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第二十二話 略奪1

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「・・・姫鷹さん、姫鷹さん」

ふわふわとした中、馴染みのある声に呼ばれて、姫鷹は目を開ける。視界に飛び込んできたのは、矢張り馴染みのある顔だった。

「・・・みつなり・・・?」

天井は自室のもので、自分を覗き込んでいる男はどうやら服を着ていない。何だ?どう言う状況だ?とぼうっとする頭で、姫鷹は考える。三成の身体は、姫鷹に取って見慣れていると言えば見慣れているものだ。二人は剣道にしろ居合にしろ同じ道場で同じ師範に教えを請うている。昔から稽古中に汗をかけば上半身を晒して拭うのも普通であったし、好きであるとは言え、それくらいで興奮するほどでもない。

「・・・お前、なんで・・・?」

姫鷹がそう口にすると三成が、ふ、と小さく笑った。

「・・・寝覚めは相変わらずですね。小さな頃からお変わりない・・・俺と何をしていたか、覚えてますか・・・?」

言いながら三成は、まだぼんやりとしている姫鷹の瞼にそっとキスをする。

「ちょ、なに・・・ひあっ?!あ、あ・・・っ?!」

そこで漸く姫鷹は覚醒に至り、身を捩る。瞬間、下肢から伝わる衝撃ーー快感に姫鷹は目を見開いた。身体の中にある太くて長くて硬い違和感。それは間違いなく三成の陰茎だ。自分はそれを足を開き、ずっぷりと受け入れていた。

「やぁ、な、なんで・・・っ・・・?!だめ、三成・・・抜い、て・・・っ」

記憶が追いつかなくて、それでもこの状況をどうにかしないと、と考えて姫鷹は懸命に三成の下で身を捩ろうとしつつ首を振る。三成は微かに苦笑を浮かべながら、半分ほどまで自身を引き抜いた。そのまま抜けるかと思い、少し息を吐いた姫鷹を見てから、勢いをつけてまたそれを姫鷹の中へと叩きつけた。

「ひああっ・・・!だめ、三成、だめ・・・っ!」

深い場所を叩かれて、強い快感に姫鷹が足を震わせる。その足を抱え込みながら、三成は一層と挿入を深くした。ぐぷ、と中が抉られて、姫鷹ははくはくと息を吐き出す。その唇に、三成は触れるだけの口付けを落とした。

「抜くわけ、ないでしょう・・・?随分と、あの紛い物に慣らされておいでのようだ。全部、俺で塗り替えてあげますよ。ね?姫鷹さん・・・あなたは、俺の、ものだ」

ねっとりと絡みつく言葉が終わると、噛み付くように三成は姫鷹の唇を塞ぎ、思いのままに貪る。嫉妬と独占欲と情欲と怒りと、全てを混ぜ合わせた衝動を持って、姫鷹の舌を強く吸い上げて、腰を深く深くへと自身を埋め込むように擦り付けた。

ーー誰だ、これは。・・・三成?こんな、知らない・・・こんな三成は、知らない・・・。

いつだって、三成は自分の我儘を苦笑で受け入れ、たまに嗜めてくれる、頼りになる存在だった。けれど目の前の男は、欲に満ちた熱い眼差しで自分を見つめ、姫鷹の全てを奪うかの如く、熱く滾ったそれで穿ってくる。

「んふっ、ん、んっ・・・ぁ、ん・・・」

央亮との行為で慣らされきった身体は、激しさの伴うセックスにも否応なく感じてしまい、息に嬌声を混じらせて、反応ばかりしてしまう。中の肉は、挿れさせては駄目だという脳とは相反して、奥へと進む三成のものを誘うように蠢いた。
じゅ、と大きな水音を立てながら姫鷹の唇全体を吸い上げてから、三成は顔をあげる。

「・・・はっ、凄いですね・・・全部、持っていかれそうだ・・・二回目も、中に、あなたの一番奥に出してあげますから・・・」

そうだ、これは、もう二回目だ、と姫鷹は朧げに思い出した。一度目は、少し前の時間だ。央亮との逢瀬の後に帰宅してすぐに、離れの浴室へと連れ込まれ、そこで央亮の名残の精液を掻き出された挙句に、その場で抱かれた。その行為で軽く意識を飛ばした後に目覚めた自室のベッドの上で、また三成は自分に覆い被さってきてーー今に至る。

「やぅ、だめ・・・みつな、り・・・あっ、あっ・・・」

元々過敏である身体は、央亮との逢瀬で余計に敏感になっていた。余韻を残したままの身体に強制的な快楽を与えられて、姫鷹はドロドロに蕩け切っており、なによりも、真っ向に拒めていない自分がいる。央亮がいるのに駄目だ、と思いながらも、三成の強引なセックスを嫌だとは思えない惰弱な自分に、涙が溢れた。

