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【19】恋の羅針盤

          ④

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 6月初旬、今年は例年に比べ梅雨入りが遅く『梅雨入り宣言』が出ていなかったが空一面どんよりと暗雲に覆われていた。

「雨降りそうですね……」

 助手席の窓から遠くの空を眺めて言うと、昨日の天気予報だと雨は大丈夫だと言ってたのにと案じ顔で浜中が答えた。

「本宮さん、眠たくなったら寝といて下さいね」

 今朝7時に迎えにきてもらった時に、5時半に起きたと話したのを気にして言ってくれたのだった。今日は渋滞もなく車は倉敷に向けて高速道路を順調に走行していた。

「浜中さん仕事相変わらず忙しいんですか?」
「はい、ちょうどシーズンの競技が多くて試合に帯同することが多くて……」

 浜中の話し方に何となく違和感を感じた。いつもは話をどんどん広げていくイメージがあるのに今日は口数が少ない。かといって機嫌が悪いとかしんどそうということはない。忙しくて疲れてるだけかもしれないなと思うことにした。

 やがて山陽自動車道の岡山インターチェンジを倉敷方面へと分岐すると左前方にマスカット球場が見えてきた。

「本宮さん、野球は見ますか?」

 浜中が久しぶりに声を発した。 

「見ます。でも、特に応援してるチームはないけれどWBCは毎試合興奮しながらテレビの前で応援してました。浜中さんの会社は野球選手もマネージメントされてるんですか?」
「いいえ、野球選手は契約してないんです。ゆくゆくはやっていきたいと思ってるんですが。野球は日本選手のレベル高いですし活躍して大リーグに移設してさらに活躍できれば、想像もつかないお金が動きますので」

 確かにアメリカのチームで活躍する選手の契約金がニュースになることがあるが、私には想像のつかない桁の金額で、この人たちは値札も見ないで買い物するんだろうなぁーとアホなことを思ったことがあった。

「浜中さんくらいのレベルになると値札見ないで買い物したりしますか?」
「あははは、まさか。毎回値札みて悩んでますよ」
「あははは、ですよねぇ」

 今日の浜中さんは口数少なく、何か話さないとって思ってしまい、間抜けな質問をしてしまったと思った。でも『普通』は浜中さんの言うとおり値札見るよなぁーと思った。大金持ちの『普通』と私たちの『普通』はきっと違うだろうな。それは何で決まる? 価値観? 常識? 多数決? 線引きってどこなんだろう? と、考えてしまった。

 やがて車は倉敷インターチェンジを出ると15分程で観光地の美観地区に到着した。
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