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【19】恋の羅針盤

          ⑤

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 時計を見ると10時30分を少し過ぎたところだった。途中パーキングで休憩もして順調に到着した。倉敷の美観地区は名前の通り倉敷市の美観地区景観条例に基づき定められたエリアで伝統的建造物が多く岡山県を代表する観光地である。

 由唯は先日朝の情報番組でやっていたデニムストリートを思い出した。浜中にその時のロケ内容を話すと、そこに行ってみましょうとなった。

「本宮さんはデニム好きですか?」
「はい、めちゃくちゃ好きってわけではないですが、休みの日はよく履いてますよ」

 美観地区入口から入ると倉敷川の右手に大原美術館が見えてくる。日本初の西洋美術館だけあって建物に雰囲気が感じられ趣(おもむき)がある。そのまま、倉敷川に沿って歩いていくとデニムストリートがある。ストリートと行ってもメインストリートから脇に30メートルほどの長さしかない。児島ジーンズストリートが観光客向けに凝縮されたイメージか。

 倉敷市は、国内のデニム発祥の地と言われるだけあってデニムストリートにはデニムだけでなく、『デニムマン』や『デニムアイス』など、デニムにちなんで青系の色で仕上げられた軽食のお店も並んでいた。

 歩いていくと前から小さい男の子が口のまわりを青く染めてデニムアイスと思われる青いソフトクリームを片手に持っていた。その親子とすれ違う瞬間、浜中は微笑ましい顔をして眺めていた。

「デニムアイス食べますか?」
「食べたいですけど、口が青くなるから恥ずかしいです 笑」

 由唯はそう言ったが、いいじゃないですか? 青い口の本宮さん見てみたいですと笑いながらアイスを買うために並んでいる列へ足を進めた。えーっ! と言いながら初めて見る浜中の悪戯っぽい顔を見ながら一緒に並んだ。

「はい、どうぞ」

 浜中が由唯にアイスを渡してくれた。

「ん、浜中さんの分は?」
「僕は食べないです」
「えー、私だけ青くなるの嫌ですよぉ」

 由唯は食べる前に、はい、と言って浜中の目の前にアイスを差し出した。ありがとう、と言って浜中はひと口食べて美味しいと笑う浜中の青くなった歯を見て笑った。浜中も由唯の青くなった歯をみて、本宮さんもですよと笑い返した。

 今はいつもの明るい浜中さんだ。車で感じた口数の違和感は気のせいだったかもしれない。そのあとも、いつもの様子で楽しい時間はあっという間に過ぎて夕方になった。川沿いを歩きながら美観地区の入口に歩いて戻る途中、少し座りませんか? と浜中が川沿いの椅子を勧めてきた。午前中どんよりしていた暗雲は今は消えて綺麗な夕陽が長い影をくっきり浮かび上がらせていた。
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