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番外編 ランダル・レリフォルの婚約者パメラ
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ある日パメラがランダルの家に行くと先客がいた。パメラが誰かしらと思う間もなく声がして、パメラのお腹に温かいものが巻き付いた。
「パメラお姉さま!」
ランダルの妹であるナリスだった。何度もランダルの家に行っているうちに、ナリスはパメラをそう呼んでくれるようになった。初めて呼ばれた日には思わず卒倒しそうになり、後ろに立っていたランダルが支えてくれなかったらきっとパメラは地面とお友達になっていたことだろう。
今日もナリスは、パメラのもとに飛んできてくれた。と同時にものすごい殺気を感じた。パメラも伊達に剣の稽古をしているわけではない。すぐにその殺気に気づいてそちらに目をやった。それは、ジョイナス王子のものだった。ジョイナス王子はものすごい視線をパメラにぶつけてきた。
ブルっと訳もなく体が震えた。気が付けば身震いしている自分がいた。お茶会ではあんな顔見たことないなと唖然としていると、声がした。
「パメラ大丈夫?」
気が付けばすぐ横にランダルが立っていた。パメラが何か言おうとする前にまた声がした。
「ナリス!」
「はあい!」
まるで先ほどとは違うやわらかい顔でナリスを呼んだのは、ジョイナス王子だった。ナリスもジョイナス王子に呼ばれて、パメラに「じゃあね」と笑いながらそういって、ジョイナス王子の元に戻っていった。パメラはその様子をただ黙って眺めていた。もうジョイナス王子はパメラに目もくれない。自分の膝に抱っこしたナリスをいとおしそうに見ている。
ランダルがその様子を見て、パメラの手を取り庭へと導いていった。ジョイナス王子に聞こえないところまで来た時だ。
「駄目だよ、あんな顔をしちゃあ」
「あんな顔?」
「そう、ジョイナス王子を見た時の顔だよ」
そうランダルに言われて、パメラははっとした。確かにジョイナス王子の殺気だった視線を受けて、自分もすごい顔をしていたかもしれない。
「でも~」
そうパメラが言った時だ。
「僕にもあんな視線を向けてくるんだよ。王子はね」
「えっ」
ランダルの言葉にパメラはびっくりするほかなかった。ランダルはナリスの兄だ。兄にまであんな目をするのかと驚いてランダルの顔を見た。
「ナリスは将来ジョイナス王子の婚約者になる。ジョイナス王子が決めたからね」
そういったランダルの顔は、少しあきらめ顔だった。
それからよくジョイナス王子と会うことになった。なぜならランダルとナリスが王宮に上がるときに、パメラも一緒に呼ばれるようになったのだ。もちろんランダルのレリフォル公爵家でもよく会う。
パメラがよく観察していると、やはりジョイナス王子のナリスへの独占欲には驚かされるばかりだった。パメラにはもちろんの事、本当に兄であるランダルにも嫉妬しているのが丸わかりだ。ただ王宮でのお茶会やパーティーなどナリスがかかわらないときには、至極普通な爽やかな王子にしか見えない。きっとこの王子がおかしいのを知っているのは、ナリスとよく行動を共にしているランダルやパメラだけだろう。
ジョイナス王子のレリフォル公爵家への度重なる訪問に、婚約者候補としてナリスの名前が挙がるようになった。ただそれはナリスが、周りの多くの貴族の子女を敵に回すことにつながった。
パメラはランダルと婚約したが、パメラの実家であるチェイス家が後ろについていることと、パメラの見かけと違う豪胆な性格のおかげで、パメラは嫉妬されることはあっても嫌がらせを受けることもなかった。
しかしナリスは違う。レリフォル公爵家という大きな後ろ盾がありながら、まだ幼いこととおとなしい性格が災いして陰で嫌がらせを受けることとなった。パメラがいつもナリスから目を離さずに見守っているが、少しでも目を離すと意地悪な言葉を受けたりする。
そんなことが何回か続いたあと、今日のパーティーで、パメラはジョイナス王子と話す機会ができた。今日のパーティーは、まだ幼いナリスは出席していない。今日も仮面をかぶっている王子を横目に、パメラがランダルに毒づいていた時だ。
「やあ楽しんでいるかい」
突然ジョイナス王子の声が、すぐそばで聞こえた。ジョイナス王子は、皆に見せる爽やか王子の顔でパメラとランダルの元へ来た。パメラはあからさまにいやな顔をしたが、ジョイナスはどこ吹く風で話しかけてきた。
「いつもナリスを守ってくれてありがとう」
ジョイナス王子がいつもと違い、パメラにお礼を言ってきた。
「明日、雪でも降らなければいいけど」
パメラは、つい王子相手にいってしまった。ちなみに今は初夏だ。
「困った者たちだよ。わたしのかわいいナリスに嫌がらせをするなんて」
そういったジョイナス王子の顔は笑顔だったが、目が怖かった。あまりにパメラから見てもすごい目をしていたので、それ以上ジョイナス王子に言えなかった。
「じゃあ楽しんで!」
そういってジョイナスは、穏やかな笑みを浮かべてまた人の輪に入っていったが、パメラは見た。
人のいい笑みの下で、ナリスに意地悪をした家の者たちだけに冷たい視線を向けていたことを。そして直接ナリスにいったものには、言葉巧みにほかの貴族たちにそのものを排除させるように仕組んでいたことを。
