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第三章 ジュリエッタ逃亡編

悪だくみは着々と

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「さて、あなたが別人になりたいのであれば、別の名前を用意しなくちゃね。」

なるほど。

「え~と、あー、あー、アメリア、アンナ、アンジェリカ、アンドレア、」

「止めて…。」

「ジョークよジョーク。ジョ、ジョ、……ジョセフィーヌ、ヌ、ヌ、ヌ…。」

完全に遊んでるね。

「もう、名前なら自分で考えるわ。」

「そう?それなら早く考えてね。」

何で?

「いきなりそう言われても付いて行けないわ。
もっと順を追って説明してよ。」

「ジュリエッタはのんびり過ぎるのよ。
いい?いつ追っ手が掛かるか分から無いのだから、
ここにジュリエッタの痕跡を残したく無いの。
だから、新しい誰かさんが少しでも長くここにいたって思わせたいの。
その為には、まず名前が必要でしょう?」

なるほどね~、そこまで読んでいるなんて、さすがスカーレット。

「こんなのんびり屋の亀さんが、
あんな手でアンドレア様を引きずり下ろしたジュリエッタと、
同一人物とは思えないわ。」

「だってあれは、じっくりと計画を練って、下ごしらえをちゃんとして、
タイミングだって、一番効果的な時を見計らって実行したのよ。」

「なるほどね、じっくり時間をかけた結果なのね。
納得。でもね亀さん、名前は早く決めてね。」

名前か~、手の込んだ名前にも憧れるけど、今は考えつかないよ。
でも、そんな人の気を引くような名前より、
ありふれて人の中に埋もれてしまうような名前の方がいいかもしれない。

「マーガレット……。」

「マーガレット…ね。
うん、それなりに?地味で可愛くていいんじゃない?」

何て事は無い、生けられていた花の中に、
マーガレットが数本混ざっていただけなんだけどね。
でも瞬時に私の心情を悟るスカーレットって、やっぱりすごい。

「それじゃあ、姓の方はうちの遠縁と思わせる為にも、同じにしとくからね。」

「それなら、私の名はマーガレット・ジェンガ―ね。」

「間柄は…………。」

しばらく考え込んでいたスカーレットが、
自分の旦那の従兄の嫁ぎ先の妹でいいかなと言う。
でもそれって遠縁にも引っ掛からないと思うんですけど。
反って違う姓の方がいいような気がするわ。

「まあまあ、そんなに突っ込んで聞く人もいないわよ。
単に親戚と言っておけばいいし。」

「…分った…。」

取り合えず記憶だけはしておこう。


それから私達は、まるで悪だくみをするノリでいろいろ意見を出していく。

「それと教室は別の所に借りた方がいいわね。ここは避難所だから。」

「でも、避難所と教室は近い方がいいでしょう。
何か有った時に、すぐに逃げ込めるように。」

それはそうだけど、近くに適した物件が有るかな……。

「この建物の二階の奥に、ガラクタ置き場が有るの。
だからそこを改造してちょっとしたホールにして、
ドレスや靴とか売る場所をその近くにして……。」

あんた、かなりの商売人やな…。

まあ、その案はスカーレットにも利が有りそうだから従う事にした。
改装費も甘える事にして、
大々的に広告をせず、彼女の人脈を利用して人伝てで生徒を集める事にする。
ただ私一人でそんなに沢山の人は教えきれないから、ほどほどで。
スカーレット、ご恩は必ず返すからね!


それから突貫工事で、あれよあれよと教室が出来上がっていく。
5組ぐらいがダンスが出来るホール。
壁際には、休憩用の豪勢な椅子が並んでいる。
上流貴族に憧れる、女の子の心をくすぐる事間違い無しの椅子。
隣には私の控室と、授業用の机や椅子が入っている物置。
仕事が早いわ~。


後、二人の助っ人が現れた。

一人はメイドのルイ―ザ。
ルイ―ザ・コーベット
口の堅い腕利きのメイドだって。
いつもは店の仕事をしているらしい。
ただスカーレットがここに泊まった時にメイドをしてもらっているらしいけど、
今回は私の世話と、この教室も手伝ってもらう為、常駐してもらう事になった。
とにかく優秀よとスカーレットが褒めていた。年は若そうなのに大したものだ。

もう一人は、サンタモニカ・ダールさん。
聞き覚えが有る名だなと思っていたら、かの有名な建築家だった。

「で、彼は何故にここにいるの?」

建築の講義でもするのだろうか?

「えっと、たまたまこの街に来ていて、今は暇だって言うから
ダンス教室のパートナー役を頼んだ。」

多分30代だと思われるダールさんは、そこそこイケメンで、スマートなしぐさで、
女の子の扱いに長けていそう。
こんな人がダンス教室の講師になったら、さぞや生徒が大喜びするだろう。
きっと生徒も増えるだろうなぁ。

「きっと儲かるわよ~。
頑張って沢山儲けてね。楽しみにしているわ。」

スカーレットさんや、あんたは鬼か。
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