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【19】恋の羅針盤
⑩
しおりを挟む水曜日、仕事が終わると地下鉄の改札で澪と待ち合わせてブログに載せるお店に向かった。会社から2つとなりの駅にある創作料理屋さんで駅から5分ほど歩いた路地の奥の方にひっそりとあった。店の前から中をのぞくと早い時間にも関わらず席はけっこう埋まっている。入り口に近い2人用のテーブル席に座ると先ずはお酒のメニューを吟味する。カウンターの奥には日本酒の一升瓶がずらりと並んでいた。
さすが澪! よくネットにも載っていない奥まった場所のお店探してくるなーと言うと、まぁーねと誇らしげに笑った。
澪は日本酒の春鹿超辛口をオーダーすると由唯は? と聞かれ、私も同じで! と言った。珍しいやん最初からと笑った。お酒がテーブルに並ぶと、豚巻き白ネギ一本焼き、アボガドバター餅、生ハムサラダを頼んだ。一通りオーダーを済ませようやく落ち着いた。
「今日、和希は誘ってないの?」
「声掛けたけど接待があるとかで2人で頑張ってきてーって言われた」
「そうなんやー」
料理も並んでお酒の酔いが回ってきて気持ちよくなったところで澪が聞いた。
「浜中さんと倉敷行ってきたん?」
「うん、行ってきたでー」
「何も報告ないから気になっててん 笑」
「あははは、ごめんごめん」
「で、どうやったん?」
「どぉーって楽しかったで。デニムアイス食べて口の周りめっちゃ青くなったわ 笑」
「それだけ? 何か進展なかったん?」
「ないない 笑」
まだ、自分の中で決断できていなかったので告白されたことは、まだ言わないでおこうと思った。進展がないと聞いて澪は肩透かしにあったような顔をしたが、それ以上、聞いてくることはなかった。その後はブログ用に料理やお酒の写真を手際よく撮影してカウンターの中の店主にブログに載せていいか確認しにいった。
澪のブログのフォロワーは今も順調に増えて43万人になろうとしている。最近はフォロワーの人たちが納得する記事を書かないといけないというプレッシャーから解放され、自分のいいと思ったお店と料理を自由に掲載するようになって一時のプレッシャーからは解放されている。そんな澪の顔はいきいきとしていた。
「今日もまた食べ過ぎたわ 笑」
最近、ブログに載せるお店に行くと決まって出てくるセリフだ。料理もお酒も美味しいのでついつい食べすぎてしまう。
帰り、駅の改札で別れ際にブログのアップ楽しみにしてるよ~と言ってバイバイすると由唯はひと駅移動し家に向かう電車に乗り換えると、人もまばらでシートに座って発車を待った。
先日のテレビでやってた『愛』と『恋』の違いについての話が頭をよぎった。
「ゆい?」
頭の上から声が落ちてきた。顔を上げると和希が顔を赤くして『お酒飲んできました』って顔で立っていた。
「おっ! 和希」
「さっちゃんブログの取材の帰りか? 笑」
「うん。和希はこんな時間にどうした? ……あっ、今日は接待って言うてたね?」
和希がとなりのシートに座った。
「そうやねん。飲み過ぎたわ 笑。由唯は今日もお腹いっぱいって顔やな 笑」
「うん、めっちゃいっぱい。体重増えてしまうわ 笑」
「あははは、由唯はそんなん気にせんでも大丈夫やろ」
そんなことない。と言い返すと、そうだ、離婚した和希は『愛』『恋』問題どう考えてるのか聞いてみたくなった。
「なぁ、『愛』と『恋』の違いってなんやと思う?」
「ん? どうしたん急に 笑」
和希は笑って前を向くと少し考えて話だした。
「『愛』は、相手からの見返りを求めずに大切に想う気持ちかな? 『恋』は見返りを求めてしまうのかな? だから、告白して振られたら気持ちが覚めるのは『恋』やろ」
和希は何気にドヤ顔して言った。
「ふーん。なんか、かっこいいこと言うやん 笑。 と言うことは、和希は奥さんに『愛』が足らなかったということか? 笑」
「ちゃうやろ。俺は離婚届け送ってこられた方やぞ!」
「あははは、そうやった 笑。 ごめんごめん」
なるほど。和希の話は真心と下心の話に似てるのかな? と思った。話をしてると私の降りる駅に着いたので、また明日~と和希に手をふって電車を降りた。
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