ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第九章 運命の二人

189、強制発情 5 ※

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「良太!」

 慌ただしく入ってきたかと思ったら、凄い勢いで抱きしめられた。そんな格闘技のように勢いよくこなくても、俺はどうせ動けないのに、そんなどうしようもないことをぼんやり思った。

「もう連れて帰っても大丈夫ですよ、ただ数日は安静に。一週間後にまた抜糸するので来てください。その前に何かあればすぐに連絡を」

 医者は簡潔に先輩に伝えた。先輩は俺を抱きしめながらわかったと言っていた。ちゃんと聞いているのか? 俺は先生と目が合っていたので、目で頷いてみせた。

「良太、帰ろう」
「……」

 さっきは医者に表面上ああは言ったものの、やはり発情で相手にされなかった悔しさと、汚れた淫乱と罵られたことは忘れられない。

 すんなり会話なんかできる訳がない。俺が目も合わさず何も言わないとそのまま抱き上げられて、その場を去っていった。

 「ありがとうございました……」

 俺は先輩に抱えられながらも、医者と看護師にはお礼の言葉を述べた。

 一瞬、先輩が固まって俺の方を見るも、すぐに歩き出した。沈黙の中、エレベーターに乗り込み部屋に着くと、ソファに降ろされた。俺は身構えて、そして昨日のこともあり、この人が怖くなり震えてしまった。

 そのまま先輩は俺に向き合ってきた。

「良太、ごめん。自分を傷つけるなんて思ってなかった。お前に怪我を負わせたいわけじゃない。俺を求めて苦しんで欲しかっただけだ」

 俺は先輩を見たけど、何も言わない。頷きもしない。なんの言葉を発すればいいのかわからないし、どんな行動をとればいいのかもわからない。ただ固まって目だけ動かすのが精一杯だった。

 俺の頬に先輩が触れる。俺は一瞬、恐怖がよぎり後ろに引いた。先輩の手はそのまま空をきったまま、固まった。

「クソっ! 拒むな。これから俺と二人きりの生活が始まるんだ」

 ここで怒鳴られてしまい、ますます萎縮してしまう。もう一度先輩は俺の頬を触ってきた、今度は逃げなかった。だが俺の震えは治らない。
 
「俺たちは、もう以前のような対等な関係じゃない。つがいでもあるが、俺はお前を買い取った正当な主人だ。これからは毎日好きだと言って、俺だけを頼るんだ、そうしないとお前の大好きな人達に俺は何かをしてしまうかもしれない」

 脅しだ。

 ゆっくりと唇を重ねてきた。先輩の舌が俺の口内に入ってこようとするが、俺はそれを拒み、唇を固く結び、開かなかった。

「拒むなと言ったはずだ」
「ふあっ」

 それでも手でも抵抗を見せた。

 そんなことは虚しく、そのままソファに敷かれてしまい、あっという間に口内まで貪られた。それでも唇が離れた隙に急いで言葉を発した。

「ふあっ、だ、め……汚れてるんでしょ? 汚いんですよね? な、んでキスするんですか?」
「ああ、それで拒んでいるのか? あれは悪かったよ。岩峰に抱かれたお前を許せなくて罵った。でもお前は綺麗で、あそこだって、やりまくってたなんてわからないくらいしまってる。そんな事実が本当にあったかすら疑いたくなる」

 じゃあ、今後もキスもセックスもするのだろうか。許せるのか? 側に置いておけるのか?

「先輩はどうしたいんですか? また前みたいな演技すればいいですか? 買い取ったんだから、あなたの好きな良太を演じますよ」

 一瞬苦い顔をされた。

 前みたいな演技、そう言ってしまった。全てが演技ではなかったけど、俺だって、辛い。岬にあんな思いをさせたこの男が。もう前みたいに慕うことはできない。だから演技って自分に言い聞かせる。

