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7.プラナ・ローカ
「はい、こちらで終わりです。お疲れ様でした。首、回してみて違和感ないですか…?」
「…ん、大丈夫です…。すごいな、何だか、全身が軽くなったみたいだ…」
「それは良かったです。腰とお尻、あと太腿の痛いところは、続けていけば痛くなくなります。…最後にハーブティーをお出ししてるんですが、苦手じゃありませんか?」
「あぁ、どうも。…ハーブティーなんて、やっぱり洒落てますね。今のところ好き嫌いはないので、頂きます」
曽根川が陶器のポットからガラスのカップに注いで出してくれたハーブティーは、程よく温かで、ハーブ独特の香りと風味に、スッキリした薄荷の後味がある。よく口にする水以外の飲み物と言えばブラックコーヒーか日本茶、麦茶ばかりの加賀にとって、ハーブティーなど、美容を気にする若い女性の飲むものだという先入観があった。だが、曽根川の言うところによると、毒素を排出するデトックス効果が強いブレンドをしているので、基礎疾患や妊娠さえなければ、年齢性別に関わりなく飲めるものだということだった。
腕のいいセラピストのリフレクソロジーというものを受け、初めて知ること、初めて経験することばかりだということに驚かされた。そして未だ、曽根川の熱い指先が身体のあちこちに触れていた記憶が、汗ばむ肌の上にはっきりと残っている。
「宜しかったら、シャワー使われます?加賀さんが最後のお客様なので、気持ちが悪かったら、汗を流してお帰りになられても構いませんよ」
「いえ、帰ってから、ゆっくり風呂に浸かろうと思います…。シャワーを浴びると、そのまま眠くなってしまいそうで。ありがとうございます」
ハーブティーを味わいながら、眉尻を下げて曽根川の申し出を辞する加賀を見つめ、曽根川は切れの長い瞳を細めて頷く。
「入浴の習慣があるのですね、良いことです。シャワーでさっと済ませるより、ゆっくり湯船に浸かった方がいいんですよね。血行が良くなりますから…。お着換えになられたら、下半身のセルフケアのストレッチを書いたレシピをお渡しします。今日は、たっぷり水を飲んで、お酒は控えて下さいね…」
「ええ、何だかとてもスッキリして、今日はよく眠れそうです」
加賀の言葉は決して大袈裟でも、まして世辞でもない。ハーブティーのおかげか、更に汗が噴き出してくる感覚と共に、何かの見えない重りを脱ぎ落したように身体が軽くなっていることを、気のせいではなく自覚している。
ホストか俳優と見紛う程のクールな美貌で、曽根川は実に嬉しそうに笑っていた。その顔を見ていると、自分の施術で客が気持ちよさそうにしているとやる気が出る、という言葉は、あながち単なるサービストークでもないのかもしれないと思えた。
■□■
少しばかり軽くなった身体を再びスーツに包み、曽根川に見送られて、古い雑居ビルを後にする。一日に、客は多くとも四組までしか入れない、という徹底したサロンは曽根川一人で営んでおり、他のセラピストを入れるつもりはないのだという。もちろん、価格は決して安くはなかったが、月に数回通って、坐骨神経痛や椎間板ヘルニアの原因が取れるのならば全く悪くはない、そればかりか全身の不具合に気付いてもらえるのならば、先行投資として安いものではないかと加賀は思う。
何より、身体中流れるように触れる、曽根川の指。
あの、少し体温の高い指先が、心地のよくなるポイントに的確に潜り込み、押し込み、掌全体で押し包んで、揺らしながら揉み解してくれる。首筋、肩の後ろ、背中から足腰、手足の指先まで。施術の最中に味わった快感を思い出すだけで、全身の産毛がぞわりと甘く逆立つのを感じた。
そればかりではなく、思い出されるのは一見して華やかな顔立ちの男が、こちらを見つめて浮かべる嬉しそうな笑顔。耳あたりの良い、低く穏やかな声。
そこで加賀はハッと我に返り、考えを振り払うように首を軽く横に揺らした。
『馬鹿な。相手は、同じ男じゃないか──。マッサージや整体に大事なのは、技術だろう…?顔とか声とか、そんなことは全然関係ないというのに…』
改札の入口に、ピ、と定期を翳して、独り暮らしのマンションがある最寄り駅への電車に乗る。たった数駅足らずの距離、終電に近い電車にはちらほらと座席に空きが見えたが、加賀は敢えて吊り革に掴まって立つことを選んだ。座ったが最後、その瞬間に眠り込んで、終点まで辿り着いてしまうであろうことは薄々予測していたからだ。
