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4章
42・帰宅
しおりを挟む何も言えずに口を開けたまま固まっていると、眉を下げて明るく笑ったアレクが、ジャスミンの手を離した。
「なんてね。」
「かっ、からかったの?!」
首から耳まで真っ赤なジャスミンが、息も絶え絶えに訴えた。
「ううん、本気だよ。でも、死亡フラグが立ったら嫌だからさ、約束はしないでおく。」
「ああ、戦争映画によくあるやつね。」
「俺、この戦争が終わったら彼女と結婚するんだ。」
「ダメよ!絶対死ぬわよ!!」
ジャスミンの返しに満足そうに笑ったアレクが、そっとベージュの髪を撫でた。
「そういうことだから、約束はしないけど、覚えておいてね。」
「えっと…その…」
アレクがジャスミンの髪にキスをしてそっと離し、じっと見つめる。
「ジャズが好きだってこと。」
ふわふわと浮いているような感覚に、勝手に口が動いていた。
「…もう一回、仲良くしてくれる?」
「もちろん、いくらでも。」
今度は、少し長く触れ合った。
ミュゲがお使いから戻りジャスミンと落ち合うと、アレクが馬車を呼んで屋敷まで送った。
「どうでしたか、ジャスミン様。」
ジャスミンの部屋に戻るなり、ミュゲが開口一番に聞いた。
「えっと…遠征は本当みたい。どこへどれくらいの期間なのかとか、詳しくは教えてもらえなかったけど。」
「そうでしょうね、軍事機密かもしれませんから。」
ソファにグッタリともたれかかったジャスミンを見て、ミュゲが腕組みをした。
「ジャスミン様、もしかしなくても、アレク様といい感じになりましたか。」
「っ……黙秘します。」
「大丈夫です、大体のことは分かりました。」
「えっ?!」
ガバッと顔を上げると、何でもお見通しという表情でミュゲが頷いていた。
「甘い言葉で好きだと言われて、キスをされたんでしょう。」
「なっ、なっななっなんでっ!?」
「あら、当たりましたか。カマをかけてみたのですが。」
「あーっ!もう!!」
恥ずかしくてクッションに埋まったジャスミンは、足をバタつかせてもがいた。
家に帰ったアレクは、たまたま戻って来ていた父と兄に会った。
「ただいま、父さん、兄さん。」
「おかえり、アレク。うちの隣領地へ遠征に行くんだって?」
「ああ、賊退治にね。」
「確かに、隣国の治安が悪いせいで、増えて来てるなあ。」
父があごひげを撫でた。
「いつ頃行くわけ?」
手紙を仕分けしながら、兄がこちらを見る。
「もうすぐ。」
「退治したら帰るって訳?」
「そう、だから一瞬。」
「さすが、第三部隊。」
「兄さんには負けるよ。」
「いや、俺は戦えないし。」
仕分け終わった物をまとめて留め、それぞれを箱にしまう。
「アレク、油断せず行きなさい。軍隊と違って切羽詰まった輩は何をするか分からないぞ。」
「ああ、気をつけるよ。ありがとう。」
アレクは部屋を出て自室に戻ると、引き出しの鍵を開けて大切にしまっていた手紙を取り出す。
鼻に近づけると、今日会ったジャスミンと同じ香りがした。
「ジャズ、可愛すぎるんだけど…」
自分の身を案じてくれる顔も、恥ずかしがって俯く姿も、キスをねだる言葉も、全部がアレクを煽る。
セックスしようなんて、遠回しな表現でも急すぎた。もう少し時間をかけたかったけど、施設の前でナンパしていた男達を見たら無理だった。
ジャスミンを誰かに渡すなんて考えられない。
だって自分は、もうずっと前からジャスミンを求めていたのだから。
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