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【19】恋の羅針盤
⑪
しおりを挟む6月も後半に差し掛かり、梅雨明け宣言は出ないままだが、今日は夏を思わせるようなカラッとした天気で朝から暑い日となった。一昨日、浜中からご飯でもどうですか? と誘いがあり、金曜日の今夜会うことになった。約束の19時少し前に指定されたホテルのロビーに到着して浜中を見つけると早足で近寄り、遅れてすみませんと言ったが、僕が早く来ちゃったのでと微笑んだ。そのまま2階の鉄板焼きのお店に入った。今日の浜中の表情が固いように感じ、由唯も今日は緊張している自分がわかった。
食事の注文を終えると、ここ数日の仕事の出来事を浜中は笑顔を交えながら話し始めた。由唯は先日の返事を聞きたいといつ言われるのかと思うと、笑顔で答えてはいるが今一つ話が頭に入ってこない。
「こんな時、本宮さんならどうします?」
ん……? 今、何の話してたっけ? 数秒前の会話が思い出せなかった。
「うーん、どうしようかなぁ? 迷いますね?」
「そうですよね~! 迷いますよね!」
何とか適当に話をごまかした。
食事は進んでいくが一向に浜中は返事について触れてこない。今夜はただの食事だけなのか? 確かに今夜返事を聞かせて下さいとは一言も言われていなかった。
最後のデザートを食べ終え、今夜も楽しかったです。と言った浜中から返事を聞いてくる雰囲気はない。由唯は今の心境を伝えないと待ってくれている浜中に失礼だと思い、もう一軒行きませんか? と誘った。
由唯の真意を図るように、少し間があった後にいいですね。と言って同じホテルのバーに場所を変えた。そこは、大阪の夜景が綺麗な最上階にあるバーだった。
「綺麗ですね~! 大阪駅があんなに小さく見える。下から見上げるとあんなに大きいのにここから見ると模型みたいですね」
「本当ですね、テレビの中の遠くの世界みたいですね」
それから暫く他愛もない話を続けた。私から誘ったのに話し出すきっかけが見つからないまま時間だけが過ぎた。
「本宮さん、さっきのお店で僕の話あんまり聞いてなかったでしょ? 笑」
「えっ! ちゃんと聞いてましたよ」
「あははは、だってさっき私が家で料理して砂糖と塩を間違えた話をした時に、こんな時、本宮さんならどうしますか? って聞いたのに、『どうしようかな? 迷いますね』って話噛み合ってないなと思ったんです 笑」
「……ごめんなさい」
「いえいえ、きっと僕のせいですよね?」
「浜中さんのせいとかではないんですが、先日のお話の事をずっと考えていました」
由唯は決断すると静かに話し始めた。
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