上 下
173 / 194
第八章

二十六話【崩壊】

しおりを挟む
現れた応援にホッとするガオ。

セシルが叫ぶ!

「外壁の外にも!」

刀を構えるツナマヨが、瞬間的に指示を飛ばす!

「スワロ殿、外壁の外を頼む! ミコは下がれ! ベンゾウ、弁慶! ここは頼むぞ! 私は岩山の上から来るのを抑える!」

ピノとクロが岩山の上から襲い来る蟲に、光剣を飛ばしなんとか持ち堪えていた。

いつの間にか集まる蟲はゴキブリだけじゃなく、色んな蟲が混じっていた。

その中にハイブリッドの姿も見える。

スワロの捜索に森に出ていたグルミターナの人間が戻りつつあったのだ。

「アジトに少ないと思ったのだ!」

岩山を駆け上がるツナマヨ。

ベンゾウと弁慶は、ロンシールから目を離さない。

光剣を足場に外壁に登るスワロ。

数匹の大型の蟲の足元に、ゴキブリや人の面影を残す上位種を目にする。

「流石ドラミ殿の作った外壁だな!」

ピノの光剣とは比べ物にならない数の光剣に雷を纏わせ、空に浮かべ始めるスワロ。

「お姉様……」

疲れ切ったピノの表情も、明るく復活する。

下がるミコを受け止めるガオ。

セシルが直ぐに、回復魔法を唱え始める。

ベンゾウの背後に、岩山から転げ落ちる蟲の残骸。

洞窟から現れ、ゲルドマの斧を持つ弁慶に、ロンシールが静かにグルミターナの崩壊を理解する。

「いや、また始めるだけだ……」

ボソッと言葉にしたロンシールが、ふたりに剣を向け構える。

「勇者は? あの男はどうした」

せめて奴だけでも……





重い足取りで階段を登る惣一郎が、ゲルドマ達と戦った広い空間に出る。

ロンシールが蟲を集め、強制的に次元を開かせた場所。

この大陸から蟲を送り込み、勇者を呼ぶ為だったのか……

奴らを倒せば、ベンゾウ達の世界に厄災が現れる事も減るだろう……

まさか厄災が人為的な物だったとは……

別の世界での事が繋がっていた事に、気が滅入る惣一郎。

上に登る階段を上がると惣一郎は、無数の鉄球を出し、空間の天井を撃ち始める!

入れ替わりマシンガンの様に打ち付ける鉄球は、次第に天井を崩し始め、瓦礫の山が空間の中央に出来ていく。

杖を構え集中する惣一郎。

徐々に崩れる瓦礫は大きくなっていき、地鳴りが聞こえ始めると、一気に崩壊を始める!

鉄球を引き連れ、慌てて出口へ向かう惣一郎。

途中から杖に乗り、一気に出口へ向かう。

激しい地鳴りと崩壊音が惣一郎を追いかけて来る。

やり過ぎたと焦る惣一郎が、勢い良く洞窟を飛び出すと、そこにはボロボロになった蟲が混ざる銀髪のダークエルフが黒い剣にもたれ、なんとか立っているといった状況であった。

外壁の上ではスワロが手を振り、外は夥しい数の蟲の死骸で埋め尽くされている。

旋回し戻ると、岩山の上にはツナマヨが肩を揺らし、鞘に刀を仕舞う。

クロの背中でぐったりするピノも見えた。

みんな無事の様だ。

セシルに治療を受けるミコの元に降りる惣一郎。

岩山の向こうで大きな音を立て、地面が崩れ落ち始める。

ツナマヨとクロが急いで岩山を降り始める。

「怪我の具合は?」

脇腹を抑えるガオが「ガオ」っと言うと、俺は大丈夫っと聞こえる。

セシルが膝に乗せたミコを見て、

「もう少し時間がかかりますが、大丈夫です」

っと答える。

ミコは笑っていた。

「大した事ねーや」

惣一郎は回復薬をミコに渡し振り返る。

弁慶とベンゾウに挟まれ、膝を突くロンシール。

「お前がロンシールか?」

額から流れる血で片目を塞ぐロンシールが、震える脚でまた立ち上がり答える。

「妾が魔女ロンシールだ…… 貴様が勇者だな」

ベンゾウと弁慶に怪我はなさそうだ。

流石にこのふたり相手では、魔女でも勝てまい。

「終わりだ。魔女に操られて復讐したいんだろうが、無意味だ。復讐したい勇者は魔女を封印しお前らが喰った御神体だ」

「そんな事知っておるわ!」

「魔女の残留思念に振り回されているだけなんだぞ!」

「煩い! 何も知らぬ癖に、妾達がこの世界でどう生きて来たか貴様に何がわかる!」

声を荒げるロンシールに反応するベンゾウと弁慶。

惣一郎が幻腕を出し、ふたりを止める。

「何も知らないし知りたくもない…… ただな、関係ない人達を巻き込むな!」

無数の鉄球が惣一郎の背後から、ロンシールを襲う!

硬い剣に弾かれるも次々に襲う鉄球が、次第にロンシールの外殻を砕き、押し倒す!

剣を手放し大の字で天を仰ぐロンシール。

夜空は東から薄明るくなり始めていた。







しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

長生きするのも悪くない―死ねない僕の日常譚―

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:1,491pt お気に入り:1

星を旅するある兄弟の話

SF / 連載中 24h.ポイント:1,171pt お気に入り:1

野良烏〜書捨て4コマ的SS集

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:1

音のしない部屋〜怪談・不思議系短編集

ホラー / 連載中 24h.ポイント:511pt お気に入り:3

初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:71,611pt お気に入り:6,908

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:211,133pt お気に入り:12,361

処理中です...