底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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子供達

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「こちらが学び舎になります」
「なるほど」

一軒の平屋の中は、だだっ広い部屋と、教材置き場という小さな部屋で構成されていた。
ただ全ての窓は南向きで、とても明るい。
教室の中では、手作りと思われる長く大きなテーブルが二つ有って、その両側には十人ぐらいの子供が、教材を手にそれぞれ座っている。
しかし教材と言っても、ノートは板であり、鉛筆は先を細く尖らせた枝炭だった。

「お恥ずかしい話ですが、これが私達の精一杯なのです」
「いえ、一男爵が、自分の財産を用い、ここまでするのは大した物です」
「ありがとうございます。」

私はスラムの存在を知っていても、こんな事をするなど思いもつかなかった。

「ちょうど今は授業中ですね」

机に着いている子供たちが私達に気が付き、先生の話を聞きながらもチラ、チラとこちらを覗き見ているのがとても可愛い。

「授業は主に口頭です。文字の練習時だけはあの板を使い、終われば各自がブラシで洗ってから帰ります。本当は紙を使わせてあげたいのですが、何せあれは高価ですから我慢してもらっていますよ」

確かに紙本はかなり高価だものね。

「町の子もここへ?」
「…私達は全ての子供を迎えたいとは思いますが、実際ここに来るのはある程度の階層の子でしょう。本当に貧しい家の子は、自分の家の手伝いをしなければなりませんし、反対に学校に行ける程度の家の子はこんな所には来ませんね。親のプライドや見栄が有るのでしょうが、実際そこでは私達の教える事以上の学問を学べますから」

それもそうか……。

「では、隣に行ってみますか?」

学び舎の北側に位置する同じ形の建物は、確か身寄りのない子供を引き取り、世話をしていると聞いな。

こちらの建物は大きく二つに仕切られていた。
それ以外はトイレと浅い風呂。

「先日話しましたが、こちらでは身寄りの無い子供を引き取り育てております。面倒は我が家のメイドが代わる代わるしてくれています。食事は屋敷の方で調理し、ここまで運びます」
「ここで面倒を見る子供の条件は?」
「そうですね……具体的な定義は有りません。働く事の出来ない、とても小さく貧しい子、教会が見逃した子供。そんなところでしょうか。それでも私達にも限界が有ります。悔しいですが、引き取るべきと思われた子供に目を瞑った事も何度かありました……そういう時は、やはり私達のやっている事は偽善なのだろうかと思い知らされましたね………」
「そんな事は有りません。あなたのしている事は偽善ではなく、立派な行いです」

この優しい人達は、それゆえ他人から傷つけられるのか。
きっとそんな事を言う人は、自分が出来ない腹いせにそう言い振れ回るのだろう。
やっぱり後で名前を聞き出して、ぶっ飛ばしてやろうかな。

一つ目の部屋は子供たちが寝泊まりをする部屋。
そこには普通のベッドが幾つかと、ベビーベッドが二つ。
一つのベッドには、数人の子供が一緒に眠るそうな。
壁には仕切られただけの棚が並び、洋服や靴や、いろいろな物が収まっていた。
本当に簡素で、必要最低限のものしかないのだろうが、スラムで暮らす事を思えば、それでも雲泥の差なのだろう。
その隣の部屋は、何となく見覚えのあるような部屋だった。
これって、内職…だよね?

「こちらでは子供達に仕事をしてもらっています。仕事と言ってもあの子たちに出来る事は限られていますから、大した事では有りませんが」

なるほど、確かにこれは、私がやった覚えがあるものだ。
大きな箱に入った沢山の品物を、違う小箱に見栄えよく並べるとか、太く巻かれた糸を、小さな芯に巻き直すとか、小さな子が出来そうなものがほとんどだ。

「この子たちは隣の野原を開墾し、小さな畑もやっています。もちろん近隣の人も手を貸してくれます。乾季には子供達が、少し向こうの小川から水を運びます。ですがこの子たちはそれを辛いとは言わない。反って生き生きと楽しんでいるように思われるのです」

そうだね、自分の作った物は、また格別な味わいだものね。

「私達は、子供たちに食事や寝る場所を提供するだけではいけないと気が付いたのです。大人は子供に、労働の必要性を教えるなければいけないのです」

働かざるもの食うべからざる、を身をもって教えているんだね。
保護するだけでは駄目だと、この人たちは、子供の為に何が必要かをちゃんと考えているんだ。
うん、この人たちは信用できる。



「さて、行きつくところはやはりお金か……」

最近覚えた錬金で、金を作ればそれで解決だろうけれど、それだと経済バランスが崩れると怒られるだろうし、一時的に潤っても、それは時が経つに従い廃れる。
正攻法で稼ぐにはどうすれば良いのだろう?
ここに目立った物があれば、それなりに人を集める事は出来るのだろうが、この地に有るのはありふれた町と、広い野原と、それを開墾して作られた畑。
それと高い山と、そこから流れる幾筋もの川。
どこにでもある風景。
長くお金を生む方法か………。

まあ私一人で悩んでもいい案などたかが知れている。
これは皆に相談したり、誰かに指示を仰いだ方が良いだろう。


学び舎の庭を、考えながらふらふらしていると、授業が終わったのか何人かの子供が飛び出してくる。
その中で、私に気が付いた子が数人、私に向かって駆けてくる。

「ねぇ、お姉ちゃん。ミシェル様のお友達なんでしょう?」

ミシェル様か、ミシェルあんた、ここでは偉い人に分類されているみたいだよ。

「ミシェル様はもうここには戻ってこないの?」
「ミシェル様って、とても優しくて綺麗だったんでしょう?私ミシェル様に会ってみたかったな」

綺麗か…、確かにミシェルはそばかすがキュートで、可愛い顔立ちをしていたっけ。

「ミシェルに会いたい?」
「うん!」
「会えるの!?」
「本当のミシェルには会えないけれど、それならみんなでミシェルを作っちゃおうか」
「作る?」
「ミシェル様を作れるの?」
「たぶんね」

ざっと見渡し、柵の内側に大きな木を発見。
その下にとても気持ちの良さそうな木陰が出来ていて、きっとミシェルが好きそうだなと思ったので、ここに作ってしまいましょう(旦那様に許可とれよ)

私はこの子たちを連れ、そこにポコポコと歩きます。
そこの土を粘土状に耕し、準備は万端。

「さて、どんなミシェルを作ろうか?」
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