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第三章 ジュリエッタ逃亡編

変身

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この先の事か…。
とにかくスカーレットに迷惑をかけるけど、
今は甘えさせてもらおうと了解してもらった。
ついでにこの際だから思った事をぶつけてしまおう。

「あのね、取りあえずここに匿ってもらうとして、
スティール様とかの情報が欲しいの。
後はおばあ様の方でしょ。それと…。」

「あなたの家の方もね。
今頃きっと焦っているわよ~。
私もぜひ知りたいわ。」

相変わらずスカーレットはとても楽しそう。
私もその気分を味わってみたいわ。

「いいわ、任せて。
そちらの方は、うちの調査員に言っとくから。」

「ありがとう!
後は、これから先どうするか、よね。
ここに閉じこもってばかりでは、すっごく心苦しいし、
私も何かスカーレットの手伝いとかできないかしら。」

何だったらこの店の売り子でも何でもやるわよ。
私はそう言ったけれど、スカーレットは戦力外だとあっさり拒否した。

「だって、この店は一応ドレスとかも扱っているけど、
ほとんどは庶民を対象にしているし、食料品とか雑貨品もかなり扱っているのよ。
一から勉強しなければならないジュリエッタには無理だと思うの。」

「勉強する。
色々な事を覚えて、手助け出来るようになるわ。」

でもねぇ。
とスカーレットは私をチラッと見る。
失礼ね、私だってやろうと思えばできるわ。

「そんな事より、あなたができる事をやればいいんじゃない?」

私にできる事?
ずっと今まで貴族の暮らしをしていて、
勉強してきた事と言えば、普通の令嬢が出来る当たり前の事ぐらいだ。
あと特殊な事と言ったら、少しばかりの帝王学。
夫を助ける為の知識だ。
でも今の私には、そんな物は何の役にも立たない。

「今の町娘達は、かなり強かなのよ。
いい男、つまり金持ちイケメン、城に勤めている男とか、
貴族に見初めてもらいたいなん子もいるわね。
とにかく夢のような結婚に憧れている子が五万といるのよ。」

「後の苦労も考えずに、ご愁傷様…。」

「まあね、でもそれが今の子の現実なのよ。
だからその夢見る子達は自分を磨く事に余念が無いのよね。」

ふむふむ

「つまり、もしあなたが何か仕事をしたいのであれば、
それを利用すれば?」

「利用?その言葉は好きじゃ無いわ。」

「そうね。でもその子達は自分を磨きたい。
あなたは何か仕事をしたい。
つまり利害は一致しているのではなくて?」

そりゃまあそうかも知れないけれど、私は一体何をすればいいのだろう。

「決まってるじゃない。
令嬢として培ってきた事を教えるだけ。
ダンス、マナー、彼女達が知りたい事を教えればいいのよ。」

「なるほどね。」

「この町はかなり広く、貿易が盛んだから、いい家の女の子も多いわよ。
かなりの生徒が集まるわ。
本物の貴族の先生なんてそうそういないから、
きっと沢山の女の子が押し寄せて来るわね。」

「いやよ、自分の事をばらすようなもんじゃない。
隠れるつもりがそれをバラすなんて、どうかしているわ。」

「嘘も方便。
そこら辺の男爵令嬢とでも、適当に名乗っておけばいいわ。
とにかく貴族の娘の方が、ただの先生よりよっぽどハクが付くもの。」


確かにスカーレットに恩返しをしたいから、稼ぎたいけれど、
スティール様が、いつ探査の手をこちらに向けて来るか分からない以上、
あまり目立ったことはしたくない。
困ったな…。

「あら、やり様はどうにもなるわよ。」

「そうなの?
あまり派手にやって、身バレして連れ戻されるなんて嫌よ。」

「ええ、あなたを知っている人が来たら、その可能性は有るかもね。
でも、そこにあなたがいなければいいんでしょ?」

私がいなければ?
言っている意味が分からないわ。

「だから、あなたがそこに居ても、
それがジュリエッタだと分からなければいいのよ。」

「それって、もしかして私が変装すれば大丈夫だと言う事?」

「ご名答。」

いいかもしれない。
何より自分が自分では無くなる。
それだけで自由を勝ち得た気分だ。
何でもできそうな気がする。

「いいわね~それ……。」

「余り凝ると、不自然になるから無理な事はしない方がいいと思うわ。
でも少しぐらいなら、あなたの希望を聞けると思うわ。
例えば……。」

「例えば髪の色を黒にするとか?」

「ええ、そうね。」

「シックなドレスを着るとか。」

「余り地味すぎると、年齢にそぐわないけど、
ある程度だったら大丈夫よ。」

「背を高くするとか。」

「あ~まあ、ヒールの高い靴を履けば……。」

「目の色をグリーンにするとか。」

「それは無理。」

そうか、これぐらいが限界か。

それなら早速買い物に。
と思ったら、スカーレットのお店で、全て揃っちゃった。

そして早々にセットアップする。
黒髪のウイッグを被り、ハーフアップに結い上げて、
ブルーのシンプルなドレスを着込む。
それから同色の靴を履いたけど、ヒールが高いせいか重心がグラグラするな。
ま、仕方ないか。根性で克服してやる。
それからスカーレットに仕上げだと渡されたのは、
ちょっとおしゃれな形の黒縁の眼鏡。

「度は入っていないから大丈夫よ。」

ありがとうございます~。
全て終わった私は、自分の姿を鏡に映す。
満足、満足、以前の自分とまるで別人。

「さて、新生ジュリエッタ様、
仕事の方はどうする?
私のアドバイス以外に、他にやりたい事ってあるの?」

やりたい事か…。
まあ小さい頃は、自分でもお菓子が作れればいいのにって思ったっけ。
そうすれば、大きなチョコレートのケーキが食べ放題だって思ったことも有ったっけ。
後は何か有ったかしら……。
でも今は、この生まれ変わったような自分で何でもやってみたい。
差し当たっては、現実的に自分のできる事を生かして、
スカーレットの恩返しがしたいって思うわ。
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