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2章
13・突きつけられた新事実(1)
しおりを挟む彼女の名前は、プルメリア・クラーク。クラーク男爵家の一人娘だということが判明した。
既に母と兄は外出をしており、従者しかおらず、判断責任はジャスミンにあった。メイド達や家政婦長は、このままプルメリアを追い出して、クラーク男爵にそれ相応の謝罪をさせた方が良いと言っていたが、ジャスミンは首を振った。
ただ、ジャスミンは知りたかったのだ。
どうして自分がここにいるのか、なぜ前世を思い出してしまったのか。思い出さなければ、あのまま無邪気に過ごすことが出来たかもしれない。
家政婦長は最後まで反対していたけれど、人払いをしてプルメリアと相対することにした。
不遜な態度を変えることなく、プルメリアは椅子に座っている。
ずぶ濡れになった為、風呂に入れジャスミンの仕事着を貸したのだが、可愛らしい顔をしているので仕事着に見えなかった。
「この世界は、ゲームの中なのよ。私はヒロイン、あなたは悪役令嬢。お分かり?」
茉莉花の頃から、ゲームはしたことがなかった。エンターテイメントは好きだが、映画ばかり観てきていた為、その辺は疎い。
「いえ、さっぱり分かりません。」
「はあ?ふざけてんじゃないわよ!あなたも転生者でしょ?!」
まくし立てられても、知らないものは知らない。
しかし、今まで転生者だと断定されて話を勧められていたことに気づき、驚いた。しかも、「あなたも」と来たものだ。
「仮に、私が転生者というものだったとして、なぜそう思われたのですか。」
コイツまじで何も分かってねえな、という表情で、足を組み替えた。
「私の知ってるジャスミンと、あなたは顔が違う。それに態度も違う、真逆。ジャスミンはもっと強気だし、財力と権力に物を言わせてた。ジャスミン・リバーサイドなんて名前の公爵令嬢は、この国に一人しかいないのに、別人過ぎるもの。」
確かに、財力と権力に潔く頼るところはあったかもしれない。しかし、聞き捨てならない言葉があった。
「顔が、違うのですか。」
「違うわよ、そんな慎しみ深そうな顔してない。もっと冷酷美人だったし、その美貌で私の好きな人をたぶらかしてたんだから!」
「た、たぶらかし…」
ーあ、だから悪役令嬢って言われたのか。
ジャスミンは妙に納得した。
「これで理解した?」
「いえ、全然。」
「なんなのよ!ムカつくわね!」
キーキーと言い続けている様子を見ると、教会の子ども達となんら変わらないと思えてきた。
「お茶、冷める前にどうぞ。ミュゲ、いるかしら?」
スッと音もなくミュゲが入ってくると、プルメリアがビクッと震えた。
「料理長に、ケーキとお菓子を頼んでもいいかしら。まだ、あったわよね?」
「あると思います、すぐにお持ちします。」
昨日、フリージアが屋敷でデビュタントの決起会を開いていた為、大量のお茶菓子を用意していたのだ。
ほとんど待つことなく、ミュゲはお盆いっぱいのお菓子を運んで来た。
「さ、どうぞ。プルメリアさん、とりあえずお食べになって。落ち着いてから詳しくお話してくださる?」
「…仕方ないわね、そんなに言うなら食べてあげるわ。」
そう、料理長の腕の前では、誰もが無力なのだ。
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