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検証準備
しおりを挟む早くも1週間がたち、約束の日となった。
犬塚は正直、あまり乗り気ではなかった。
考えれば考えるほど、玉木が精神を患っている可能性の方が高い気がしたからだ。
両親をいっぺんに亡くした事が引き金になっても何らおかしくない。
失踪した従兄弟というのも、玉木の異常さから逃げて連絡を絶っているのかもしれない。
霊的なことが起きなければ、犬塚は貴重な時間を費やして男のオナニーを見せられることになるのだ。
万が一、いや、億が一、本当に霊現象だつたとして、
男が見えない何かに犯されている映像など、例えぼかしを入れたとしてもYou●ubeの規約的に投稿できるのだろうか。
どちらに転んでも得にならない。
あー、行きたくない。
しかし、泣きながら必死に懇願する玉木の姿が頭から離れなかった。
「はぁぁ~」
犬塚は深い溜息をつきながら目的地まで車を走らせた。
犬塚は玉木家を前にして、
一瞬の躊躇の後、インターホンを押した。
ピンポーン
ガチャッ
「うわっ」
まるで、ずっと玄関で待っていたかのように瞬時に開いた扉に、犬塚は思わず驚きの声を上げた。
「あ、犬塚さん。すみません、丁度玄関の近くに居たもので…。驚かせてしまいましたね。」
「あ、いえ。勝手に驚いてしまって、すんません。」
恥ずかしそうに頭を搔く犬塚を見て玉木は微笑むと、どうぞと家の中に通してくれた。
「本日も御足労頂きありがとうございます。」
玉木が深々と頭を下げる。
「いえいえ、こちらこそお招き頂きありがとうございます。早速になりますが、カメラを玉木さんの寝室に運びたいのですが、良いですか?」
「はい。よろしくお願い致します。ご案内しますね。」
玉木は平屋の長い廊下を奥に歩いていく。
途中、風呂やトイレの場所も案内してもらいながら玉木の部屋に着いた。
玉木の部屋は襖で仕切られており、中は10畳程ありそうな畳部屋で、物が少なくこざっぱりした部屋だった。
「どこに設置されますか?お手伝いさせてください。」
犬塚は、玉木の申し出に感謝して、設置後の位置調整をお願いすることにした。
「じゃあ、私が設置した後に映像をチェックするので、位置調整等おねがいしてもいいですか?」
「わかりました!」
カメラは、玉木の布団を頭側、天井、足元、横川からの4方向で囲むように設置した。
犬塚はモニターで映像をチェックしながら玉木に指示を出し、微調整をしてもらい、設置や機器の調整が終わった頃には、すっかり夕刻になってしまった。
「お手伝い頂きありがとうございました。時間かかっちゃってすみません。お腹すきましたね…。この辺にコンビニかスーパーはありますか?」
犬塚は、今にもグゥと鳴き出しそうな腹を擦りながら玉木に尋ねた。
「あ、お夕飯用意してありますよ。あ、アレルギーとかはありませんか?」
「え、ご一緒しちゃって良いんですか?アレルギーは無いです。気を使わせてしまってすみません。あ、でも夜通し起きるつもりなので、やはり1度買い出しには行っておきたいです。」
腹ぺこだった犬塚は素直に玉木の申し出を喜んだ。
スーパーには夕食後に、玉木に案内してもらいながら行くことになった。
玉木が作ったという料理はどれも美味しく、会話も弾んで楽しいひと時をすごした。
夕食の後片付けが済んだ後、助手席に玉木を乗せ、早速スーパーへと出かた。
カフェイン飲料や栄養ドリンク、軽食を買い込む。
玉木へ戻る道中、犬塚はふと思った。
「そういえば…心霊現象ってのは、寝てる時しか起こらないんですか?」
犬塚がカメラを設置して、夕飯をご馳走になった長い時間の間、特に何も無かったなーと犬塚は思った。
「うーん、実は数ヶ月前から視線や気配を凄く感じるんです。起きてる間はそれだけなんですけど…。あと、犬塚さんが来てからは何も感じないです。
以前、何度か友人が遊びに来てるんですが、何か感じてるような素振りもなかったので、もしかしたら、他人が居る時は隠れてるのかも…?」
「な、なるほど。そうなんですね~。」
(気配や視線だけ…しかも、一人でいる時だけかぁ~)
いよいよ精神的な問題な気がして、犬塚はため息が出そうになった。
玉木と話してみて、良い人だなぁと思っただけにくらい気持ちになった。
家に着くと、玉木に風呂を勧められて入った。
もちろんその間も、特に霊現象は無かった。
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