「…ん、大丈夫です…。すごいな、何だか、全身が軽くなったみたいだ…」
「それは良かったです。腰とお尻、あと太腿の痛いところは、続けていけば痛くなくなります。…最後にハーブティーをお出ししてるんですが、苦手じゃありませんか?」
「あぁ、どうも。…ハーブティーなんて、やっぱり洒落てますね。今のところ好き嫌いはないので、頂きます」
曽根川が陶器のポットからガラスのカップに注いで出してくれたハーブティーは、程よく温かで、ハーブ独特の香りと風味に、スッキリした薄荷の後味がある。よく口にする水以外の飲み物と言えばブラックコーヒーか日本茶、麦茶ばかりの加賀にとって、ハーブティーなど、美容を気にする若い女性の飲むものだという先入観があった。だが、曽根川の言うところによると、毒素を排出するデトックス効果が強いブレンドをしているので、基礎疾患や妊娠さえなければ、年齢性別に関わりなく飲めるものだということだった。
腕のいいセラピストのリフレクソロジーというものを受け、初めて知ること、初めて経験することばかりだということに驚かされた。そして未だ、曽根川の熱い指先が身体のあちこちに触れていた記憶が、汗ばむ肌の上にはっきりと残っている。
「宜しかったら、シャワー使われます?加賀さんが最後のお客様なので、気持ちが悪かったら、汗を流してお帰りになられても構いませんよ」
「いえ、帰ってから、ゆっくり風呂に浸かろうと思います…。シャワーを浴びると、そのまま眠くなってしまいそうで。ありがとうございます」
ハーブティーを味わいながら、眉尻を下げて曽根川の申し出を辞する加賀を見つめ、曽根川は切れの長い瞳を細めて頷く。
「入浴の習慣があるのですね、良いことです。シャワーでさっと済ませるより、ゆっくり湯船に浸かった方がいいんですよね。血行が良くなりますから…。お着換えになられたら、下半身のセルフケアのストレッチを書いたレシピをお渡しします。今日は、たっぷり水を飲んで、お酒は控えて下さいね…」
「ええ、何だかとてもスッキリして、今日はよく眠れそうです」
加賀の言葉は決して大袈裟でも、まして世辞でもない。ハーブティーのおかげか、更に汗が噴き出してくる感覚と共に、何かの見えない重りを脱ぎ落したように身体が軽くなっていることを、気のせいではなく自覚している。
ホストか俳優と見紛う程のクールな美貌で、曽根川は実に嬉しそうに笑っていた。その顔を見ていると、自分の施術で客が気持ちよさそうにしているとやる気が出る、という言葉は、あながち単なるサービストークでもないのかもしれないと思えた。
■□■
少しばかり軽くなった身体を再びスーツに包み、曽根川に見送られて、古い雑居ビルを後にする。一日に、客は多くとも四組までしか入れない、という徹底したサロンは曽根川一人で営んでおり、他のセラピストを入れるつもりはないのだという。もちろん、価格は決して安くはなかったが、月に数回通って、坐骨神経痛や椎間板ヘルニアの原因が取れるのならば全く悪くはない、そればかりか全身の不具合に気付いてもらえるのならば、先行投資として安いものではないかと加賀は思う。
何より、身体中流れるように触れる、曽根川の指。
あの、少し体温の高い指先が、心地のよくなるポイントに的確に潜り込み、押し込み、掌全体で押し包んで、揺らしながら揉み解してくれる。首筋、肩の後ろ、背中から足腰、手足の指先まで。施術の最中に味わった快感を思い出すだけで、全身の産毛がぞわりと甘く逆立つのを感じた。
そればかりではなく、思い出されるのは一見して華やかな顔立ちの男が、こちらを見つめて浮かべる嬉しそうな笑顔。耳あたりの良い、低く穏やかな声。
そこで加賀はハッと我に返り、考えを振り払うように首を軽く横に揺らした。
『馬鹿な。相手は、同じ男じゃないか──。マッサージや整体に大事なのは、技術だろう…?顔とか声とか、そんなことは全然関係ないというのに…』
改札の入口に、ピ、と定期を翳して、独り暮らしのマンションがある最寄り駅への電車に乗る。たった数駅足らずの距離、終電に近い電車にはちらほらと座席に空きが見えたが、加賀は敢えて吊り革に掴まって立つことを選んだ。座ったが最後、その瞬間に眠り込んで、終点まで辿り着いてしまうであろうことは薄々予測していたからだ。
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