聖女の私は妹に裏切られ、国を追放することになりましたがあなたは聖女の力を持っていないですよ？〜国を追放され、劣悪な環境の国に来た聖女の物語〜

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　昼食には命に感謝しながら熊肉を食べた。彼女自身、熊の肉は初めて食べたのだが、非常に美味であった。

「では、クロスさん。もう一度、山に行きましょう」
「またか？」
「ええ。それに今度は二人で行きましょう」
「危険だと言っているだろう。猟友会の人を連れなくては」
「猟友会の方は明日まで忙しくてこちらに構っている場合ではありません。早いうちに終わらせたほうがいいですし、行かないと言うのなら私一人で行きます」
「おい、待ってくれ。分かった。ただ、あまり無茶なことはしないでくれ」
「はい、分かりました」

　彼女は昼食を食べ終わった後、すぐに行動に移すことにした。聖女としての力が本物なら、あの山をもう一度自然で溢れさせることなんて造作もない。獣たちも困っていることであろうし、出来るのなら早めにやってしまいたい。

　今度は二人で山を登る。効果を全体に行き渡らせたいため、中央に行きたいのだが、無名の山はそれほど険しくなくとも山に慣れていない二人からすればそれはとても険しい道のりに感じた。

「山頂付近に着いたみたいです」
「すごい疲れた。街もあんな下まである」
「ここら辺でいいでしょうね」

　山登りをすること数十分。ようやく山頂に着いた頃には二人とも息が絶え絶えであった。山頂から望める景色というのはお世辞にもいいものとは言えない。それも全部木が枯れ、この山が死んだように見えてしまうからだろう。なんと寂しいものか。

「では、ぱぱっとやってしまいます」
「ああ、頼んだ」

　彼女は呼吸を整えて地面に膝をつけ、祈るようなポーズをとった。たちまち、ざわつく山。風一つなかったというのに、地面に落ちていた枯葉が踊り出す。いつ見ても不思議なものだとクロスは思う。しかし、今更驚くほどではない。

「これでいいですね。効果がで始めるのが今日の深夜。完全に山が自然を取り戻すのは三日前後でしょうか。経過観察しないといけないので四日程度はこの街にいたいですね」
「そうか、分かった」

　特段、山に変化はない。しかし、今ではすっかりクロスもそれについて何も思うことはなく、いずれ山が変わると信じ切っているようであった。

「暇な時間ができてしまいましたね」
「そうだな。では、寄りたいところに行ってもいいだろうか」
「ええ、構いませんよ」
「私の服を作ってくれる店でな。ここに来たら一度挨拶をしようと思っていた」
「それはしないといけませんね」

　そういえばここは衣服の生産地でもあったと思い出す。クロスの服がここの特注であると以前に話していた。街に戻り、クロスについて行く。公爵の地位であるクロスが特注するほどであるのだから店もそれは豪華なものであると思っていたが、予想外にもそれは路地裏近くにポツンと佇み、言われなければ服を売っている場所だとは思わないような外見であった。

「失礼する」

　クロスは迷いもせずに店に入る。店内というのは外見に似合わず、ちゃんと服屋の内装であった。ドレスもあり、スーツもある。それに最上級品とまではいかなくとも、高級品であることには変わりない服しかなかった。

「店主、いつもありがとう。前のスーツもよく出来ていた」
「気にするな。感謝したいのはこちらの方だ。廃業寸前のこの店に特注品の依頼をくれたから今こうして生きている」
「それは店主の技術が優れていたからだ。私のおかげではなく、店主の努力のおかげだ」
「どうだかな」

　店主とクロスが話をしている横で暇を持て余した彼女は店内を見て回る。彼女は一番奥にあった白色のドレスが気になったようだ。

「それは結婚式用のドレスです」

　横の扉からニュルっと顔を出してきた彼女にアデリーナは恐怖のあまり声を出せなかった。

「と、とても綺麗ですね。素材もいいものですが、これを作った方の技術もとても素晴らしいものだと思います」

　アデリーナはなんとか声を出す。まさか横から不意に来るとも思いもしなかった。

「うちの夫が作ったんですよ」
「へえ、そうなんですか。この技術があれば、クロスさんが特注で作ってくれるのも納得です」

　彼女自身、身分上高級品の服に触れる機会は多く、違いについてもある程度知っているつもりだ。だから、これが相当な技術をもってして作られたことが分かる。それが店主の技術であると知ったのなら、クロスがわざわざここで特注する意味にも頷けた。

「着てみますか？」
「いえ、申し訳ないですし」
「将来のためにも一度着てみましょうよ」
「あ、ちょっと！」

　店主の奥さんも歳がだいぶ取っているというのに力は強くいかないように踏ん張っていたアデリーナを奥の部屋へと連れていってしまった。