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【7】澪のバレンタインデー

          ④

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 尾崎はスマホで観覧車の営業時間を確認した。 

「受付22時30分までですね。今からなら乗れますよ」

 澪が時計を見ると21時50分だった。

「乗りたいです~!」

 尾崎がお会計のため店員を呼んだ。澪も支払いのためバッグに手を伸ばしたが「ここは僕に払わせて下さい」と言ってカードで支払いを済ませた。

「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです。バレンタインデーなのにご馳走になってすみません。素敵なディナーでした」

 この夜景をまた一緒に見にきたいと思った。

 下りのエレベーターでは会話も途切れることなく、だまって階数標示を見上げることもなかった。

 ビルの外に出たところで北風が2人を包んだ。冷たくなった指でコートのボタンを上まで留めた。

 観覧車のある【HEP FIVE】には歩いて5分程で着き、エスカレータで乗り場まで上がった。

 受付階に到着すると恋人同士と思われる若い男女が列をつくっていた。

「若い人ばっかりですね。私たち浮いてないですか? 笑」
「僕たちも若いですよ」

 尾崎が真顔で答えると、思わず吹き出してしまった。

 観覧車から降りてきた女性が、彼氏と思われる男性へ笑顔で話しかけていた。

「めっちゃ綺麗かったなぁ」

 笑いながら男性は彼女に返した。

「お前が眩しくて夜景がよく見えへんかったわぁ」

 澪は尾崎の耳元へ顔を寄せながら小さな声で言った。

「あんな昭和みたいな事今でも言うんですね」

 笑いながら「ねっ」と言った尾崎の顔が近くてドキッとした。

 この赤い観覧車は52台あるゴンドラが地上105メートルまで上昇し15分で1周する。ビルの間を上昇し、やがて真下に見える煌々(こうこう)と輝くビルの集合体はクリスマスツリーが何本も並んでいるように見える。

 10分ほど列に並んでゴンドラに乗ることができた。 

「澪さんは高いところ平気ですか?」
「得意ではないですが観覧車くらいなら大丈夫です。でもジェットコースターは少し苦手です」
「実は僕も高いところ苦手なんです」と言って窓の外を見ていた尾崎は澪へ視線を向けてニコッとして続けた。
「でも観覧車からの夜景を澪さんと一緒に見たいなーと思いました」
「本当ですか? ありがとうございます。あれ、さっき若い時にバンジージャンプさせられたって言ってましたが大丈夫だったんですか?」
「いやーホントあの時は会社辞めたいって思いましたよ。あの後何回も崖から落ちる夢見ました」と本当に嫌そうな顔をしたので澪は笑ってしまった。

 やがて最上部に差し掛かるとゴンドラを支える支柱が見えなくなり、夜景だけが広がる360度パノラマビューとなった。
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