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【18】ドリームカムトゥルー
⑥
しおりを挟むお店を出たところで時間を確認すると15時30分。飲みに行くには少し早い。
「今からどうする?」
和希は後ろを振り返って聞いた。
お腹いっぱいと言わんばかりに由唯は両手でお腹をさすっていた。
その隣で澪がハニカミながら何か言いたそうにしている……。
「澪? 何か言いたそうやなぁ」
「あはは、わかる? 実はもう一軒行きたいとこあんねん……」
(えっ! はっ? まだ食べるん……?)
上目遣いにお伺いするような言い方をしているが、行く気満々のオーラが澪から伝わってくる。もう食べられへんやんなぁ?と、助けを求めるように由唯の顔をみた。
「いいよ! この時間からやってるん?」
(はっ? 『いいよ』って……。 今、お腹さすってたやん……)
「ううん。夕方からしかやってないからちょっと時間潰さなあかんねんけど」
(お~! セーフ)
声になりそうな言葉を何とか『心の声』までに抑えることに成功した。
「了解。んじゃ夜になるまでカフェでさっのお店の整理しよう?」
由唯が言うと先頭きって歩きだした。
澪が早足で由唯に追いつくと、腕を絡ませて猫なで声で甘えている。
「ゆいちゃ~ん、ありがとう」
由唯は澪の頭をポンポンしている。
な、な、なんだこの2人の光景は・・・初めて見た……。
和希は、諦める事にして、2人の後をとぼとぼ付いていった。すると先ほど入りかけたマクドナルドの前までくると由唯が入ろうとした。
「由唯? カフェってマクドのことか?」
「あかん? 時間潰せるし ええやん 笑」
「ええよ。ええけどマクドはカフェとは言わんやろ? って思っただけや 笑」
和希が言い返したが、由唯は返事もせず注文カウンターに並んだ。
「俺が買って持っていくから由唯と澪は先に席確保して座っといて。ホットコーヒーでいいねんやろ?」
そう言うと和希は2人の注文を聞いて順番待ちで並んでいた由唯と替わった。
「私、アールグレイのアイスレモンティ~」
「私はアイスカフェラテ~」
「……。マクドやで? そんなんあるんか?」
「和希知らんの? ちゃんとあるから。じゃーお願いしていい?」
「了解。えーっと、由唯がレモンティで澪がカフェラテやな。了解~」
最近はすっかり記憶力が弱くなった気がする。元々記憶力は良い方ではないが、特にカタカナの飲み物や食べ物の名前は一回聞いても頭に入らない。携帯のメニューを見ながらオーダーして無事に商品を受け取った。トレイに3人分の飲み物を乗せて、席のある2階に上がっていくと窓際の席を確保して座っていた。
「和希こっちこっち~!」
手を挙げて和希に聞こえる程度の小さい声で呼んだ。
「由唯がレモンティで澪がカフェラテやな」
2人に注文した飲み物を渡して席に落ち着くと和希が澪に聞いた。
「いつも1軒のお店をブログにアップするのにどれくらい時間かかるん?」
「その時にもよるけど写真のレイアウト、コメント作成などで2時間~4時間くらいかかるかなー」
「へぇー、そんなにかかるんやー。大変やなー」
「うん。一番気をつけてるのは、読んでくれた人に味が想像出来る言葉で書くことかな? 私が美味しいって思うものを、みんなが美味しいって感じるとは限らんし、文章も読む人によって伝わり方が違うから……。事実をそのまま伝えたいねんけど、そこが難しいねんなー」
「確かに。澪のブログ見て期待してお店行った人が不味いと思ったら嫌やもんなー」
「うん。でも、全員が納得するのは無理やからしょうがないと思ってるねんけど」
「そりゃ40万人のフォロワーがみんな納得するなんてあり得へんわな」
時計を見ると17時半を回ったところで和希が「そろそろいく?」と言ったので、澪が行きたいと言った北浜の多国籍料理店に向かうことにした。
「澪はもうお腹すいた?」
和希が聞くと澪は、
「うーん、まだいっぱい」
「あはははは。ブログ書く人がお腹いっぱいでも大丈夫なんかいな? 少しでもお腹を減らすために京橋から北浜まで歩いて行こかー」
「どのくらい歩くん?」
「15分くらいちゃうかー」
「いい運動やなー。歩こう歩こう!」
3人で話しながら歩くと15分はあっと言う間でまだお腹の空き具合は変わりなかった。
「澪、お腹どう? 食べれる?」
和希が聞いた。
「うーん……。食べれんことはない」
「由唯は?」
「全然空いてないー 笑」
「俺も食べれん事はないけど、そんなに空いてないかな……」
「……」
「ここまできたけど……ここのお店また今度にしよっかー。せっかく美味しい料理食べるのにお腹空いてる方がいいよね。ついつい欲張ってしまった。反省……」
「そやな。そうしよう! また、いつでも来れるしな」
和希が言うと由唯も隣で頷いた。
「じゃー軽く飲んで今日は帰ろうかぁ」
こうして北浜の立呑屋で1時間ほど飲んで澪の寝坊から始まった1日は終わった。
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