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第二章
十二支+α会議
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「良いですか? 羽咲殿」
それは、天元を発つ前の日の夜。僕が旅立ちに備えて早く眠りに就いた後に、こっそりと行われていたこと――。
「この萌志と笑琉は新参者なれども、十二支としての経験では一足も二足も先んじております。故に、これより後は厳しく接して参りますが、全てはアキ様の御為と受け入れていただきたい」
ぺしんぺしんと尻尾で畳を叩きながら、萌志が言う。
「あいっ」
たしっ、と片方の前足(映いわく手)を挙げて、羽咲が応じるのと同時に、その隣の音守も「バウッ」と控えめな声量で吠えた。
ちなみに話をする前に、了解や許諾の意を示す際には右前足を、質問のある場合は左前足を挙げるように決められている。羽咲はすっかり忘れていたが、十二支たちだけの間での決まりごとであった。そして先程羽咲が挙げたのは右である。
「妾はあまり無体なことは避けたいと思うておりまする。彼の御仁の意思に反しようとも、この幼子に戦いを強いるのは酷と言うもの」
笑琉の不安げな眼差しに、萌志は心配するような素振りを見せたものの、羽咲を気にしてか表情を引き締めた。
「何も吾とそなたのように酷使されることはありますまい。アキ様は吾たちのような者にも心を砕いて下さる御方なれば、一層励まねばならぬものと思うのが道理」
「あいっ」
そこで、羽咲がこっそりと笑ったが、萌志には羽咲がやる気に満ち溢れた状態であった為に、然して気に留めることはなかった。
しかしこの時、羽咲は萌志のある言葉に反応していたのであり、またそれは萌志としては羞恥を覚える勘違いも甚だしいことだった。
ぷぷっ。萌志が「わたち」だって。あたちと一緒ね!
再度になるが勘違いである。
萌志が言ったのは「吾たち」つまり自分と笑琉を指しているのだが、羽咲がそのように受け取らなかったのだ。
「妾にとっては、魔物よりも彼の御仁の方が恐ろしい。羽咲殿は平気で悪戯などをしておりましたが、赦されざる所業で御座いましょう」
「笑琉は苦手なの? たまにとっても怖いけど、あたちは平気よ」
「それもアキ様の庇護によるものでしょう。彼の御仁はアキ様に御名を託しておいでです。アキ様の傍にあるうちは咎め立てられるようなことはないでしょうが、その外では容赦はされますまい」
「!」
羽咲の体毛が逆立つ。
萌志と笑琉の前でやったことで「赦されざる所業」とされるならば、これまでやってしまったあれやこれやでは、自分は一体どうなってしまうのだろうか。
「で、でもあれは、アキを助けりゅ為にちたんだもん……あたち、悪くないわ」
「羽咲殿が何をしたのかは分かりませんが、悪いのはお相手があの御方であったことです」
「うぅ……」
自身を落ち着かせようとしたのか、耳の毛繕いを始める羽咲。
音守が「自分がついている!」と主張するように、羽咲の体に自分の体を擦り付け、その勢いでパタリと羽咲を倒してしまい、動揺してそのまま鼻先で羽咲を転がして回っていたが、シャーッと笑琉の威嚇する声に驚いて止まった。
転がされまくったのは、ただ起こそうとしただけだと分かったのだろう。羽咲は全身の毛がゴワゴワになったのを悲しそうに見下ろしたが、音守の背中をぽんぽんと叩くだけに留めた。
「戌亥がこうもなつくとは。やはりこの戌亥も特別なのでしょうか」
「音守よ」
「失礼致した。音守殿」
「バウッ」
――僕には会話の内容まで知らされたりはしなかったけれど、そうやって遅くまで会議という名目で雑談をしたことで、親睦を深めたらしい。
仲間に加われなかったのはちょっと寂しいけれど、想像してみただけで和めてしまったから、是非ともまたやって欲しいなぁと思う。やっぱり仲良くして欲しいからね。
ああでも、羽咲がとってもいい子だってことを、黒檀さんにアピールするように羽咲自身から頼まれたんだけど、何でなんだろう?