「・・・誰のための、涙ですか?あの男の為ですか?」

自分の下で、甘い声を漏らしながらも涙を流す姫鷹に、三成は眉根を寄せながら首を傾げて、自身のものをギリギリまで引き抜き、また強い力で持って中を穿つ。

「ひっ・・・!!ああああっ・・・やあぁあぁ・・・!」

奥深くに続く狭い道を無理やりにこじ開けられて、その先端が、さらに奥へと続く肉輪の入り口に埋まる。姫鷹は、腰を離そうと何とかもがきながら、三成の胸板を力の入らない両手で押し、首を横へと降り続けた。先ほども、その奥まで三成を受け入れてしまい、そこで精液を受け止めている。その時だって、受け入れてしまった後は快感ばかりを追う何かに変わってしまい、自分から三成を強請ったように思う。快感に塗れると、いつだってそうやって淫蕩なものに成り下がる自分が、姫鷹は怖い。快楽は嫌いじゃないが、過ぎると恐ろしいものでしかなかった。

「答えてください、姫鷹さん・・・」
「ひあっ、や、わかんな・・・ああ、あっ・・・おねが、もう、やめっ・・・」
「・・・駄目です。さっきのように、俺を欲しがるまでは・・・」

やめませんよ、という声と一緒に三成は腰を強く強く押し付けて、最奥の部分に亀頭を入れ込んだ。

「ひ、うっ・・・ーーーーー!!」

がっちりと中へと埋まり込んだそれに、姫鷹の目が見開かれて、唇が大きく開く。

「姫鷹さん・・・全部、俺のものだ・・・」

痙攣する姫鷹の身体を強く抱きしめながら、もう一度そう三成は繰り返し、その唇を塞いだ。



時は少し遡る。

昼過ぎに三成と話をして、そのまま少なくない時間、抱きしめられた。姫鷹が抱き返すことを何とかやりすごし、三成が離れたのは、使用人が姫鷹を呼びにきたノック音が聞こえてからだ。最後にもう一度三成は姫鷹に口付けをして、離れる。少しばかり乱れた姫鷹の身なりを整えてから、恭しく頭を下げた。

「お疲れのないよう。今日は控えておりますので」
「・・・ああ・・・」

三成が正月中、谷の家にいることはさして珍しくもない。姫鷹に付き従うというよりは、主家への奉公のようなものだ。仕事を始めてからもそれは変わらず続いているので、今更それを姫鷹の一存で帰らせるわけにもいかず、頷くだけに留めた。
使用人に導かれるまま、応接室を出て廊下を歩く。

ーー馬鹿だ、あいつは。・・・・・・拒めない俺は、もっと、馬鹿だ・・・。

歩きながら、触れられた唇を緩く拭って、自嘲めいた笑みを姫鷹は浮かべた。
その後は、既に飲めや歌えやに変わっていた宴会に参加していた。たまに寄ってくる兄や家臣連中に相槌を打ったり話を合わせたり、と時間を過ごす。
三成との罪悪感を払拭したくて、早く央亮に会いたい・・・、と思っているところで懐に入れたままだったスマホが揺れた。取り出して画面を映すと、央亮からメッセージが届いていた。

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そちらはどう?疲れてない?無理はしないようにね。姫には会いたいけど、無理をさせるのは嫌だからさ。あーでも、姫の顔は見たい(笑)
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相変わらず、央亮のメッセージは自分を気遣うようなものだった。それを見て少しホッとして、指先を滑らせる。

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大丈夫だよ。老人がたに付き合うのは少々骨が折れるけれどね。俺も早く、央亮に会いたい。
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そう打って返す。ふと周りを見渡すと、兄達はそれぞれに家臣と話したり呑んだりしており、今は自分に関心がないようだ。三成の目も今は自分にない。近くに座ってスマホをいじっている虎太郎の肩をつつく。

「ん?どーした?」
「2、3時間出てくるよ」
「おっけー。うるさいのに見つかる前に帰れよー」
「わかってる」
    
立ち上がり、お互い手を振る。なんやかんやと構われるのも構うのも苦でない虎太郎はこういう集まりでは重宝するもので、自分と違うな、と姫鷹は思う。自分はどうも生真面目が過ぎて、楽な考えが出来ないのだ。

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少し早いけど、出れそうなんだ。央亮は?
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ゆるりと息を吐き出して、央亮と会う準備をするために、まずは自室へと向かいながら送ると、

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お、早く出られるんだ!やったね。姫と新年初めて会うからおめかししないと。すぐ行くよ。30分くらいかな。
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返信はすぐにそう来た。了解、とだけ送ってスマホの画面を消す。央亮に会えば少しは楽になれる。これもまた三成を吹っ切れない疾しさの逃げだな、と姫鷹の口に苦笑が浮かんだ。
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