん」

 俺が、新作に目を落としたまま、別の世界へトリップしていると、たろさんにそっと肩を叩かれた。

「…………たろさん」

「ん?」

「…………なんで先生の新作が、同人誌サイズなんですか?」

「同人誌だからデショ」

「…………は?」

「金玉先生って、二次創作の同人誌の権威よ」

「…………は?」

「ついでに言うと、この同人誌のイラスト俺が担当してるのよ」

「…………えっ?」

「あっ、ほら、次マミリンの番だよー、いってらっしゃーい!」

 俺は、何の心の準備も、金玉先生のことも、何もかも分からないまま、パネル板の向こう側へと背中を押された。俺に分かっていることは、A5サイズの小説は、薄い本こと同人誌の小説の人気サイズであるということだけだった。


 ……えっ!? 新作って……同人誌の!? 金玉先生だか何だか知らねーが、そんなどエロ作家を金太真琴先生と同じ扱いするだなんて、言語道断だ! なーにが、金玉先生だっつの、そいつに金太真琴先生の爪の垢でも煎じて飲ませてやりてーわ! 金太真琴先生はなぁ……金太真琴せ……きんた、まこと……んん? きんたまこと……金玉こと……。

 やっぱ金玉こと金太真琴先生じゃ……ね……ぇ……か……。

 一度、知ってしまったことは、そうやすやすと忘れることなんてできない。
 もう、俺にとっても、金太真琴先生の名前は、偉大なラノベ作家と金玉の二重の意味を持つようになってしまった。

 ネットの検索避けだかなんだか、知らねーが、よりによって1番隠さなきゃならないモンを伏せ字に使ってんじゃねぇえぇえええええッ……。

 そして、俺は灰になった。


「あれ? あなた、目の焦点がぜんぜん合ってないみたいだけど大丈夫?」

 俺がふらふらと、足元もおぼつかずにパネル板の向こう側へ行こうとすると、サイン会のスタッフらしき人に、肩を支えられた。

「えっ!? みゃーちゃん、どうしたの!?」

 そろそろ聞き飽きてきたような、聞き覚えのあるその声に、思わずぼんやりしたまま顔を向けると、俺よりもっと具合の悪そうな真っ青な顔で、銀田が椅子から立ち上がったところだった。

 ……あれ、おまえ??? なんで、そんなとこ座ってんだ……??? そこは金玉先生……じゃなかった、金太真琴先生の席だろうが……。

「えっ、この方って、金玉先生のお知り合いなんですか!?」

 ……おい、そいつは銀田っつって、俺の古い知り合いだ……ついでに、あだ名はザギンだ……金玉じゃねぇ……。あと、金太真琴先生の伏せ字をリアルで大声で叫んでるんじゃないよ……それ女子が1番叫んじゃダメなヤツ……。


 そして、あらゆる状況に対応しきれなくなった俺の自律神経は、ついに考えることを放棄した。

 つまり、俺は気を失った。


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