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肉便器になった女(6)
しおりを挟む学園祭のダンスでは、パートナーとなる女生徒に男生徒が指輪を贈るという、学園創立以来の伝統があるのだが、アラン、エドモン、サミュエル、ディオン、マティアスがこぞって私に指輪を持ってきて、仲間割れをしていた。
「いやぁよ。私は先生と踊るの♡」
私はそう言ったが、耳を貸す者は誰もいなかった。結局、薬指以外の指に5個の指輪を嵌め、5人全員と踊った。薬指には以前先生から貰った指輪を嵌めた。サミュエルにその指輪のことについて聞かれたが「自分で買ったのよ。お気に入りなんだから」と言って、はぐらかした。先生とも踊りたかったが、先生は相手の居ない女生徒と踊っていて、その機会は訪れそうにもなかった。
踊り疲れて、談笑している男たちを見ていると、彼らの周囲には着飾った女生徒が群がっているというのに「邪魔なんだけど」と恋心を砕くような冷淡な言葉を吐き、振り向く様子もない。「なんであんな女が……」「マティアス様ばかりか、サミュエル様まで…」といった呟く声が聞こえてくる。実情はただの肉便器なのだが、きっと上等な男たちを独占し、一心に愛を受けている女として、私は憎しみの視線が注がれているのだろう。
男たちは、そんな女生徒の視線には無関心で、私を「その髪型も似合うね」「今日も可愛いよ」と口々に褒めたたえ、髪の毛を触ったり手の平に接吻をしたり、体に触れてくる。出来れば他の女生徒を刺激しないで欲しくて、さりげなく躱すのだけれども、男たちは単純だから、すぐに不機嫌になる。男たちの行為はエスカレートするばかりだった。
私は、明日以降の学園生活に思いを馳せ、絶望した。
隠していたわけではないが、彼らの自室に連日連れ込まれていたので、コレット・アグリネスが男たちの女であることを知らなかった女生徒は多かっただろう。いったいどれだけの女生徒が彼らに懸想していたのか。彼女たちの気持ちを推し量れば、火に油を注ぐようなものだ。手ひどい嫌がらせがあっても不思議ではない。
彼らのせいで、平穏な生活は砕かれた。
(まったく。こうゆうところが配慮ないのよね。まぁ肉便器だから、私がどんな目に逢っても気にしないんでしょうけど。先が思いやられるわ……。それはともかく先生は何処かしら……)
しかし私の心は別のところにあった。私に飽きてくれる気配もないし、もしかしたら今年中にも男たちの子を身籠り、学園に通えるのも、学園祭で踊れるも今日で最後かもしれない。
それほどダンスは得意ではなかったけれど、どうしても先生とダンスがしたかった。ずっと前から楽しみにしていたのだ。
今日のドレスだって、先生が似合っていると言ってくれた、流行りの淡い色のものを新調したから、先生に見て欲しかった。
けれど、いったいどこに行ったのか、見える範囲に先生はいなかった。先ほど女生徒と踊っていた姿が思い浮かぶ。あきらめきれなくて、男の目を盗んで先生を探しに行こうとしたら「どこに行くの?」と腕を掴まれた。
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