「じゃあ、俺のことは桜と呼び捨てで呼んで。それでその変な敬語もやめて、これからは岩峰に話すみたいな口調で俺と話せ。そして俺を好きって毎日言って、甘えてきて」

 一瞬驚いてしまった。

 そんなことのために十億出したのか……。それってどういう意味があるんだ。

「わかりました、あなたがそれを望むなら……」
「その敬語と他人行儀な話し方をやめろ。お前いつからそんなに馬鹿になったんだ? 俺の言ったことはすぐに学習しろ」

 最後まで聞くことなく、言葉を被せてきた。先輩からこんな風に罵られた経験がなかったから悲しかった。でもそうか、今は愛しいつがいではなくてつがいという演技。

 「……わかった 桜 すき」

 俺は抵抗するのも面倒くさいし、自尊心を折られようがどうでもよくなって、言われたままに言葉を作った。先輩もここまで従順にすると思わなかったのか、少し驚いているようだ。なんなんだよ、お前がやれっていったんだろ。もう一度、俺は組み敷かれた下から先輩を見上げて手を伸ばして、言葉を紡いだ。

「桜、好き、キスして?」
「くっ」

 言わせておいてとても悔しそうな顔をしてきた。そのまま俺の手のひらにキスをして官能的に嘗め回した後、唇を貪り、じっくりと堪能し始めた。俺も首に手を回して精一杯甘える仕草をした。抱き合っている。体温も近くに感じる、久しぶりだ。俺は少しずつ興奮を覚えていき、先輩の股間に自分のを擦り付けた。そしたら、先輩のそれはもう反応していて硬くなっていた。

「抱いていいか?」

 ちゃんとその気になってくれている。こんな演技で満足するのか……。もう、この人は俺のつがいじゃない、つがいという名の雇い主。俺は嫁という名の性奴隷、間違えないようにしなければ。

「聞かなくても、飼い主なんだから好きなようにしろよ、汚れた体でよければ……」
「たとえお前自身でも、俺の良太を汚いと言うのは許さない。抱くぞ、もっと好きって言って」
「……好き」

 俺はさっきから言われた通りの行動しかしていない。なのに、つがいはそれに喜びを感じているのが匂いでわかる。単純だ、この嘘で塗り固められた言葉だけの関係のどこに、そんなに興奮ができるのだろう。

 俺の服を全部脱がすと、足を思いっきり開かれた。その時に怪我したところが引きつって痛みを感じたが、その痛みこそが俺が正気を保てるツールだと知っているので、苦痛に歪んだ顔で我慢した。そんな俺に気付かない先輩は、俺のそれを数回手でしごいてから口に含みくちゃくちゃと舐めまわした。

 ち上がってゆく快感なのか、傷口が開いている痛みなのか、その両方の異なる感覚に俺の顔は苦痛に満ちていった。いつもの反応とは違うそれに気付いた先輩が、俺の顔を覗いてきた。

「どうした? 気持ち良くないか?」
「きもち、いい……桜、好き、もうれて」

 俺は快感だと騙し、強請ねだった。

 まだほぐれきってないそこにれてもらえば、もっと苦痛を感じられる。それに傷口が広がって、痛みが強くなればいい。そうしたら快感に飲まれることなく冷静な目で見られるはずだ。

 そして俺の普段なら絶対に言わないおねだりに満足したのか、ほぐしもそぞろにすぐに挿入はいってきた。

 「……!」

 体はビクビクってして、痛みと快感を拾うも、体を曲げられて傷口がひきつる痛みに声が出そうになるのを、自分の腕を噛んで阻止した。
  
  「んっっっ!」

 俺の吐き出す吐息だけが聞こえる。

 いつもなら、あっとか、ううっ、とか何かしら漏れてしまう声は出さないように必死に耐えた。それに気付いた先輩が腰を打ち付けながらも不審に思う。

 「良太良太、愛している、お前は? どうしてそんなに苦しそうに耐えているの?」
 「桜、好き」

 先輩の問いかけは聞こえないふりして、喘ぎ声の代わりにひたすら好きを連呼した。

「うっ、好き、好き」

 俺の脚から血が出ているのも気付かない先輩は、より一層俺の体を不自然に曲げて酷使する。

 これでいい、俺は快楽よりも痛みで意識を失った。
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