ベッド×ベット

崎田毅駿

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大魔術中魔術小魔術

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 水気があると困るだろうからと、大きめのタオルを渡された。お風呂場に入ってみると、確かに湿気が籠もっている。高い位置にある窓を開け放ち、空気を入れ換えることで、だいぶすっきりした。あとはカードを置ける場所を確保する必要があるけれども……さすがに、拭いても拭いてもわずかな水分が残り、気になる。カードは紙製のようだし、借り物なんだから濡らしたくない。最終的に、バスタオルを敷いてその上で扱うのがベターだと判断した。
 そしてお風呂場にてあれこれ試すこと一時間弱(※私の体内時計によると)、何となく掴めてきた。
「魔法って、新しい力が身に付くっていうよりも、元々得意だったけど忘れてしまっていたことを思い出す感覚に近いかもしれない」
 お風呂場から出た私は、ビッツを見付けた。どうなった?と問われたので、少し考えて上のような説明をした。
「具体的には? 何かできるようになってた?」
 興味津々、こちらの手元のカードを見ながら、聞いてくる。
「もちろん教えるけれども、その前に、ご家族の中で魔法を使えるのはヤッフさんだけと言ってたよね」
「ああ、それが?」
「将来、たとえばビッツが魔法を会得するってことはないのかな?」
「自然に身に付くってことはないし、勉強して身に付くってものでもない。唯一、大魔法師っていう位にある人に、眠っている才能を認められて、その人から魔法を掛けてもらったら、いきなり魔法を使えるようになることはあるよ。滅多にないけれどね。何らかの理由で閉じ込められて芽吹かなかった才能の種が、大魔法師の魔法で一気に花開くっていう感じかな」
「ふうん。じゃ、ビッツもナフトさんも魔法の力を持っているかもしれないと」
「可能性はゼロじゃないけど、実際にはねえ。子供の頃に一通り検査を受けて、大抵は分かる。今言った芽吹かなかった才能っていうのは、他の悪い奴の魔法のせいで封印されてたっていうパターンだからね」
「芽吹いたあと、つまり魔法が一度発現したのにまた隠れてしまうこともある?」
 サウス巡査補の「封じる」という言葉を思い出しつつ、聞いてみた。
「自然に消えちゃうなんて話は聞かないけど、力が衰えるってことは時々あるみたいだよ」
「衰えは計測できるものなのかなあ」
「さあ? わざと魔法が使えないふりをして、検問を突破するのに成功した犯罪者がいるっていう話だし、本当に衰えたのと衰えたふりとを区別するのも難しいんじゃない?」
「なるほど、ありがとうね」
「ううん、いいよ。何でそんなこと聞いたのかが気になる」
「それはええと、自分の中でこれが魔法なのか違うのか分からないって言うのがあって」
「どーゆーこと?」
「うーん、やって見せた方が早いと思うから、テーブルのあるところで」
 そう希望すると、ビッツは快く承知してくれた。
「ただし、もうじき夕飯の手伝いをしなくちゃいけないから、なるべく短めにね。あ、母さんも呼ぼうか」
「今はビッツ一人で。大勢だと緊張してしまうかもしれない」
「緊張でできなくなるとしたら、魔法じゃないかも。なんてね」
 ビッツの個室に入り、座卓を間にして座った。
「それでは始めます」
 私は日頃のトランプ遊びで慣れ親しんだ手つきから入った。ヒンズーシャッフルからリフルシャッフル。さらにオーバーハンドシャッフル、再びリフルシャッフルを今度は手を宙に浮かせた状態で。
「おお、お見事」
「これは明らかに魔法じゃないんだけど」
 感心した風に口をオーの形にして、拍手のポーズをするビッツ。どうやら本心から言っているみたいだ。もしかしてこちらの世界には今やったようなシャッフルがないのかな? 思い返してみれば、サウス巡査補もカードをテーブルの上でごちゃ混ぜにしていたし、シャッフルという表現は使わなかったような。あんまり覚えてないけど。
 いちいち驚かれるのも面倒だし……最初に考えていた手順を省略することにした。
 カードの山を裏向きの状態でテーブルに置き、一番上のカードを手に取って、一旦、表を見せる。☆の7だった。これをまた裏向きにして戻してから、改めて左右に振る。再び表向きにすると、それは□の3に変化していた。
「どうかな」
 手を止め、ビッツの表情を窺う。彼女は目をまん丸にして、こちらの手元とカードを見つめていた。やがて一言、
「凄い」
 とだけ呟いた。
 私は会心の笑みを浮かべていたと思う。そうして「マジックが上達する魔法に掛かったみたい」と続けようとした。
 ところがビッツは続けざまに、凄い凄いを連発して、「これは紛う事なき魔法だよ。明日朝一番に行こう」と騒ぎ出す始末。
 何か変だな。
 思わず首を傾げて、少し考えたところでもしやと思い当たる節が浮かんだ。

 つづく
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