それは、天元を発つ前の日の夜。僕が旅立ちに備えて早く眠りに就いた後に、こっそりと行われていたこと――。
「この萌志と笑琉は新参者なれども、十二支としての経験では一足も二足も先んじております。故に、これより後は厳しく接して参りますが、全てはアキ様の御為と受け入れていただきたい」
ぺしんぺしんと尻尾で畳を叩きながら、萌志が言う。
「あいっ」
たしっ、と片方の前足(映いわく手)を挙げて、羽咲が応じるのと同時に、その隣の音守も「バウッ」と控えめな声量で吠えた。
ちなみに話をする前に、了解や許諾の意を示す際には右前足を、質問のある場合は左前足を挙げるように決められている。羽咲はすっかり忘れていたが、十二支たちだけの間での決まりごとであった。そして先程羽咲が挙げたのは右である。
「妾はあまり無体なことは避けたいと思うておりまする。彼の御仁の意思に反しようとも、この幼子に戦いを強いるのは酷と言うもの」
笑琉の不安げな眼差しに、萌志は心配するような素振りを見せたものの、羽咲を気にしてか表情を引き締めた。
「何も吾とそなたのように酷使されることはありますまい。アキ様は吾たちのような者にも心を砕いて下さる御方なれば、一層励まねばならぬものと思うのが道理」
「あいっ」
そこで、羽咲がこっそりと笑ったが、萌志には羽咲がやる気に満ち溢れた状態であった為に、然して気に留めることはなかった。
しかしこの時、羽咲は萌志のある言葉に反応していたのであり、またそれは萌志としては羞恥を覚える勘違いも甚だしいことだった。
ぷぷっ。萌志が「わたち」だって。あたちと一緒ね!
再度になるが勘違いである。
萌志が言ったのは「吾たち」つまり自分と笑琉を指しているのだが、羽咲がそのように受け取らなかったのだ。
「妾にとっては、魔物よりも彼の御仁の方が恐ろしい。羽咲殿は平気で悪戯などをしておりましたが、赦されざる所業で御座いましょう」
「笑琉は苦手なの? たまにとっても怖いけど、あたちは平気よ」
「それもアキ様の庇護によるものでしょう。彼の御仁はアキ様に御名を託しておいでです。アキ様の傍にあるうちは咎め立てられるようなことはないでしょうが、その外では容赦はされますまい」
「!」
羽咲の体毛が逆立つ。
萌志と笑琉の前でやったことで「赦されざる所業」とされるならば、これまでやってしまったあれやこれやでは、自分は一体どうなってしまうのだろうか。
「で、でもあれは、アキを助けりゅ為にちたんだもん……あたち、悪くないわ」
「羽咲殿が何をしたのかは分かりませんが、悪いのはお相手があの御方であったことです」
「うぅ……」
自身を落ち着かせようとしたのか、耳の毛繕いを始める羽咲。
音守が「自分がついている!」と主張するように、羽咲の体に自分の体を擦り付け、その勢いでパタリと羽咲を倒してしまい、動揺してそのまま鼻先で羽咲を転がして回っていたが、シャーッと笑琉の威嚇する声に驚いて止まった。
転がされまくったのは、ただ起こそうとしただけだと分かったのだろう。羽咲は全身の毛がゴワゴワになったのを悲しそうに見下ろしたが、音守の背中をぽんぽんと叩くだけに留めた。
「戌亥がこうもなつくとは。やはりこの戌亥も特別なのでしょうか」
「音守よ」
「失礼致した。音守殿」
「バウッ」
――僕には会話の内容まで知らされたりはしなかったけれど、そうやって遅くまで会議という名目で雑談をしたことで、親睦を深めたらしい。
仲間に加われなかったのはちょっと寂しいけれど、想像してみただけで和めてしまったから、是非ともまたやって欲しいなぁと思う。やっぱり仲良くして欲しいからね。
ああでも、羽咲がとってもいい子だってことを、黒檀さんにアピールするように羽咲自身から頼まれたんだけど、何でなんだろう?
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