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3-03.最も優先するべきこと
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朝、ノエルはイーロンを起こす。
「イロ……じゃなくて、イーロン様、朝ですよ!」
彼女はバーグ家の子供になった。しかし、その身分は使用人である。出自が不明な子供を、いきなり貴族として扱うことは難しいからだ。……と、事情を知らぬ者には説明している。
彼女の仕事はイーロンのお世話。
小さな体を緻密な魔力制御で強化して、大人顔負けの仕事をしている。
「ぐへ、ぐへへ。お着換えしましょうねぇ」
大人顔負けの仕事をしている!
しかし、これはあくまで表の姿。
裏の姿を知る者は、リリエラ・バーグただ一人。
「……これが、未来の出来事?」
ここはバーグ家の地下。
ノエルは自分の知っていることを全て説明した。
「はい、その通りです」
「……とんでもないことね」
説明したのは「一度目」の記憶だけではない。
イロハを追いかけ、何千何万という「ノエル」の記憶を統合し、その優れた頭脳をフル回転させて導き出した、「今この世界で起きていること」である。
「私の手に余る……」
リリエラは悔しそうに爪を嚙んだ。
彼女は卓越した青魔法の使い手だが、あまり戦闘が得意な方ではない。
「解決できるのは、彼だけでしょうね」
「……息子に、こんなことを、背負わせるなんて」
「わたくしも絶対に嫌です」
リリエラは顔を上げた。
ノエルは蒼い瞳に力強い輝きを宿し、宣言する。
「イロハ様の願いは、大切な人達と共に、普通に楽しく生きることです」
リリエラは息を呑む。
その言葉を口にするノエルには、五歳の子供とは思えない迫力があった。
実際、そうなのであろう。
外見こそ幼い少女だが、その中身は立派な大人である。
しかも、ただの大人ではない。
何千、何万という人生の記憶を持った存在なのだ。
故に、リリエラは畏怖を覚えた。
そして確かな緊張感を胸に発言する。
「あなたのプランを教えてください」
「分かりました」
二つ重ねた台の上に乗ったノエルは机に大きな白い紙を置いた。それから赤の魔力を操作して、紙を焦がすことで文字を描く。
「この世界には、ふたつの大きな勢力があります」
王国と魔導国。
「正確な時期は不明ですが、数年後、第三の勢力が生まれます」
楽園。
「楽園は脆弱です。彼が手を貸さなければ、歴史に何ら影響を及ぼさないでしょう。しかし、然るべきタイミングで保護する必要があります」
「……それは、なぜですか?」
「彼は組織を結成しました。名前は、グレイ・キャンバス」
ノエルは過去を懐かしむような表情を見せる。
「彼の愛した組織です。必ず、再結成する必要があります」
「……なるほど。そういうことならば、最優先ですね」
リリエラは納得した。
息子が望んだことならば、拒む理由は無い。
「楽園は後回しです。魔導国にも現段階で手を出すべきではありません。すなわち、わたくしが最も優先するべきことは──」
ノエルは「王国」という文字に小さな指を叩き付ける。
「王国の支配者、キング・オブ・ムッチッチを味方に付けることですわ!」
「イロ……じゃなくて、イーロン様、朝ですよ!」
彼女はバーグ家の子供になった。しかし、その身分は使用人である。出自が不明な子供を、いきなり貴族として扱うことは難しいからだ。……と、事情を知らぬ者には説明している。
彼女の仕事はイーロンのお世話。
小さな体を緻密な魔力制御で強化して、大人顔負けの仕事をしている。
「ぐへ、ぐへへ。お着換えしましょうねぇ」
大人顔負けの仕事をしている!
しかし、これはあくまで表の姿。
裏の姿を知る者は、リリエラ・バーグただ一人。
「……これが、未来の出来事?」
ここはバーグ家の地下。
ノエルは自分の知っていることを全て説明した。
「はい、その通りです」
「……とんでもないことね」
説明したのは「一度目」の記憶だけではない。
イロハを追いかけ、何千何万という「ノエル」の記憶を統合し、その優れた頭脳をフル回転させて導き出した、「今この世界で起きていること」である。
「私の手に余る……」
リリエラは悔しそうに爪を嚙んだ。
彼女は卓越した青魔法の使い手だが、あまり戦闘が得意な方ではない。
「解決できるのは、彼だけでしょうね」
「……息子に、こんなことを、背負わせるなんて」
「わたくしも絶対に嫌です」
リリエラは顔を上げた。
ノエルは蒼い瞳に力強い輝きを宿し、宣言する。
「イロハ様の願いは、大切な人達と共に、普通に楽しく生きることです」
リリエラは息を呑む。
その言葉を口にするノエルには、五歳の子供とは思えない迫力があった。
実際、そうなのであろう。
外見こそ幼い少女だが、その中身は立派な大人である。
しかも、ただの大人ではない。
何千、何万という人生の記憶を持った存在なのだ。
故に、リリエラは畏怖を覚えた。
そして確かな緊張感を胸に発言する。
「あなたのプランを教えてください」
「分かりました」
二つ重ねた台の上に乗ったノエルは机に大きな白い紙を置いた。それから赤の魔力を操作して、紙を焦がすことで文字を描く。
「この世界には、ふたつの大きな勢力があります」
王国と魔導国。
「正確な時期は不明ですが、数年後、第三の勢力が生まれます」
楽園。
「楽園は脆弱です。彼が手を貸さなければ、歴史に何ら影響を及ぼさないでしょう。しかし、然るべきタイミングで保護する必要があります」
「……それは、なぜですか?」
「彼は組織を結成しました。名前は、グレイ・キャンバス」
ノエルは過去を懐かしむような表情を見せる。
「彼の愛した組織です。必ず、再結成する必要があります」
「……なるほど。そういうことならば、最優先ですね」
リリエラは納得した。
息子が望んだことならば、拒む理由は無い。
「楽園は後回しです。魔導国にも現段階で手を出すべきではありません。すなわち、わたくしが最も優先するべきことは──」
ノエルは「王国」という文字に小さな指を叩き付ける。
「王国の支配者、キング・オブ・ムッチッチを味方に付けることですわ!」
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