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【9】和希の過去
②
しおりを挟むそれからの日々とにかく社長はワンマンで、運転手付きの黒塗りのセンチュリーで出かける。まるでヤクザの親分みたいに。本社から大東支店に向かったと聞くと大東支店全員がそわそわしだして急に出かける者もいれば工場の中に消えていく者もいる。
ある日、御堂筋沿いのリース会社へ訪問するため車で向かったが、路上駐車が多く訪問先のビルの前に車を止められなかった。運転手は仕方なくビルを通り過ぎ空いてる所を探した。
「おい! どこ行くねん。ワールドリースここやろ。何回来とんねん‼︎」
運転手は後部座席から罵声が飛んできて焦った。
「社長、空いてる所で止めますので」
「アホんだら。ここで止めんかーい‼︎」
仕方なく運転手は急ブレーキを踏んだ。その時、後方車両からクラクションが鳴り響いた。
《ガチャ》
左後部席のドアが開き短い足が地面へ着地。そして黒いコートに黒いサングラスをかけたツルツル頭の社長が降りた瞬間、鳴り響いていたクラクションはピタッと止まった。社長は後方車両のドライバーをひと睨みして道路を横切りビルへ入って行った。
右後部席から降りた田村常務は後方車両のドライバーにペコペコ頭を下げながら社長を追った。
30分後、ワールドリースから出てきた社長は、キョロキョロと黒いセンチュリーを探した。
「おい! こっちや‼︎」
待機していた車を大きな声で呼んだ。
運転手は慌てて一方通行をバックで逆走して社長の前まで車を寄せてドアを開けると、社長は颯爽と乗り込んだ。
「なんか凄くない?」
笑いながら和希が言った。
「えー、これホントの話なん?」
澪は疑いの目で言った。
「和希は一緒に行ってないねんやろ? 何で知ってるん?」
これまた疑いの目で由唯が言った。
「常務が戻ってきた時、『今日ヤクザの気分味わったよー』って興奮して言ってきたからめっちゃ覚えてるねん」
「ラブリーカンパニーの相関図がこれまた韓流ドラマみたいにドロドロしてんねん!」
和希は焼酎を飲んで一息ついた。
「社長は離婚して再婚してるねんけど、ややこしいからよう聞いてや。①前妻と息子は会社の4階に住んでいる。②その息子は現在専務として働いている。③再婚相手は取締役として3階で働いている。④社員の奥さんを愛人にして離婚に追いやり、3階の経理部の責任者として働いている。⑤その社員は離婚後も社員のまま現在も働いている。どう? すごくない? 1つの建物に現在の妻、前妻、愛人、息子が一緒におるねん。この異様な光景わかる?」
「まじ⁉︎」
2人は驚愕した。
「まじ、まじ! これほんまの話やねん!」
「まだこんな話もあんねん!」
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