この時からパメラは、ある意味ジョイナス王子に対して認識をあらためたのだった。
「パメラお姉さま!」
ランダルの妹であるナリスだった。何度もランダルの家に行っているうちに、ナリスはパメラをそう呼んでくれるようになった。初めて呼ばれた日には思わず卒倒しそうになり、後ろに立っていたランダルが支えてくれなかったらきっとパメラは地面とお友達になっていたことだろう。
今日もナリスは、パメラのもとに飛んできてくれた。と同時にものすごい殺気を感じた。パメラも伊達に剣の稽古をしているわけではない。すぐにその殺気に気づいてそちらに目をやった。それは、ジョイナス王子のものだった。ジョイナス王子はものすごい視線をパメラにぶつけてきた。
ブルっと訳もなく体が震えた。気が付けば身震いしている自分がいた。お茶会ではあんな顔見たことないなと唖然としていると、声がした。
「パメラ大丈夫?」
気が付けばすぐ横にランダルが立っていた。パメラが何か言おうとする前にまた声がした。
「ナリス!」
「はあい!」
まるで先ほどとは違うやわらかい顔でナリスを呼んだのは、ジョイナス王子だった。ナリスもジョイナス王子に呼ばれて、パメラに「じゃあね」と笑いながらそういって、ジョイナス王子の元に戻っていった。パメラはその様子をただ黙って眺めていた。もうジョイナス王子はパメラに目もくれない。自分の膝に抱っこしたナリスをいとおしそうに見ている。
ランダルがその様子を見て、パメラの手を取り庭へと導いていった。ジョイナス王子に聞こえないところまで来た時だ。
「駄目だよ、あんな顔をしちゃあ」
「あんな顔?」
「そう、ジョイナス王子を見た時の顔だよ」
そうランダルに言われて、パメラははっとした。確かにジョイナス王子の殺気だった視線を受けて、自分もすごい顔をしていたかもしれない。
「でも~」
そうパメラが言った時だ。
「僕にもあんな視線を向けてくるんだよ。王子はね」
「えっ」
ランダルの言葉にパメラはびっくりするほかなかった。ランダルはナリスの兄だ。兄にまであんな目をするのかと驚いてランダルの顔を見た。
「ナリスは将来ジョイナス王子の婚約者になる。ジョイナス王子が決めたからね」
そういったランダルの顔は、少しあきらめ顔だった。
それからよくジョイナス王子と会うことになった。なぜならランダルとナリスが王宮に上がるときに、パメラも一緒に呼ばれるようになったのだ。もちろんランダルのレリフォル公爵家でもよく会う。
パメラがよく観察していると、やはりジョイナス王子のナリスへの独占欲には驚かされるばかりだった。パメラにはもちろんの事、本当に兄であるランダルにも嫉妬しているのが丸わかりだ。ただ王宮でのお茶会やパーティーなどナリスがかかわらないときには、至極普通な爽やかな王子にしか見えない。きっとこの王子がおかしいのを知っているのは、ナリスとよく行動を共にしているランダルやパメラだけだろう。
ジョイナス王子のレリフォル公爵家への度重なる訪問に、婚約者候補としてナリスの名前が挙がるようになった。ただそれはナリスが、周りの多くの貴族の子女を敵に回すことにつながった。
パメラはランダルと婚約したが、パメラの実家であるチェイス家が後ろについていることと、パメラの見かけと違う豪胆な性格のおかげで、パメラは嫉妬されることはあっても嫌がらせを受けることもなかった。
しかしナリスは違う。レリフォル公爵家という大きな後ろ盾がありながら、まだ幼いこととおとなしい性格が災いして陰で嫌がらせを受けることとなった。パメラがいつもナリスから目を離さずに見守っているが、少しでも目を離すと意地悪な言葉を受けたりする。
そんなことが何回か続いたあと、今日のパーティーで、パメラはジョイナス王子と話す機会ができた。今日のパーティーは、まだ幼いナリスは出席していない。今日も仮面をかぶっている王子を横目に、パメラがランダルに毒づいていた時だ。
「やあ楽しんでいるかい」
突然ジョイナス王子の声が、すぐそばで聞こえた。ジョイナス王子は、皆に見せる爽やか王子の顔でパメラとランダルの元へ来た。パメラはあからさまにいやな顔をしたが、ジョイナスはどこ吹く風で話しかけてきた。
「いつもナリスを守ってくれてありがとう」
ジョイナス王子がいつもと違い、パメラにお礼を言ってきた。
「明日、雪でも降らなければいいけど」
パメラは、つい王子相手にいってしまった。ちなみに今は初夏だ。
「困った者たちだよ。わたしのかわいいナリスに嫌がらせをするなんて」
そういったジョイナス王子の顔は笑顔だったが、目が怖かった。あまりにパメラから見てもすごい目をしていたので、それ以上ジョイナス王子に言えなかった。
「じゃあ楽しんで!」
そういってジョイナスは、穏やかな笑みを浮かべてまた人の輪に入っていったが、パメラは見た。
人のいい笑みの下で、ナリスに意地悪をした家の者たちだけに冷たい視線を向けていたことを。そして直接ナリスにいったものには、言葉巧みにほかの貴族たちにそのものを排除させるように仕組んでいたことを。
この時からパメラは、ある意味ジョイナス王子に対して認識をあらためたのだった。
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