燃え尽きた貴族が10年後療養してたら元婚約者に娶られてしまいまして

おげんや豆腐

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完結編 月の獅子の目は彼の者に

月の歴史に思いを寄せて

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※※※

初代アスラン王、ポルクス。

彼は公平無私な政治により一代で王国の基礎のすべてを築き上げた。

彼の統制に月の獅子は見惚れ、祝福を授けた結果、晩年には一面砂漠だった王国は緑溢れる豊かな大地と化した。

この奇跡を持ってアスランの王国かその時まで彼の功績を刻み続けるだろう。



※※※

…………古い、古い、強く握れば朽ちそうな脆さの本の、一ページ。

「獅子」
それを、続きに目を通さず後ろに投げた。


「隠してる情報、だせ」
誰にも聞かれず、誰にも見られず、誰がくるはずもない宝物庫、だがひとたび、名を呼び用件を言えばゴトリと、後ろで重たいものが落ちる音がした。


手にとったそれは千年近く前に造られた石板、国が上質な紙だのなんだのを普及させる直前の最古の記録。


ならあの本に書かれている王とはなんなのか
……今はいいか。



「これは、日記か」





※※※


太古からの先祖返り、奇跡の体現者、臣民の象徴たる現人神。

いいや、いいや、私は神じゃない。

友一人犠牲にしなければ国を築けぬ弱き者、偽善を貫き通すだけの男。

力だけではすべてを解決できないことを、手遅れになってから気づく愚者である。

戒めとして、後世に残そう、そしてこの記録を見た者は同じ過ちをさぬよう切に願う。


いくら隣国との間に障壁を張れるほどの力があっても、神に認められる資格があったとしても、どれだけ臣民から認められようと、それだけでは真に救いたい者は救えない。

この王冠を被るのは、本来友であった、あって欲しかった、そうはならなかった。


次代のディフラカンよ、傲慢になるな、なったが最後、得難い友は風に吹かれた砂のように消え失せ、二度と会えなくなる。



この身朽ちた後いつか、我が愛しき友、無二の兄弟カストルがこの石板を見つけてくれることを願う。

砂漠だった地がなぜ緑に染まったのか獅子に問いただしたが、分からないと返事返ってきた、きっと君がやってくれたのだろう、ありがとう。

生涯見つけられなかった故に、直接伝えられなかった言葉を記す。

すまなかった、どうか私のことを許さないでくれ。





※※※

「……あん? 」
この書き方、カストルという人間がまだ生きてると捉えられるんだが……文字が古いから流石に解釈が間違ってるだけか。


「獅子、次を寄越せ」



考察は後回しだ、今はただ情報が欲しい。





※※※


クロトゥラン家に無視できない異変が起きている。


父が没し、玉座を息子に譲ったタイミングで、クロトゥランの家に双子が生まれたのだが、長男の様子がおかしかった。

表情、感情の起伏がほぼ無いに等しく。
受け答えが困難、勉学、運動をする様子も見られず、食事も満足に取らず日がな一日空を眺めている、有り体に言えば、気が触れている。

そんな彼をクロトゥランの当主トラロ並びに妻は愛した、私にはこの子の人生を受け持つ用意ができていると、惜しみない愛情のこもった目を、椅子に座りずっと天井を見上げている彼に向けた。

それならそれでよいと認め、彼一人満足に養えない国でもないと納得してその場は終わった。

だが彼が十歳の時、式典の際テロが発生した、死の大地の生き残りと名乗る集団に息子が狙われた際、彼が目にも留まらなぬ速さで息子の前に立ち、刃をその身で受け止め絶命した。

まだ小さな、十にも満たない彼の顔は、笑顔だった。 

……形式として、王を守護した功績をもって、クロトゥラン家に褒美を与えた、それしかできなかった。


式典の日、獅子は目を閉じていたとぬかしやがった。




※※※

「……次」

※※※



クロトゥラン家に双子が生まれた。

笑わず、怒らず、声も出さない長男がいると、取り乱したクロトゥラン家先代当主に言われ、会いに行くと、彼はワタシを見て静かに微笑んだ。



無気力だと言われた彼は、公爵家の立場を利用し、よく城に遊びに来ていた、まだ幼少ということもあり許容していたある日城での公務中、突如彼が部屋に現れ窓辺に立ったかと思えば、その場で崩れ落ち、赤い水たまりを作った。


慌てて抱き起こせば彼の胸に、大きな矢が刺さっていた。

その矢が飛んできた先に、私の座ってい椅子がある、……意図的か偶然かはともかく、彼がいなければ私は死んでいた。


齢十にも満たない子供の命に護られた、本来護るはずの大人が、王が、嗚呼、なんて情けない。
この事件を重く受け止め、すべての国の機能を最適化させた結果、賢王という称号がついた、そんな大層なもの、つけられる資格もない。


取り返しのつかない失敗から学んだ、ただ、それだけのことを何度も、何度も伝えているのになぜ民は分かってくれないのか。




獅子よ、お前はどう思う。 



※※※

「次」


※※※


先代、先々代の記録通り、クロトゥラン家に双子が生まれた、記録と違う点は、長男はとても元気で、貴族として見なければとても健やかな、いい子だった。


クロトゥランの当主ティワカンと極小規模の酒の席を開き喜んだ、双子が生まれ、その片割れが不審死する流れが終わったのだと報告してきた。

テロ対策も、国防の強化も、暗殺対策も万全、これでもう憂うことはないだろう。
無邪気に遊ぶ彼、健やかに育つ彼を見れるのだと父と喜んだ。




結果としては確かに戦争も抗争も王の命を狙うものはいなかったが、病魔に対する対策は甘かった。


一言で言えば流行り病が死の大地より流れる風に乗り、原因不明の発熱、咳、倦怠感、定期的に血を吐く病が広まった。

他国からの支援のおかげですぐに特効薬が完成したが前線近くにいた息子が運悪く重症化した。
薬の効きも悪く打つ手が無いと言われた時、十一になったばかりの彼が来た。

意識のない息子の眠るベッドに近寄った彼は、ただその額に自分の額を当て、そして満足気な顔をして帰っていった。

 
程なくして、息子は驚異的な回復を果たした。
同時に、彼の訃報が届いた。   


重症化した息子の症状と全く同じ病で亡くなったと、つい数時間前までは健常者となんら変わらなかったはずなのに。

崩れ落ちる当主に俺は、王族を救ったという褒美しか、用意できなかった。



後にクロトゥラン家は大陸中から医学書を取り寄せ、晩年には領地に巨大な医院を設立していた。

二度と同じ過ちを犯さないためと、それは私も同じだ、彼の犠牲を無駄にはしない、そのために未来の人間に読まれるように、この記録を残す。



何もできなかった自分を棚にあげ、つい考えてしまった。
獅子ならば今回の災害、未然に防げたのではないのかと。


国民からは国の発展にすべてを捧げる素晴らしき王だと讃えられるが、そんな者は存在しない。

王座を降り十数年、また、クロトゥランに双子が生まれた。


獅子はクロトゥラン家にはなにも手を加えていないらしい。



※※※





「お前はこれを、どう思って見てたんだ?」
後悔に溢れたディフラカンの王たちの本、それらを呼んでふと浮かんだ疑問を宙にいるヤツに向けて言った。

この国のはじまりからいる化け物、月の獅子、夜毎に夢に出てくる鬱陶しい獣。

俺にしているということは歴代の王にも同じ事をしていたに違いない。

悩み苦しむ彼らを見て、やつはどう思っていいやがるのか。



返答は、とてもシンプルで、死ぬほどムカつく台詞だった。





"もちろん、とても キレイだった"






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