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4章
41・二人きり(2)
しおりを挟むニコニコと笑っているアレク、真っ赤になってケーキを口に運び続けるジャスミン。
側から見ると初デートなのかな?と思えるような光景だったが、ジャスミンはそれどころではなかった。
ー教会で会っていた時は、こんな気持ちにならなかったのに、どうしてこんなことに…!
「美味しい?」
アレクのフォークは手に持ったまま動かない。
「えっ、ええっ美味しいわ。あっアレクは食べないの?」
緊張しすぎて吃ってしまい、余計に恥ずかしくなる。
「じゃあ、ラズベリーの方、少しくれる?」
そう言って、パカリと口を開ける。
「えっ?えっと。」
「くれないの?」
ジャスミンはゴクリと喉を鳴らし、震える手でタルトをアレクの口へ運ぶ。ケーキをパクリと含み、柔らかな唇の間からフォークがゆっくりと抜けていく。
じっと唇を見つめていると、あの夜を思い出してしまいそうになり、慌てて視線を逸らした。
「うん、クリームが甘いね。ラズベリーの酸味のおかげで食べられる。」
ペロリと唇を舐める赤い舌が艶めかしく、ジャスミンの首がぞくりと粟立つ。
「あのっ…アレク…」
「うん、なあに?」
いつもの優しい瞳、より柔らかな光が輝いていて、アレク自体がキラキラと眩しい。
「その…えっと…」
「大丈夫だよ、ゆっくり話して。」
ジャスミンの胸が甘酸っぱくときめいた。
「どうして…私のこと…その…」
「好きかってこと?」
いたずらっぽく笑っているから、どんどん苦しくてときめいていってしまう。
「初めて会った時から、俺が探してたのはこの子だって思ったんだ。中身を知ってから、やっぱりジャズじゃなきゃダメだって、思ってる。」
手が震えて、鼻の奥がぎゅーっとし、視界が歪む。
「なんで泣くの。」
クスクス笑って、アレクの親指が目尻を拭う。
「わかんないー!出ちゃったの!」
「ジャズは、本当は涙腺弱いよね。一人で隠れて泣いたり、嬉しい時も泣くし。」
「アレクの前で泣いたの初めてなのに、どうして分かるのよ!」
ジャスミンが口を尖らせて言えば、頬を拭っていたアレクの手が耳あたりを押さえ、ちゅっと唇が重なった。
「分かるよ。ずっと前から知ってるからね。」
「なっなななんで!」
「それは秘密。」
二度目のキスに動揺し、頭に血が上ってクラクラしている。
「また倒れないでよ。」
「たっ、たた倒れるようなことするから!」
「だって、キス以上のことができないじゃん。」
ジャスミンは頭が爆発するかと思った。
「んなっ…ななっ…」
ニヤリと笑ってから、長い足を組み替える。
「ジャズの聞きたいことって、今の?」
甘くてどろどろに溶けそうな雰囲気に流されてしまっていたから、聞きたいことが言えていない。
何度か深呼吸してから、口にする。
「アレク…遠征に行くって本当?」
目を丸くして、ゆっくりと頷いた。頬を指で掻き、眉が歪む。
「…オスマンか。後でとっちめないと。」
「秘密だったの?」
「絶対に秘密にしなきゃいけない訳じゃないんだけど、大々的に公表はしてないからさ。今のところ知ってるのは王宮内だけって感じかな。」
「分かった、黙ってるわ。」
「発表までは心にしまっておいて。」
アレクが水をゴクッと飲み、コップを置いた。
「俺のこと、心配してくれたの?」
「…するわよ。プルメリアから、アレクの部隊はすごく強いって聞いたけど、やっぱり危ないし。」
「嬉しい、ありがとう。じゃあ、絶対に無事に戻って来ないとね。」
「傷一つなく戻って来てね。」
パカっと口を大きく開けて、アレクが笑った。
「じゃあ、その前に確認してもらわなきゃね!」
「えっ、どういうこと?」
ジャスミンの手を取って、甲に指で線を引く。
「新しい傷なのかどうか判断するには、元を確認しておく必要があるでしょ。」
ジャスミンは、背中から後頭部までゾクゾクっと甘い痺れが走った。
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