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第37話 変化
しおりを挟む真っ暗な部屋の奥から、食事の香りがした。母が不在の日が多い江本家では貴也と2人で食事をとることが多かった。忙しい中、毎日朝食を用意してくれる貴也の母に感謝していた。
この日も鞄を置き、手を洗うと向かわせに座って夕食を食べた。
「貴也の母上は料理が上手だな。受験終了までこの生活ができようにしてくれたのは感謝している」
「あぁ」
素っ気ない返事であった。
いつになく元気がない様子で、夕食を半分以上残して風呂場へ行ってしまった。寂しさを感じながら、食器を片付けていると風呂から出たようで自室に入った音がした。
「早いな」
15分も風呂場にいた様子がなかった。
片づけを終えると、そっと部屋を覗いた。貴也は机に向かっており、鉛筆の音が聞こえた。
小さく息を吐くとそっと扉を閉めて、風呂場へ向かった。
頭からシャワーを浴びながら、不安に押しつぶされそうになっていた。貴也は、御三家に受かると決めた日から食事がおろそかになり睡眠時間も減った。
心配になり、貴也の母に伝えたが「食事食べてるでしょ? じゃ、大丈夫」と軽い返事が返ってきた。
風呂を出て、部屋に行くとローテーブルに課題が置てあった。いつも貴也が用意してくれる。春期講習もそれをこなしていったら成績が上がった。
母からの喜びの電話があった時は、嬉しかったがその反面、期待が大きくなったような気がして怖かった。
貴也の事は信じてるが、常に不安はつきまとう。
用意されら課題をこなしていると次第に眠くなってきた。最初のうちは睡魔に逆らおうとしたが負けたらしく気付いたら朝になっていた。
ローテーブルに頬をつけていたため、赤くなっていた。身体には毛布が掛かっていた。貴也の優しさを感じていると鉛筆の音がすることに気づいた。
いつも貴也が座っている机の方を見るといた。昨夜と同じ様子に徹夜してるのかと疑ったがベッドが乱れていたのため安心した。
目の前にある課題を見て、人の心配ばかりではダメな事の気づき手を動かし始めた。怒鳴り声や暴力のない勉強時間は快適であった。
成績も上がったことからあの人がいない素晴らしさを感じていた。
勿論、貴也にも感謝している。自分は貴也よりはるかに劣るのに勉強時間は彼より少ない。呆れられていると思うが見捨てず、文句も言わずに課題をくれ導いてくれた。
神様みたいだ。
しばらくすると、背後で気配がした。恐らく、貴也が気にしてくれているのだろうが振り向かなかった。
今は勉強する時間だ。けじめをつけなくてはならない。
それから更に時間が経つと、「のりちゃん」と名前を呼ばれた。ゆっくり振り向くと、着替え終えた貴也に朝食に誘われた。それに承諾すると、彼は先に部屋をでた。
「着替えないと」
急いで着替えをすますと、リビングに行った。そこにはもう朝食が用意されていて貴也が座っていた。憲貞が席に着くと一緒に挨拶をして食べ始めた。
約束をしたわけではないが、準備はいつも貴也がしてくれる。彼は先に食べ終わることが多いため必然的に憲貞が片付けをしていた。それに不満はない。
貴也は食事が終わると自室に戻った。以前は食事の時に多少会話があったが今はほとんどない。食器も台所まで持っていかずにテーブルに置きっぱなしであることが増えた。
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