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【19】恋の羅針盤

          ⑥

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 勧められた川沿いの椅子に両足を伸ばして座った。浜中も由唯の左に座り、ふたりできれいな夕陽に照らされた川をボーっと眺めた。何分経っただろうか? 座ってお互い声を発することなく、川のせせらぎと風の音だけが聞こえる。何か話したそうな空気を感じた由唯は浜中が言葉にするのを待った。

 その時、真っ白なシラサギが右の方から目の前を横切った。

「あっ、シラサギ?」

 シラサギを追っかけて視線を動かしていくと浜中の視線とぶつかった。眼界は浜中へと変わった。

「由唯さん?」
「はい……」
「結婚を前提にお付き合いしてもらえませんか?」

「……。」

 いきなり『結婚』という予期せぬ告白に動揺してすぐには声にならない。浜中さんは、好い人だし、付き合ってほしいと言われたら嬉しいなと考えたことがないと言えば嘘になる。しかし、『結婚』という言葉が出てくるとは考えもしなかった。想いの丈を打ち明けてくれたことは嬉しい。でも、心の整理が追い付かない。

「今、返事をくれなくてもいいです。でも真面目に考えてみてくれますか?」
「はい。ちょっとびっくりしてしまって」

 由唯は笑顔を返すのがやっとだった。

「僕は来年、会社を継いで社長に就任する予定なんです」
「すごいですね! おめでとうございます」
「これからは今より忙しくなって、大変になると思うけど、由唯さんが側にいてくれたらどんな困難も乗り越えられると思います。ずっと一緒にいてほしい。そばで支えてくれませんか?」
「そういう風に言ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます」
「よかった。困った顔をしたらどうしようかと思いました。あと、古い考えかもしれませんが、仕事から帰った時に由唯さんが家に居てくれたらどんなに幸せかって思います。勝手を言うかもしれませんが、仕事はやめて家に入ってほしいと思っています。必ず由唯さんを幸せにします」

……。

「仕事を辞めて、家に?」
「はい」
「仕事をやめて家に入るんですか?……」
「はい。仕事を今まで頑張ってきたのはわかっています。それは由唯さんと話してるとすごく伝わってきますし、一緒にやってきた仲間への思い入れもあると思います。だけど、僕の仕事は夫婦でパーティーに出席することもよくあって、そこはお願いできないかなと思っています。仕事をやめて私を支えてもらえませんか?」
「ゴルフがきっかけで知り合って、いつも私のことを気にかけてもらって、私も浜中さんのことを素敵な人だなって思うようになったのが正直な気持ちです。お付き合いしたらどうなるのかな? って考えることもあります。でも、お互いの事をまだ全然分かってないのに、いきなり結婚って言われてびっくりしました」
「突然すぎましたよね? ごめんなさい。でも、マジメな気持ちで言ってます。ちゃんと考えてみてくれますか?」
「はい。ちゃんと考えますので少しお時間もらってもいいですか?」

 緊張していた浜中がようやく笑顔になって、「わかりました。よろしくお願いします」と答えた。

「急にびっくりしましたよね? じゃ、とりあえずご飯食べに行きましょうか? お腹すきましたよね?」

 浜中が立ち上がり、はい。と手を出した。由唯は戸惑いながらもニッコリして浜中の手を持って立ち上がった。2人はゆっくりと歩きだした。
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