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第四部

甲羅の使い道

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 工房から帰った後は宿に帰ってきた。宿の庭ともいえる河原がいろいろやるには広くて便利なのだ。
 あれから工房でパウラさんに、海皇亀の甲羅の様子も聞いてみたがあまり芳しくないとのこと。むしろ甲羅を壁としてそのまま使ったほうがいいんじゃないかと、親方が零していたと聞いたくらいだった。

「そこで思いついたんだよな。野営用ハウスを海皇亀で補強すればいいんじゃね? って」

「そこまでくるともう小さい砦じゃないかしら」

「破壊不能じゃねーの?」

「防御力も上がってより安全に野営できるようになるだろ」

「まぁそうだけど、そこまでする必要あるか?」

「普段の警戒で十分だけどな。念には念を入れてだよ」

 訝しむイヴァンの言い分ももっともだが、世の中何が起こるかわからないのだ。
 異空間ボックスから野営用ハウスを取り出すと、河原へと設置した。

「……あれ?」

 イヴァンが首をひねってるがどうした? 普通に取り出しただけだが。

「じゃあ私のも強化しようかしら」

 と言っていつも使っている野営用ハウスを莉緒も取り出す。

「ふぉああぁぁっ!? ふ、ふたつあったのか!?」

 ああ、そこに驚いてたのか。俺のは予備だからなぁ。中の家具も普通の市販品だし、居心地はそんなによくはない。

「これも備えあれば憂いなしってね」

「おうちがふたつ! すごい!」

 フォニアが尻尾を振りながら興奮している。

「普段使ってるのが莉緒の野営用ハウスだからな。俺のほうの家も探検するか?」

「え、いいの!?」

 目を輝かせるフォニアの頭を撫でて頷いてやると、歓声を上げながら家の中へと突撃していった。狭い家だけど甲羅を外側に張り付けるだけなので、家の中で何かする分には問題ない。

「じゃあさっそく新しい刀で甲羅を斬ってもらおうかな」

「ふふ、私の出番ね」

「ああ、親方の作品の出来を確かめさせてもらおうぜ」

 甲羅を異空間ボックスから取り出したところで、宿の方から人が出てくる気配を感じた。この時間だと部屋の掃除に来たライラさんかな。外まで出てくるのは珍しい。

「えらい音がしはりましたけど……、家、どすか?」

 さすがに野営用ハウスを取り出すときは重低音が響く。

「ああ、すみません、うるさかったですか。ちょっと改造しようと思いまして……。静かに作業するようにしますね」

「ええ、おかまいなく……。さすがSランク冒険者はすごいどすなぁ。それでは、部屋を掃除させてもらいますね」

 それだけ告げるとすぐに部屋へと帰っていく。
 他にもお客さんは泊まってるし、静かにするにこしたことはない。ちょっとそのあたりも気を付けて作業しようか。



 野営用ハウスを強化した後、俺たちは渓谷の山頂付近へとまたやってきていた。今回は採掘目的ではなく、ガントレットを鑑定したことで明らかになったモノを試すために来たのだ。

「どんな威力なんだろうな」

「もし鑑定結果通りなら、相当広い範囲が更地になるかもしれないわね」

「マジか。シュウたちのお師匠さんパネェな」

 莉緒の答えにイヴァンが呆れている。パネェのは同感だ。まさかエンシェント赤竜レッドドラゴンの鱗の盾の製作者も師匠とは思わなかった。品質はBで付与はなかったけど、それでも一級品なことには変わらない。

「よし、ここなら大丈夫かな」

 前回海皇亀を取り出した広い場所である。渓谷からもそこそこ離れているので影響はないだろう。たぶん。
 高さ五メートルほどの岩の塊があったので、亀の甲羅を一メートル四方で切り出したものを立てかけておく。何気に分厚さも一メートルだ。さて、ガントレットVS亀はどっちが勝つかな。

 十メートルほど離れると、異空間ボックスからガントレットを取り出して装着する。まさかこのガントレットが対になって、両方同時に使うと効果が出るとはね……。といっても両方同時に使うってどうやるかは不明だ。

「ちょっと危ないから、みんな私の後ろにいてね」

 俺の後ろでは莉緒が結界を張っている。これで大丈夫だろう。

「じゃあいくぞ」

 ひとまずガントレットを装着した両手をお互いに合わせて魔力を込めてみる。ガントレット同士が共鳴して魔力が増幅され、輝きを増してくる。

「うお、なんかすげぇけど……、これはもしや、かめはめ○を撃つ要領なのでは」

 両手を腰だめに構えて魔力を込め続けると、輝きが溢れてきた。そのまま両腕を前方に突き出し、込めた魔力のトリガーを引くと。
 爆風と共に的に向かって継続する破壊がもたらされる。十秒ほど続くとその破壊もおさまり、辺りが一瞬暗くなった。
 ……いや、あまりにも眩しかった輝きが消えて、通常の明るさに戻っただけだ。

「おおおおーー、すごいすごい!」

「うわぁ……」

「パネェな……」

「わふーん」

 大はしゃぎするフォニアに、莉緒とイヴァンは若干引いている。ニルは耳をぱたんと倒して尻尾を後ろ脚の間で挟んで伏せている。
 遠くのほうではまだ潜んでいたのか、ワイバーンかキマイラと思わしき影が逃げ出している。

「これはアカン」

 的になった岩はきれいさっぱり消えているが、甲羅を立てかけてあった場所の地面は抉れずになんとか残っている。しかしそれ以外の抉れた地面というのが、先はだいたい二百メートル、幅は太いところで五十メートルという範囲だ。案外これ使ってれば海皇亀も倒せたんじゃなかろうかという威力だった。少なくとも甲羅の一層目は完全消滅させられそうだ。
 にしてもドラゴンのブレスってこんな威力だったかな。地竜のブレスはそこまでじゃなかった気がするんだが……。

「……よし、帰るか」

「そうね」

「ああ。俺は何も見なかったぞ」

「もう終わりなの?」

 こうして俺たちは破壊の跡を放置して宿への帰路へ就いた。
 ちなみにガントレットの鑑定結果はこうだった。

 =====
 種類 :防具(篭手)
 名前 :紅竜のガントレット
 説明 :オリハルコンで造られた篭手。
     爆炎竜エクスプロードの魔石が使用された最上級品。
     火と土の特性を持っており、魔力を増幅する効果を持つ。
     もう一対の篭手と同時に使用することで
     ドラゴンのブレスを模した攻撃が可能となる。
 品質 :S-
 付与 :なし
 製作者:-
 =====
 種類 :防具(篭手)
 名前 :煌竜のガントレット
 説明 :オリハルコンで造られた篭手。
     嵐雪竜ブリザードの魔石が使用された最上級品。
     風と水の特性を持っており、魔力を増幅する効果を持つ。
     もう一対の篭手と同時に使用することで
     ドラゴンのブレスを模した攻撃が可能となる。
 品質 :S-
 付与 :なし
 製作者:-
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